ゲームと電話とタバコ
「失礼する」
「「おかえりなさい!」」
「「お疲れさま」」
太一の家に着いた朱鷺を出迎えた人数4人
「……あー、すまぬ。どちら様だったかな。」
「酷っ!!俺っすよ、長生 悟ですよ!!」
「あぁ、ちんけなストレスで歌も歌えなくなった歌手か。」
「否定できないっすけど、少し心が痛む!!」
太一が「朱鷺ちゃんこっちに座ってね」と誘導。
彼女が座ると同時に焼く準備に取り掛かる。
「で、何故貴様がいるのだ。」
「いやぁ、ちょっと困ったことになりまして。」
「そうか、それは大変だな、頑張れ」
「だから扱いが酷いって!」
「貴様ごときに取り合ってる暇はない。」
「そこを何とか頼みます!!」
食い下がる悟にため息をつく朱鷺。
その後ろには藤、北斗、太一の姿。
現状にその余裕はない。
藤も北斗もわかってはいるのだが、
悟のあまりの必死さを止められずにいることに、
申し訳ないのか、気まずそうに黙っている。
「聞くだけ聞いてやる。」
ぱぁっと喜ぶ悟は鞄の中から
「これなんです!」とあるものを取り出した。
「「「・・・・・・・・・」」」
三人が言葉を失う。
悟はあれ?という表情。
げんなりした朱鷺が声を振り絞って聞いた。
「……一応、聞いておこう。それは何だ?」
「携帯ゲーム機ですよ!?知らないっすか!?」
「悟君、荒方さんは”一応”って言ってるよ。」
「俺らが聞きたいのはそういうことじゃないってこと。」
地味に藤と北斗からの少し怒りのこもった援護射撃に
びくりと体を震わせた悟。
「いや、今流行りのゲームがありまして。」
「へぇ。」
「今度、そのイベントに参加することになったんです。」
「ほぉ。」
「で、このゲームが難しくて!」
「ふぅん。」
「助けてください。」
「「「一人でやってろ」」」
「そこをなんとかぁぁああ!!!!!」
三人の息の合った突っ込みに泣きつく悟。
朱鷺は出来上がったお好み焼きを黙々と食べ始め、
藤と北斗は『本当にごめん荒方さん』と心の中で
必死に謝りまくっていた。
「でもさ、このゲーム意外と面白いんだよー」
朱鷺の分を一通り焼き終わった太一がニコニコと話す。
「面白かろうが自分でプレイするしかなかろう。」
「それが、これって最大4人で協力プレイ出来るんだよねー」
どこからともなく、ゲーム機を取り出す太一。
悟と一緒にニコニコしながらゲームを起動させる。
目の前でプレイしながらゲーム内容を説明。
「……いや、ゲームなどしたことないぞ、私は。」
「え!?超意外っすね!!
荒方さんぐらいの年頃ならがっつりしてそうなのに!!」
「貴様は私の年齢なぞ知らんであろう。」
「え、いくつなっ…あちぃ!!!!」
熱々のお好み焼きを太一の手によって放り込まれる。
「悟君、女性に失礼だよ?」
「す、すみません…。」
見たことのない彼の冷たい視線に全員の血の気が引く。
「でも、朱鷺ちゃんならすぐにできそうな気がするけどなー?」
「まず購入してこなければ…。」
またもやどこからともなく、すっとゲーム機を出してくる二人。
「これでいつでも4人参加オッケーっすね!」
「4人って……。」
「藤くんか北斗くんでも全然いいよ!」
「悪いけど、俺はパスかな。」
間髪入れず、爽やかな笑顔で拒否する藤。
「じゃあ、朱鷺ちゃんと北斗くんだねー♪」
「いや、だから私は……。」
「大丈夫大丈夫、僕がちゃーんと手取り足取り教えてあ・げ・る!」
「その必要は一切ないから大丈夫だ。」
「まず最初はキャラクターを決めてー…」
と、4人が話し始めたところで、藤の携帯が鳴った。
画面に映る名前を見て思わずしかめたが
朱鷺の察しのついている視線に気づいて苦笑する。
大丈夫、と店の外に出て応答した。
[―――あら、出てくれたのね。]
変わらないその口調にため息を付きたくなったが呑み込んだ。
「何か御用ですか、桜さん。」
[何かとは随分な言い方をするのね、藤。
そんなに私の連絡が嫌なのかしら?
今月はいつ会いに来てくれるの?]
「俺は………。」
電話口の向こうで上品な笑い声をあげる桜。
[ねぇ、藤。
今ならまだ許してさしあげられるわよ?
荒方朱鷺に何を吹き込まれたのかは知らないけど、
あなたがするべき正しい道が何かはわかっているんでしょう?
まさか、本気で戻ってこないつもりじゃないわよね?
本気なら電話に出てくれないはずだものね?]
一気に畳みかけられる。
でるはずの言葉が、出したいと願う言葉が出てこない。
喉をつぶされたかのように息がつまる。
[もし、その気なら荒方朱鷺をつぶさなきゃいけないわね。]
どくんと高鳴った。
つぶす?
荒方さんを?
『もう2度と……』
朱鷺の優しい顔を思い出す。
―――あぁ、そっかあの人は…
思わず笑いが出た。
[何がおかしいの?]
突然の藤の笑い声に桜が怪訝な声を出す。
「あ、いや、荒方朱鷺という人間はいつも予想をはるかに上回るんですよ
だから、あなたが何かをしたら、また何をしでかすかと思って。」
[何を言っているの?]
「すみません、俺もよくわからないんです。」
[藤?]
荒方朱鷺は藤や北斗が迷っていても関係なく、
二人の笑顔のために誓いを立てた。
もし、今ここで桜に屈したとしても、
朱鷺がそれを許すはずもない。
無茶苦茶なのだ。
「申し訳ない、桜さん。
俺は確かに迷っている。
だけど・・・・・・・・・今、あなたに会うことは出来ません。」
精いっぱいの言葉を出した。
今の自分に出来うる限りの言葉だ。
ぷつりと電話が切れる。
怒らせたかもと思ったが、肩の力がどっと抜ける。
「ねぇ、あんたはいつもそうやって陰にいるんだね。」
「あららー気づいちゃってます?」
暗闇から姿を現したのは城酉 清理だった。
「んー、やっぱ俺もまだまだですねー
朱鷺さんに怒られちゃう♪」
何故だか嬉しそうな清理に
声をかけたことを少し後悔した。
「…わかるよ、そういうの少し敏感だから。」
「感じやすいってことですか?」
「言い方変えてもらえる?何か凄くむかつく。」
「ありがとうございます!」
「褒めてない。」
清理はおもむろにたばこを取り出して口にくわえる。
「たばこ吸うんだ?」
「あ、これたばこじゃないです。吸うミント。」
「は?何それ?」
「たばこっぽい雰囲気をかもしだしつつ、
くわえて空気を吸うだけで爽やかな空気が口の中に広がってリフレッシュ!
火も使わないし、煙もでないのでけっこうおすすめですよ。
朱鷺さんの発明ですけど。」
「・・・・・・・・・もらっていい?」
「どうぞ」
試しに吸ってみる。
確かにミントだ。
意外と気に入ったかもしれない。
「・・・・・・・・・耐える時ですよ。」
「え?」
「迷ったり、進めなかったり、先が見えなかったり…
そういうのって辛いじゃないですか?
でも、人生の中で絶対くるんですよね。」
「・・・・・・・・・あんたもあったの?」
「俺、けっこう昔はエリートやってたんですよ!
馬鹿みたいに金稼ぐことばっかり考えてて、
でも…そういうやつって回り見えなくなっても気づかなくて、
結局自滅するか、周りの馬鹿どもにはめられちゃうんですよね。」
そんな時、清理の目の前に現れたのが朱鷺だった。
「朱鷺さんが何してたのかは全くわからないんですけどね。
気が付いたら、会社も何もかも無くなってて、
ただ、あの人がそこで何かをしたんだって、それぐらい。
………何もなくなって怖くなった、だけど、朱鷺さんの目は
真っすぐで無茶苦茶綺麗だった、
だから、」
だから、ついていこうと思った。
具体的に何かをしたかったんじゃなく、
ただただ、彼女についていきたかった。
「がむしゃらに頑張ったんですけど、
やっぱり、大変なんですよね。
相手にもなかなかしてもらえなかったし、
ついていこうにも何かすぐいなくなっちゃうし
突然海外にも行っちゃうし。
だから、もう、まじかーって感じで、
俺は何もできないんだなって………。
そんな時ですよ、あの人なんて言ったと思います?」
「”耐えろ”?」
「そう、耐えろ、です。
今、お前は耐える時だ。
必死にもがいて、たくさん考えて、辛くても耐えて、」
――――そして乗り越えろ、そこで待ってる。
「だから、藤さんも”今は耐える”時だと思います。」
清理の真っ直ぐな瞳が朱鷺に重なる。
どうしてこうも、迷いない表情が作れるのだろうか。
ふと、うらやましく思う。
「ってか、藤さんってけっこう短気ですよね。」
「あんたたちはそういうとこもそっくりだね。」
「えぇ、朱鷺さんとそっくり!?超嬉しい!!」
『馬鹿らしくなってきた。』
次の瞬間、清理が真顔になり、
藤を背に隠し、辺りを見渡した。
何事かと藤も警戒したが、暗闇で何も見えない。
「確認を。」
清理が耳につけていたイヤホンに合図を送る。
「追わなくていい。」
朱鷺が中から出てそう指示した。
「しかし、」
「様子を伺っていただけだ。
追うのはやめておけ、お前でも危険だろう。」
「わかりました……野猿ですか?」
「いや、違う。何者かはわからんが、痕跡だけさがしておけ。」
「御意。」
すっと、清理は闇に消えていった。
「藤。」
呆然としていた藤だが、朱鷺に腕をひかれる。
「仙羽殿と馬鹿をどうにかしてくれ、帰れない。」
極端な現実に引き戻され、思わずため息をついた。




