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キャンセルと契約と握り締めた手

 また数日後の事だ。

 知らせを受けた朱鷺は、眉間にしわを寄せる。


「………わかった。」


 もはや何度目の同じ連絡だろうか。

 溜息をついて、手帳に書き込む。


「また仕事キャンセル?」

「………………あぁ。」


 北斗の苦笑いに対し、朱鷺はしかめ面全開で肯定する。

 それこそ何度目のやり取りだろうか。

 最終的に、二人のキャリアで初めての一週間オフになってしまった。

 恐らく、その先の予定も白紙にされるであろうと容易に予想がつく。


「ま、珍しい長期休暇と思えばいいよ。」


 藤に至ってはウキウキとやたら時間がかかる念願のレシピを仕込んで満喫しているのだ。

 それはそれで良いのかもしれないが、そんな事が一ヶ月はもつまい。

 むしろ、一ヶ月も続いてしまっては、それこそ名声の終わりというものだ。


「……………荒方さん、もしよければ、」

「断る。」

「まだ何も、」

「今ここで貴様らの両親に頭をさげれば、それは藤とHOKUTOの引退を決定するのも同じ事だ。

 それは私の仕事ではあってはならん事だ!!」


 案の定、見抜いていた彼女は一息で片付けた。

 だが、北斗は困ったように笑いながら提案を続けた。


「君の仮契約は今月いっぱいでしょ?

 ならば今月までは仕事をさせてくれって頼んでみるよ。

 それぐらいなら、あの人も聞いてくれるだろうし。」


 北斗に無言で睨みをきかせるのだが、彼は「どうやったら納得してくれるのか。」と苦笑いを浮かべる。


 そう、次々と仕事がキャンセルになっている理由は、ずばり周殿 兵佳と先珠 桜が裏から手を回して潰しているからである。

 いくら人気者だからと言っても、芸能人と裏世界の首領達とでは格が違い過ぎる。

 望んでいなくとも、相手側はキャンセルをせざる得ないのである。

 それほど周殿と先珠は恐ろしい力を持っているのだ。


「ねぇ、君の父親も俺達の親と関係しているの?」


 キッチンのほうから昼食を運んできた藤が朱鷺に聞いてみた。


「……何故、親父殿?」

『親父“殿”?』

「いや、この間、桜さんが父親がどうのとか言ってたから。」

「………あぁ、そんな事もあったな。」


 本気で忘れていたらしく、しばらく考え込んだ後、ようやく思い出した。


「言いたく無いなら言わなくてもいいんだけど。

 ちょっと聞いてみたいなって。普段、そんな話しないし。」

『あと、こんな破天荒な人を育てあげたんだもんな。』


 二人がそわそわと本当に聞きたそうだったので、朱鷺は話す事にした。


「仕事はまぁ、簡単に言えば会長だな。

 いくつか大きい事業を抱えておられるのだ。それで、鬼婆と狸爺は知っているんだよ。」

「ま、そうだよね。」

「親父殿は父親と言っても、私とは血が繋がっていない。」

「え。」

「私の父親だった人間の古い友人でな、

 父親が随分前に亡くなった時に私を引き取ってくださったんだ。」

「「………………。」」

「だがな!親父殿はとても素晴らしい方でな!私を本当の娘のように育てて下さったのだ!」


 藤と北斗は内心驚いた。

 彼女が子供のような笑顔を見せたから。


「父親が亡くなって随分危険な状態に陥ったのだがな、

 親父殿はぴしりと周りの人間を一喝して、私を守ってくださったし、

 それに、身の守り方や仕事もたっくさん教えてくださってな!

 今、こうして私が好きな仕事が出来るのも、全部親父殿のおかげなのだよ!!

 それとな、昔に…」


 次から次へとよく喋る。

 普段から饒舌ではあるが、これはまたその類いとは全く違う饒舌だ。

 何が違うって、こんなに嬉しそうに自慢げに熱く語る彼女を誰が想像出来よう。

 多分、やまねも知らないのではないだろうかと思った。


「あ、すまん………退屈な話だな。」


 突然エンジンが切れたようにしゅんと萎んでいく彼女にまた驚く。


「いや、退屈じゃないよ?」

「ブラコンだと思ったのだろう?」

「……………ファザコンじゃなくて?」


 しばらく悩んだ後、「そうとも言うな。」と微妙な表情で呟いたので、「はいはい。」と軽く流しておいた。


******************


 その夜だ。

 朱鷺が風呂に入っている間、相変わらずドライヤが嫌だと駄々をこねる北斗相手に藤が髪を乾かしてやっていた。


「ねぇ、藤。」

「荒方さんは辞めさせたほうがいいだろうね。」


 まだ一言も言ってないのに藤はぴたりと言い当てた。

 髪も乾いたのかドライヤを止める。

 北斗はソファの隣をぽんぽんと叩いて藤を座らせる。


「俺もそう思う。あんなに大好きなのに、俺達に巻き込まれたらただじゃ済まなくなる。」

「幸せな家庭まで壊したく無いよね。」


 二人は決して幸せでは無かった。

 藤は詐欺を教えこまれ、山ほど女性を騙してきたし、馬鹿みたいな大金を貢がせてきた。

 それは幼少期からみっちりとその手の事を叩きこまれてきたからで、月に一度会いに行っているが、そこには幼い頃から育まれてきた逆らえない恐怖があるからであり、決して愛情では無い。


 北斗も同じく、幼少期から将来に必要なありとあらゆるえげつない事を教えられてきた。

 少しでも逆らえば、自分の大切にしていたものを全て破壊されたのだ。

 兄の優李は守ってくれていたが、全てを守れるわけでは無い。

 恐怖心だけが、彼と兵佳を繋いでいる。


 二人は静かに手を重ねた。

 家に戻るという事は一緒にはいられない。

 もしかしたら、二度と会えないかもしれない。


「離れたくない。」


 そう言いたいのに、言う事すら出来なかった。

 でも、どんなに離れても心は通じていると、想い合ったのだ。

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