本当の目的と過去とヒール
それから数日過ぎたが、先珠や周殿からは何の音沙汰も無く、平和に過ごした。
いつものように彼らを現場まで送り届けた朱鷺は最氷プロダクションの事務所のやまねの元を訪れていたのだ。
「突然来るなんて珍しいわね。何かあった?」
「先珠 桜と周殿 兵佳が直々に自宅前に現れた。」
「……………。」
「誰かぐらいはわかっているだろう?」
「そんなに怖い顔しないでよ。」
「私が言いたい事もわかっているのだろう?」
未だかつて無いほどの威圧感がそこにあった。
彼女から目を反らしたいのにも関わらず、野獣に睨まれたかのようにやまねは指一つ動かせない。
だが、朱鷺はそこで引く女では無い、つかつかとやまねのデスクの前までやってきて、両手で力いっぱいデスクを叩いた。
思わず肩をびくりと震わせてしまう。
「答えろ、やまね。貴様が私をあやつらのマネージャーとして雇った本当の目的は何だ!?」
ずっと隠していた事だったが、流石にもうごまかす事は出来ない。
観念したやまねはついに口を開いた。
「藤と北斗を、先珠と周殿から引き離して。」
「は?」
「あの二人をあの親から完全に引きはがして欲しいのよ!!」
出て来た言葉に驚いたが、すぐ眉間にしわを寄せた。
「………お前、自分で何を言っているのかわかっているのか?」
「わかってるわ。」
「あの先珠と周殿を相手にするのだぞ?いくら業界大手の最氷プロダクションとは言え、
格の違いが大き過ぎる。ただじゃ済まされ無い。」
「覚悟の上よ。」
「お前だけじゃない、この会社に関わる人間全てが危険になる!
下手をすれば命だって危うくなる可能性もあるんだぞ!?」
「そんなもの、とうの昔に覚悟をしてるわよ!!!!!」
やまねが立ち上がる。
その瞳には、迷いなど無い真っ直ぐな強さがあった。
「………何故、そこまであの二人に執着する?そんなに価値があるというのか?」
「価値?それは今のあなたならわかるでしょ?」
やまねは大きくゆっくりと息を吐き出した。
そして、朱鷺に向き直り、静かに話しはじめた。
「私ね、初めてあの子達に会った時、
もう今まで感じた事無いくらい、ずばばばばばーん!と衝撃を受けたわ。
周りは混雑しててたくさん人が居て、気をつけないと迷うかもっていうぐらい人の多い場所。
それなのに、不思議と目が離せない男が二人いたのよ。」
それが藤と北斗だった。
彼らはたまたまそこに居合わせただけだったのだが、やまねの目には群衆の中でまるで切り抜きをしたかのように二人にくぎづけになった。
次の瞬間、何も考えて居なかったのに足が勝手に走り出して、まずは北斗の腕を力いっぱい掴んで引っ張った。
勿論、この時の北斗は何が起こったのかわからなかったのだが、相手が女と知り、そのまま大人しく引っ張られた。
そして、やまねは次に藤を捕まえて無理矢理人気の少ない路地裏まで連れ込んだのである。
そして、二人を横に並べると、息を切らしながらやまねはこう言った。
「あんたたち!芸能界に入りなさい!!」
それが彼らとの出会いだった。
どういう訳か、彼らがわりとあっさり承諾してくれたおかげで、すぐに芸能界に入れられたのだが。
「そりゃ、先珠や周殿だって知って驚きもしたわよ。
でもね、あの子達が裏世界に埋もれてしまうなんて絶対に駄目!!
あの魅力は人の目に触れて輝くものよ!
証拠に、たった一度よ?
たった一度だけテレビに出ただけでこうして人気を得て来れたんだもの。
彼らの感性も魅力もたくさんの人が求めるもの。
他の誰にも真似出来ない、それだけの才能があるのよ!」
やまねの手が震えていた。
「一目見て、あの子達がどこか影があるってわかった……でも、その後すぐ笑顔を見せたの。
びっくりするぐらい純粋で優しくて眩しい笑顔。
あんな、笑顔出来る人間なんてそうそう居ない。
その一瞬で決めたのよ!絶対この子達を陽の当たる場所に連れてくって!
絶対、笑っていられる場所で守るって決めたのよ!!!」
やまねの両手が朱鷺の両肩を力強く掴む。
「荒方!あんたにとっても無茶だってわかってる。
想像以上に大変な事になるって思ってる………でも、お願いよ。
あの子達を裏業界から引きはがして!!貴女しかいないの!!!」
しばらく呆然としていた。
こんなにも必死で何かを頼まれたのは、人生で三度目だ。
ましてや、今まで以上に困難を極めるというのに、掴むその腕を振りほどない。
「………私は、」
「待って!」
言いかけようとして、やまねに止められた。
「よ、よく考えて頂戴!」
「……………。」
「あの子達にも言われてるのよ、あんたに無理強いはするなって。
しばらく待つからよーく考えてみて!ね!?」
『またか。』
こうして、また悩まなくてはならなくなったのだが、帰宅した藤と北斗に聞いてみた。
やまねと初めて会った日に何故、笑顔になったのかと。
「あー、だって、なぁ、藤。」
「そうだね。」
「勿体振るな。」
「社長ってさ、本当に全力疾走したみたいでさ。ヒールのまんま。
だから、路地裏まで連れて行かれた時にはヒールがぱっきり折れちゃってさ。」
「そうしたら、もう面倒だからって靴ごと脱ぎ捨てて、裸足で仁王立ち。
揚句、息切れ酷いのに凄い剣幕で“あんたたち!芸能界に入りなさい!!”だもん。
流石に、笑うって。」
そうやって話しをする二人は本当に楽しそうな笑顔を見せた。
きっとこれがやまねの言っていた笑顔なのだろうと、理解したのだ。




