写真と本心と結果
採点という名目の休憩時間、その間は別のコーナーを流しているそうだ。
「流石だな。」
「どうも、まぁまだ勝利が確定ってわけじゃないんだけど。」
楽屋にひょこっと顔を出したのは朱鷺だった。
北斗は噂になるのを避けるために、管理室で留守番している。
「お主が勝利目的でやってるようには見えんがな。」
当たり前でしょ、という表情を朱鷺に見せた。
「藤さん、少し打ち合わせをお願いしたいのでスタジオによろしいですか?」
「あ、はい。すぐに。」
スタッフが呼びに来たのですぐに立ち上がる。
部屋から出ても隣りで歩く朱鷺がじーっと見つめてくるので、足をとめる。
「何か言いたい事でもあるの?」
彼女はちょっと考えるフリをして、すぐに顔をあげた。
「………後で怒っても構わんが、私はお前を信じる事にする。」
「は??」
さっぱり訳のわからない言葉に、藤は顔をしかめる。
だが、朱鷺は表情を変えずに付け足した。
「だから、お前は私を信じろ。今日だけで構わんから。」
そう言うと彼女は管理室に戻って行った。
何一つ意味など捉える事も出来なかったのだが、朱鷺のあの真っ直ぐな瞳が何故か気持ちを安心させた。
自分らしく行け、と背中を押された気分だ。
軽く溜息をつくと再びスタジオに向かって歩き出した。
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スタジオに入ると違和感を感じた。
観客はそのまま待っているのだが、スタッフの姿が一人も居ない。
代わりに玄宇が真ん中に立っていた。
特に何かを考えたわけじゃなく、玄宇のほうに近づいた。
「打ち合わせじゃないですよ。」
何となく、わかった気がして驚かなかった。
「何か用?」
「先珠 藤………それが本名だろ?」
「……………それが?」
「あんたが昔やってた仕事を知ってる。」
『やっぱり、眞璃は教えたのか。』
そんな会話を管理室で朱鷺と北斗は聞いていた。
「おい、荒方さん!」
「やられた。入口が全て封鎖されてる。」
「は!?どうにか出来ないのか!?」
「今やってる。」
コンピューターの入力を繰り返しているのだが、全く反応していない。
その時、北斗と藤はある事に気づいた。
「おい…生放送のランプが!」
『“緑”………つまり、今ここは生放送されているって事か。』
玄宇は内ポケットから一枚の写真を取り出した。
「忘れてはいないでしょ?」
「!?」
そこには一人の女性が笑顔で写っていた。
見覚えはある、名前までは出て来ない。
だが、間違い無く昔の仕事の相手だ。
「この人は俺の姉だ。
………もしかして、名前は思い出さないのかい?
そうだよね、あんたは色んな女をたくさん相手にしてきたから。
どれだけの女性から、金を騙し取ったんだい?」
もはや、覚悟するしか無かった。
「先珠 藤、あんたは女性を騙して大金を手にする………。
詐欺グループのメンバーだったんだろ!?」
“詐欺”。
それが藤の前の仕事だった。
ルックスが良かったために女性はすぐに引っ掛かった。
プロ中のプロだったのだ。
「俺の婚約者の眞璃さんも…危うく騙される所だった………姉貴のように。
姉貴がどんな風になったかなんて知りもしないだろう!?
十年以上経った今でも部屋から一歩も出られないんだぞ!?
俺はあんたを許さない!!」
ちらりと眞璃のほうを見た。
彼女と暮らしていたある日、雇い主とたまたま話している所を聞かれてしまったのだ。
そのまま、彼女の前からは姿を消した。
それが藤の過去だ。
否定も肯定もする事なく、ただ黙っていた。
すると、生放送のランプが赤に変わった。
途端。
「あははははははは!!!!!」
玄宇が大声で笑い始めた。
しばらく唖然としていたが、一通り笑った彼は顔を藤のほうに向けて、嫌な笑顔を見せた。
「これであんたは終わりだよ、藤!」
「一体…何なんだ?」
「俺はあんたさえ潰れたらそれでいいんだよ。
他はどうだっていい。
あ、姉貴の話は嘘だから。」
「は?」
「明日から忙しくなっちゃうな〜俺。
あ、気にしなくていいですよ?
あなたのキャンセルした仕事は俺がちゃーんと引き受けますから。」
「………婚約者は?」
「え?あぁ、あれね。ま、本気じゃないんで。」
にっこりと笑った瞬間、藤は彼の襟元を掴み上げた。
「ただ、この為だけに巻き込んだのか?」
「何キレちゃってんの?
別にいいでしょ?他の人間まで知らないっての。」
「ふざけんな!!!」
あまりの迫力に玄宇は思わず目を見開いた。
「お前は!ただ、幸せだけを願っているあいつを、こんな事の為だけに巻き込んだのか!?
ただ幸せだけを願ってただけのあいつを!!お前は!!!!!」
北斗から見てもあそこまで怒りをあらわにした藤は初めて見た。
すぐにでも殴ってしまいそうな勢いに、背筋が冷えた。
だが、そこにある一言が雰囲気を切り裂いた。
「あんれ〜?誰が悪戯したんだぁ〜?」
随分と呑気な声だ。
声の主を探して辺りを見回すと、スタッフらしき男がいた。
だが、彼の手は生放送を告げるランプのカバーを外して入れ換えているのだ。
「あんたたち!誰かが悪戯してランプの緑と赤が入れ代わってんだぞ!」
今ついてるランプは“緑”。
そういえば、本番の時と位置が逆になっていた。
「嘘だろぉぉぉお!?」
つまり、藤を馬鹿にした態度をとってい醜態をさらしたのは玄宇のほうだ。
すると、ランプが赤に切り替わるとロックされていたはずの入口が開錠され、スタッフ達が慌てて入ってきた。
「玄宇 奄!!貴様、何してるんだー!!!」
プロデューサーが激怒しながらやってきて、 玄宇のマネージャーが急いで走ってきた。
「どうなってんだ!?奄!!」
「ランプが逆にセットされてたんだよ!!」
「はっ、見事に見苦しいものだな。」
玄宇とマネージャーが向けた視線の先には、北斗を連れた朱鷺が腕組みをして仁王立ちしていた。
「あんたは…マネージャーの。」
「荒方 朱鷺!お前の仕業か!?」
「私の仕業?どこにそんな証拠がある?それより、貴様が企んでいた事柄のほうが問題だと思うがな。」
「舐めるなよ、小娘!たとえ放送されていなくとも、あそこの100人の観客はしっかりと聞いているんだぞ!!」
情けない負け惜しみだが、確かに(忘れかけてはいたが)観客はずっとスタジオにいた。
しかし、朱鷺は平然とした表情で「北斗、頼む。」と言うと、彼は観客の前に立つと何かを言いはじめた。
玄宇達は耳を傾けるのだが、何を言っているのかわからない。
ただ、北斗が何かを一言言う度に次から次へと笑い始めた。
「まさか…。」
ふと、思わず呟いた玄宇に対し、朱鷺はにやりと笑ってみせた。
「あぁ、すまない。あの美女達は中国・韓国・台湾等のアジア圏内からの旅行者で日本語はほとんどわからないんだ。」
「「は!?」」
「北斗は通訳のために来ている。」
「あの人、アメリカの帰国子女でしょ!?」
すると戻ってきた北斗は笑顔で答えた。
「あー、ごめんね。アジア内ならだいたい話せるから。」
「「えぇえ!?」」
思わず周りのスタッフまで声をあげた。
何ヶ国語なのかをたずねると数えるのが面倒だと言われた。
「だ、だからと言って、うちの商品に傷がついた事は変わらんのだよ!!」
玄宇のマネージャーが朱鷺に掴みかかってきたのだが、勿論、あっさりと投げ飛ばされた。
「商品だと?愚かな!
タレントを商品として扱っていいのは仕事もプライベートも完璧に守れる、私のようなマネージャーだけが許される行為だ!!
貴様のような不樣な二流・三流、いや、クズみたいなマネージャーがタレントを商品と呼んでいいものでは無いわ!!」
何故か拍手が巻き起こる。
お決まりの事に藤と北斗は溜息をつく。
「あとはこちらでどうにかしておく。
さっさと帰ったほうがいいんじゃないのか?」
朱鷺にマネージャーは睨みつけるが、スタッフが藤を呼んだ。
「………俺とあんたの何が違うってんだよ。」
拳を握り締めた玄宇が悔しそうにそう呟いた。
藤達はお互いの顔を見ると声を揃えてこう言った。
「「「“勝利”にも“若さ”にも興味が無いもので。」」」
そして藤は颯爽とスタッフに指示されるままカメラの前に立ち、審査員達から“勝利”を受け取った。
「奄、行くぞ。」
そんな光景を見つめていた玄宇だったが、マネージャーに腕を引っ張られた。
「“ご婦人”によろしくと伝えておいてくれ。」
朱鷺の言葉にマネージャーは青ざめたが、足早にその場を後にした。




