光と影とスーパーヒーロー
「ちょっと、どこに向かってるの!?」
桜が声を荒げた。
自宅に向かっていたはずなのに、道が違う。
同乗している男達も確認を求めているのだが、運転手は「大丈夫です。」と言うだけで戻ろうとしない。
やがて車がある場所に止まった。
ライトアップされていて周りがよく見えない。
だけど、藤の心はワクワクしていた。
何かに呼ばれるように、自然と外にでる。
すると、斜め前に同じように停車した車とドアから出て来たのは北斗だった。
彼も驚いた顔をしたが、思わず笑みがこぼれた。
まるで、呼べばやってくるヒーローみたいに、彼女は姿を現した。
「荒方………。」
車から降りた桜は忌ま忌ましそうに呟いた。
兵佳もやれやれと溜息をつく。
「荒方のお嬢さん、これは一体どういう事かな?」
「悪いが、うちの商品を返してもらおうか。」
「お嬢ちゃん、よくって?貴女に口出しは出来ないの。
この子達は自分で戻ると決めたの。それに、貴女の契約も今月いっぱいでしょう?」
桜の笑いにも、朱鷺は鼻で笑って返した。
「何の話だ?鬼婆。」
「何ですって?」
「私と最氷の契約は、あと半年残っている。仮では無く本契約がな。
私がマネージャーである限り、どんなに嫌がろうとも二人を辞めさせる事は絶対にさせん。」
朱鷺が契約を伸ばした事を明かした。
だが、二人は我に返る。
元々は、朱鷺の家族を守る為に家に戻る事を決意したのだ。
それに、
「しかし、お嬢さん。君の腕じゃマネージャーなど務まらんじゃろう?仕事が無くては話にならん。」
仕事は桜と兵佳に潰される。
まともに芸能活動出来るはずも無い。
だが、朱鷺は笑顔で指を鳴らした。
すると眩しかったライトが弱まる。
「「!?!?」」
彼女の背後から大きなジェット機が姿を現す。
「今から仕事先に向かわねばならんのでな、二人を渡してもらおう。」
「仕事ですって?」
「あぁ、仕事だ。まずはアメリカに行く。」
「「アメリカぁ!?」」
思わず藤と北斗が声を上げた。
だが、まだまだ続きがある。
「前々から話は流れて来たんだがな、中々タイミングが悪くて受けられなかったんだ。
それに加えて、この数日間でも立派に宣伝が出来たおかげで、
フランス・イタリア・イギリス、オーストラリアやロシアからも声がかかっている。
これから忙しくなりそうだ。」
「それは参ったな………。」
「そうだろうな、狸爺。貴様の守備範囲はアジア圏内。
かの周殿グループであっても、手は届かん場所だ。」
ましてや、先珠に至っては日本国内では大勢力だが、あくまで国内だけの話だ。
一歩、国外に出れば無名の勢力に過ぎない。
「貴様らの世界は随分小さいようだな……この世はもっと広い。
自分達の居る場所が全てだと思うな。外に出ればどんな可能性もあるのだからな!」
もし、藤と北斗が海外で活躍してしまえば、先珠はもとよりアジア一帯で裏の活動をしている周殿にとっては、後継者の顔を売ってしまう痛手になる。
あくまで、影のような行動が必要な世界ではそれだけは避けねばならないのだ。
「手を引け、周殿・先珠。そうすれば海外行きは無しにしてやる。」
桜と兵佳は視線を合わせると、溜息をついた。
「これで全て済むと思ったら大間違いよ。」
苦虫を潰したような表情で桜は車に乗り込んだ。
兵佳のほうも苦笑いを浮かべて、車でその場を去ったのだ。
「………本当にあんたって人は、」
そう藤が言いかけた瞬間、彼と北斗の額を力強く中指で弾いた。
「痛っ!!」
「手加減無しかよ……。」
「貴様らがふざけた真似をするからだ。」
「だって、あんたは!」
「なんだ?」
「……………。」
「何なんだ。」
「家族いるでしょ、大事な。」
「だから何だ。」
「あの人達を相手にすれば、無事じゃすまないって事ぐらい知ってんだろ!?」
思わず声を荒げた北斗。
だが、朱鷺は呆れたような表情で答えた。
「親父殿はヨーロッパの大企業の頭だ。
あ奴らもそれを知っていて、迂闊に手を出せない事もよくわかってる。」
もう声が出てこない。
いや、考えれば良かった。
この荒方 朱鷺の父親だ。
ただ者じゃ無い事ぐらい予想出来たはずだ。
何とも言えない想いに、言葉を無くしていた二人をよそに朱鷺は近くにいた清理を呼んだ。
彼は先程、先珠の運転手として乗り込んでいた。
ちなみに周殿のほうには別の仲間が乗り込んでいた。
「清理、二人を家まで送れ。」
「承知しました。」
そう言って彼はすぐに車を運んできた。
「藤、北斗。悪いが、この車で先に帰ってくれ。運転手は信用のおける私の下僕だ。」
「そりゃ、すっごい安心だわ。」
「どうかしたの?」
「気にするな。ちょっと片付ける事があるだけだ。」
腑に落ちなかったが、彼らは大人しく車に乗り込んで帰って行った。
朱鷺は他の手下達にジェット機やライトの片付けを指示すると、スタスタと暗闇に向かって歩く。
「大人しく出てこい。」




