フォローとイケメンと引っ張る手
「さぁさぁ、どんどん焼くから遠慮なく食べてねー!」
「いや、太一、俺達は荒方さんと違ってそんなに入らないから。」
「えへへーそうだよねー」
藤と北斗は太一の家で例のごとく
お好み焼きともんじゃ焼きを食べていた。
朱鷺は用があるといって二人を連れてきた後
すぐにどこかへ行ってしまった。
「ごめんね、太一。
いつもなら荒方さんも食べるはずなんだけど、
最近ちょっと忙しくしているみたいで。」
「ぷっ、大丈夫だよ、僕は気にしてないから、ふふふ」
「なんでそんなに嬉しそうなんだか・・・・・・・・・」
「だって、藤くんがそんな風に誰かのフォローしてあげるなんて、
本当に珍しくて、ずいぶん変わったなーって思っちゃったんだもん。」
『言い返す言葉がない。』
芽生えてしまった朱鷺への罪悪感からか、
どうにもこうにも彼女に対して気遣いをしてしまう。
北斗も多少なりともあるものの、
とくに藤に至っては何かと世話を焼いてしまう。
『藤は生粋の長男体質だからなぁ…』
ちなみに北斗も彼をフォロー出来ない。
「僕はいいことだと思うんだけどな。」
「そう?」
「だって、藤くん、初めて会った頃は噛みつく野良猫みたいだったんだし。」
「え?」
「野良猫?」
「あ、そっか、出会ったのは北斗くんより
藤くんの方が先だっから知らないか。」
『俺の知らない藤……』
思わず藤の顔をまじまじと見つめてしまう。
「いや、別に大した出会いじゃないよ。」
「え、でも、噛みつく野良猫って。」
「んふふー、教えてあげてもいいけどなー?」
珍しく太一がにんまりと意地悪そうな笑顔を見せた。
藤はなんだか居心地の悪さを感じた。
「……荒方さんに晩御飯はここで食べるようにメール入れとくよ。」
「交渉成立!!」
いそいそと自分の飲み物を準備して椅子に座る太一。
北斗はすぐさま朱鷺にメールを入れた。
「こほん、さて、それはそれは北斗くんに出会う一か月前くらいのことだったかなぁ」
それは、その日、太一が閉店の片づけをしていた頃だった。
「明日の仕込みはと……ん?」
何やら外が騒がしく何事かと思わず出てみた。
そこには壁にもたれかかる一人の男の姿。
顔には殴られたような痣と片足を引きずるような動作が目に入った。
そして遠くから何やら怒声みたいな声が聞こえ、
彼は眉間にしわを寄せた。
思わず、だった。
彼の手を掴んで店の中に引っ張り込んだ。
男はバランスを崩し、店内で転がる形になったが、
太一はすぐさま鍵をかけ、店の電気を落とした。
そのその数秒後、さっきの怒声と数人の足音が近づいてきた。
どこだ、なんだと騒がしかったが、また数秒後には去っていった。
安堵してへたり込んだが、はっと気づいて電気をつけて男に駆け寄る。
男の方は状態が呑み込めないのか驚いた顔で転がったままだった。
「大丈夫ですか!?」
ぱしんっと伸ばした手を払われる。
「余計なお世話だよ……」
「だけど!ケガしてるでしょ!?顔も痣がっ」
「芯食ってないから平気。」
「え、しん?」
「殴られた瞬間にあたる場所ずらしたら大したことないんだよ。見た目ほど。」
よろりと立ち上がる男だったが、がくんと膝から落ちた。
何事かと思ったが、すとんと椅子に座らされたことに気が付いた。
『いつの間に椅子が』
と慌てたが、その直後びっくりする力で顔を抑えられる。
「君は鏡見たことないの!?」
「は?」
「びっくりするほどのイケメンが顔に痣作っちゃダメじゃん!!」
「え?」
「んもー!!これだから無頓着イケメンはもったいないことするんだから!!」
なぜだか説教される男は、太一が準備してきた濡れタオルで顔を拭かれ、
傷には絆創膏、ひねった足首には湿布をあっという間に貼られた。
「君!名前は!?」
「え、あ、ふ、藤……。」
「僕は千羽太一、よろしくね!」
その真っ直ぐさがいつぞやの彼女を思い出し
言葉が出なかったな、と藤は思い出していた。
「もう本当にその時、僕びっくりしたんだからね!
顔は痣だらけだし、あちこち傷だらけだったし。
急に藤くんのお腹がなるし、ふふふ。」
「あ、いや、あの時は何か気が抜けたというか………」
『藤が恥ずかしがってる、何だか珍しいな。』
そのあとのことは聞くまでもない。
北斗には簡単に予想がついてた。
食べきれない量のお好み焼きもんじゃ焼きを焼いて、
藤がギブアップするまで食べさせた。
何があったかも聞かずに、
ただ、ただ、食べる彼を嬉しそうに眺めていたんだろう。
そしてこの一か月後に北斗は太一と出会う。
その日の北斗はただ、何の気もなしにぶらりと街中を歩いていた。
長年の”教育”に疲れたのか、
それまでは何をしていたかも思い出せはしないけれど、
思考など無く、目的もなく、ただぼーっとなった頭で徘徊していた。
やたら、人混みが多いなと思い始めた頃だった。
「あ、並ぶのこっちですよ!!」
わけもわからず引っ張られた。
気が付いたころには何かの列に並ばされていて、
引っ張った手の人間が何やら書き込んだだの、
どんなPRするやらだの話しかけてきた。
「……何の話?」
「え!だから公開オーディションですよ!」
少し覚醒して辺りを見渡すと、
会場と思われるステージが目に入り、
列に並んでいる人たちの手には申込用紙らしきものがあった。
「……いや、オーディションなんて受けないけど。」
「え!?そいうなんですか!?」
「ただの通りすがりだし。」
「そんなイケメンなのに!?もったいない!!」
「は?」
「ただのイケメンじゃないんですよ!?
なんかこう、色気を含んだっていうか、
フェロモンがあふれているというか、
エロかっこいい!!みたいな!!
自覚あるんですか!?」
『……無いよ。』
北斗が黙っているのもお構いなしにひたすら
いかに容姿がいいのかを説教交じりに力説。
突如、目の前に現れたこの奇怪な生き物に毒が抜けられる。
そっと頭を撫でてあげると、ようやく静かになった。
「まぁ、お詫びとお礼をかねて、
そのイケメンから一つアドバイスをするとしたら、
今の流行があるのかもしれないけど、
その鬱陶しい前髪は上げたほうがいいよ。
あと、きっちり整えるよりは少し動きをだしたほうが君には似合う。」
手櫛ではあるけれど、ヘアスタイルを変えてあげる。
近くのガラスに映ったその生き物は多少驚いたものの、
すぐに嬉しそうな顔をしてにっこりと笑った。
「ありがとう!!何だかかっこよくなれた気分!!」
「それは良かった。じゃ、オーディション頑張って。」
そう言って立ち去ろうとした時、がしっと手を掴まれる。
「僕は千羽太一です!名前を教えてください!」
「…北斗だけど。」
「じゃあ、連絡先をっ」
「次の人どうぞー」
気が付けば、受付が回ってきていた。
逃げられると思ったのだが、
「会場で待っててくださいね!」
「は?なんで?」
「僕がもっとお話ししたいからです!じゃあ、後で!!」
あっという間に受付に行ってしまった。
いや、そんなつもりは毛頭ないのだが。
『わけがわからない。』
会場を後にしようとステージ前に出来た人混みをすり抜けていく。
最後列のところまできた。
ぴたりと足が止まる。
『あぁ、面倒くさい』
興味など無かったはずなのに。
笑顔が焼き付いて離れない。
ステージを見た。
何かを感じるわけなど無い。
終わったら、頑張ったなと声でもかければいいのか。
心の底から重い空気が沸き上がる。
「「はぁ…」」
深いため息が二人分重なった。
隣だ。
一人の男と目が合う。
同い年ぐらいだろうか。
―――――息が止まる。
二人して合った目が離せない。
周りの音も気配も感じない。
わかったんだ。
この人だって。
見つけた。
その時、声はかけなかった。
理由はわからないけれど。
そのまま立ち去っていく彼の後姿を見えなくなるまで追っていた。
その直後、また手を掴まれて引っ張られる。
『女の人?』
見えなくなりそうだった後姿も捕まえられ一緒に引っ張られていく。
やがて路地裏に連れてこられて、
凄い形相の女の人は言った。
「あんたたち!芸能界に入りなさい!!」
これが北斗と藤と最氷やまねとの出会いだった。
『本当に俺たちの周りは引っ張る人が多い。』
思い出し笑いをする北斗に、
「どうしたの?北斗くん。」
きょとん顔の太一がきいたが、
「何でもないよ、荒方さんもう少ししたら来るって。」
そう返すと、またあの日と変わらない笑顔を見せてくれたことに安心したのだ。




