表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/104

リムジンとヘリとモンスター

 六ヶ月。

 ついに半分までやってきた。

 お試し期間の終了まであと僅か。

 けれど、現実と心が噛み合っていない。

 ずっと聞いてみたかった。

 君はどこまでやってくれる?

 きっと君は“どこまでも”と答える。

 でも、覚悟が出来ていないのは俺達のほうなんだ。



[9月]



「忘れ物は無いか?」

「無い。」

「嘘ばっかり、はい、北斗。」

「あ、携帯。」

「鍵は私がかける。」

「「よろしく。」」


 相変わらず、朝はバタバタとする。

 でも随分様子は変わった。

 時間もまだ充分余裕があるし、走る必要も無い。

 あれから宣言通り“嫌がらせ”も起こっていない。


 毎日が“普通”に流れている。

 そんな事に北斗はどこか喜びを感じていた。

 藤は相変わらずクールで冷淡な態度だが、


「藤、食材はメモ通りでいいのか?」

「大丈………そうだ、荒方さんって市場とかで扱えない食材とかのツテってある?」

「物にもよるが、無ければツテを増やすから問題無い。」

「じゃあ、リストを後でメールするから、出来るならお願い。

 今日必要な物では無いから、いつでもいいよ。」

「承知した。」


 と、いった感じで自分を“藤”と呼ばせ、彼女の事を“あんた”とは呼ばなくなった。

 たいした事では無いが、彼にとってそれが重大な変化である事を北斗はよくわかっていた。


 車に乗り込んでエンジンをかけて発車する。

 そう、ここまでは何の問題も無かった。

 マンションの駐車場を出るまでは。


 車が入口を出た瞬間に、取付られていた装置がピーピーと鳴り出した。

 藤と北斗は何の音なのかわからなかったが、朱鷺が声をあげた。


「捕まっていろ!」


 次の瞬間、急ブレーキと共に車が横に滑り、一回転して止まった。

 何事かと顔を上げると、前方に黒いリムジンが道を塞ぐように止まっているのが見えた。


「嘘だろ………?」


 藤が思わず声を出すと、今度は車を挟んだ反対側からバリバリとプロペラの音が聞こえ始めた。

 視線をあげれば、ヘリコプターが上空から地上付近まで降りてきている所だった。


「冗談だろ?」


 今度は北斗のほうが声をあげる。

 朱鷺はアクセルを踏むと、駐車場の入口まで車を戻した。


「荒方さん!」

「二人はここにいろ。絶対に動くな。」

「だけど、」

「相手も目的もわかっている………だが、理由は後でお前達から聞く。」


 二人が頷くと、颯爽と彼女は車の前のほうまで歩いて行った。

 それに合わせるように、リムジンのドアを白スーツの男が開けて日傘をさす。

 もう一人は赤い絨毯を道路に広げて道を作った。

 調った所でようやく姿を現したのは、あの“婦人”だ。


 今度はヘリのほうから縄梯子を使って数人の黒スーツの男達が数人降りてきた。

 その男達は金色の絨毯を道路に敷き、タバコの準備を整えた。

 そして全てが揃うと彼らのボスがヘリから降りてきたのだ。


 婦人もボスもスーツを引き連れて朱鷺に近づいた。


「あら、珍しい顔ね。」

「ははっ、何年ぶりじゃかの。」


 そんな軽い挨拶を済ませると、二人揃って朱鷺の方へ向いた。


「久しぶりね、荒方のお嬢ちゃん。」

「ご無沙汰じゃの、荒方のお嬢さん。」


 ほぼ同時に朱鷺に声をかける。

 朱鷺は堂々とした態度で待ち受けた。。


「久しぶりだな、先珠 桜(さきだま さくら)周殿 兵佳(しゅうでん へいか)。」


 ただならぬ空気が漂うのだが、朱鷺は今までに見たことないほどの笑顔を作ってこう言った。


「相変わらずの化物婆(ばけものばばぁ)と、性悪狸(しょうわるだぬき)がこんな場所で何のご用か?」


 一気に緊張が高まった。


「…相変わらず、口の悪い事。そんなのではお父上も愛想を尽かしてしまいますわよ?」

「おっと、これは失礼。

 親父殿は私の素直過ぎる所が取り柄だと気に入って下さっておられるので、

 ついつい本心を口にしてしまった。」

「はっはっは。お元気そうで何よりじゃが、

 その元気が己の首を絞めないか、随分心配になりそうだの。」

「ご心配無く。私は相手に相応しい態度で接すると学んでいる。

 貴様ら相手に愛想など必要ない。時間の無駄だ、用件をさっさと話せ!」


 二人は顔を見合わせると、当たり前のように口を開いた。


「「“親”が“息子”に会いにきて何が悪い?」」


 車の中で朱鷺のやり取りに青ざめていた藤と北斗は諦めたように息を吐くと、ドアに手をかけたのだが。


「悪いな、これから仕事なんだ。何人たりとも邪魔はさせん。」


 レバーを何度も引くのだが、カチャカチャという空振りの音がするだけでドアが開かない。


「え、開かない。」

「チャ、チャイルドロック……?」

「荒方さーん!?」


 完全に車の中で監禁しているのだ。


「仕事なら気にしなくて結構よ?私の方から現場に話をつけておくから。」


 桜の合図にすぐに携帯が取り出される。


「馬鹿か。一流の芸能人が母親の電話で仕事を休むなど、

 恥ずかしさにもほどがあるだろう?

 だいたい40も近くになって今更、仕事に母親が口を出すなどどこのモンスターペアレントだ。

 おっと、時代遅れの鬼婆は、そんな流行の言葉などご存知無かったかな?」

「なんですって?」


 彼女の手中の携帯が、ミシミシと音をたてる。

 車中の藤はすでに寒気しかしない。


「まぁまぁ、確かにそれは一理あるな。

 今日はお嬢さんに免じて、引くとしようかの。

 じゃから、今度は先に連絡をしておくことにしよう。それなら構わんじゃろ?」

「予定が“合えば”許可しよう。」

「本当に生意気だこと……。」


 二人のボスが合図をすると、すぐに帰り支度が調えられ、彼らはあっという間に去って行った。


 朱鷺は溜息をつくと、車中の二人に睨みをきかせて自分も戻る事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ