マグカップと悲鳴とボタン
「大変なんだ、助けてくれ蛍ちゃん。」
ガシャン!!
突如、繁牙 蛍の執務室に現れた朱鷺が開口一番でそう言うと、
顔の真横を繁牙のマグカップが勢いよく通り過ぎ、背後の壁で粉々に砕けた。
「出ていけ。」
「だから助けてほしいんだって。」
「貴様と話すことなどない。」
「いや、あるからここに」
「警部!大丈夫ですかっ・・・・・・・・・ひぃっ!!」
騒ぎを聞きつけた部下の半崎が慌てて入ってきたが、
朱鷺の姿を見るなり悲鳴をあげた。
「仕方ない、こっちの部下の方と話すか。」
「やややややややいやぁ!!!!」
「……出ていろ、半崎。」
「そ、それも嫌です!」
「なに!?」
「お、俺はもう逃げません!!」
「お前はわけのわからんことを!」
「刑事が上司の危機に逃げるなんて俺には出来ません!!」
真っ直ぐな視線を繁牙に向けた瞬間だった。
「そうか、頼もしい部下だな。」
その尊敬する上司の膝の上に腰かける朱鷺の姿を目にした。
「俺の警部ぅぅ~!!!!!」
堪えられなかったのか、泣きながら半崎は出て行った。
「相変わらず騒がしい男だな。」
「そういう問題では無かろう!!」
朱鷺は限りなく自然に彼の首に腕を回して顔を近づけた。
「さ、これで邪魔者はいなくなった。」
「いなくなったではないわ、馬鹿者!!」
引き剥がそうと朱鷺の腕を掴むのだが、
鉄の塊のようにまったく外れる気配がないどころか、
ぴくりとも動かない。
「先月の話を忘れたわけではあるまい!」
「まあ、そこはおいといて。」
「あれだけ啖呵を切っておきながら何の冗談だ!
だいたい貴様はどうやってここに!!」
「ほたるちゃんだって私を忘れられなかったんでしょ?
あとここにはちゃんと”ほたるちゃんに会いに来ました”って案内してもらったよ。」
ふっと繁牙の耳に息を吹きかけたので、
彼女の顎を全力で押返すが、
どうにもこうにも離れない。
「たのむよー、ほたるちゃんの力が必要なんだよー」
「思いっきり棒読みではないか馬鹿者!!
何故私が貴様に手を貸さなくてはならんのだ!!
ろくでもないデメリットしか無かろうが!!」
顎を押返していた手が、まるで赤子の手をひねる用に簡単に外された。
代わりに朱鷺はぐっと顔を近づけて視線をあわせる。
「お前の望みのものを渡してやろう。」
じんと突き刺すような視線に一瞬呼吸が止まる。
だが、彼女の指が彼の服のボタンを外してく感覚に我に返った。
「貴様は何をしておる!?」
「だから望みのものをあげるって。」
「なぜ服を脱がす!?」
「だって欲しかったでしょ?わ・た・し・を。」
「いらんわ!!まったくもって求めておらん!!」
「大丈夫大丈夫、すぐ夢中になるって。」
「いい加減にせんか!!!!!!」
朱鷺の胸倉をつかんで精いっぱい引き剥がす。
「私の…望んだものは、もうこの世にはない!
それは貴様がよくわかっているではないか!!」
「………形は多少違うが、可能だと言ったらどうする?」
繁牙の手から力が消える。
「………すぐには無理だが、もうすぐ可能になる。」
「それはどういう意味だ?」
「今は答えられない、だが、必ずお前に渡す。」
考えておいてくれ、と朱鷺は彼の膝から降りて部屋を後にした。
残された繁牙にはさっぱりわからない謎だけが残されたのだった。




