決意と世代交代と自信
「は!?藤、あんた本気で言ってんの!?」
「うん、本気。いつまでも逃げ回ってても仕方ないし。
いい加減、追いかけ回されるって事にも飽き飽きしてきた。」
やまねは驚愕していた。
確かに、現状をどうにかしたいとは思っていたのだが、まさか藤のほうから言ってくるとは考えてもいなかった。
日に日に憔悴していく姿を見ていたが、いつの間にか自信を取り戻している。
朱鷺に聞けば「私は何もしていない。」の一点張りである。
(確かに今回は何もしていない。)
そんな数日後、あるテレビ局にて藤は玄宇と顔を合わせていた。
スタッフとの打ち合わせである。
説明が終わり、控室に戻ろうと立ち上がると玄宇はすぐにやってきた。
「いや、まさか果たし状を受け取ってくれるなんて思って無かったですよ!
おまけに生放送で対決なんて、粋な事をしますね〜。」
『“生放送”は俺も知らなかったけどね。』
そう、まさかの対決企画を実行する事になったのだ。
観客席にはおよそ500人。
一時間、完全生放送である。
「世代交代の準備しといてくださいね♪」
「世代ねぇ………。」
特に取り合う気にもならず、さっさと控室に戻ろうとしたが、気に入らないのか玄宇は藤を引き止めた。
「まさか、勝つ気ですか?
やめといたほうがいいですよ?
俺にはあんたには無い“若さ”がある。
若いだけでも特権ってあるんだ、無理だよ敵わないって。」
随分と悪い笑みを見せる彼だったが、藤は何故か
「そっか。頑張れ。」
そう言って、頭をぽんぽんと撫でてあげると、そのまま通り過ぎて控室に向かう。
突然の出来事に思わず固まって出遅れた玄宇は、藤の背中を見送った。
****************
「ねぇ、荒方さん。あいつの事調べたの?」
「あぁ、調査済みだ。」
スタジオを見渡せる管理室に朱鷺と北斗はいた。
スタッフは既に退散しており、飲み物とちょっとした食べ物が準備されている。
勿論、北斗では無く朱鷺様仕様である。
セキュリティ管理に余念の無い彼女はずっとコンピューターをあたっている。
横には砂糖菓子がたんまり入った袋を置いて、たまにつまんでいる。
「それで、一体何であんなに絡んでくるの?」
「今言えるのは、あやつの単独行動では無さそうだという事だな。」
「それ…………えぇー……。」
スタジオでマネージャーと話す玄宇の姿を見て、見当がついてしまった。
「………それって物凄く面倒臭くない?」
「当たり前だ。あちらの事務所が完全に先珠を潰すつもりでいるという事だからな。」
「藤はそんなに恨み買うような人間じゃないよ?」
彼女の顔を覗き込むように言ったのだが、朱鷺のほうは顔色一つ変えずに返す。
「そうだな………恨みでは無い事はお前達のほうがよく知っているだろうしな。」
う、と思わず詰まってしまう。
朱鷺の表情をうかがうが、ぴくりとも変化はしない。
「うーん……何か、あれかな。空気悪い?」
「空調なら入口だ。」
ごまかすように飲み物を口に含む。
だが、朱鷺は遠慮しない。
「隠すのは構わんが、バレバレだという場合もある。
よーく考えておくんだな。」
むっとしてこっそり膨れる。
「………しかし、対決の結果までは操作出来ないからな。
今回は先珠の腕次第だろうな。その点はどうなんだ?」
「んー…どうだろ。
藤はあんまり競い合いが好きじゃないし、むしろ嫌いだからなぁ。
まぁ、内容もちゃんと確認して企画を選んだんだろうけど……
他人ウケってのはその時によって変わるからね。
やってみなきゃ、わかりません。ってとこかな。」
「そのわりには心配の一つも感じられないが…?」
用意されたお菓子をつまんで、指先についた食べカスを舐め取った北斗は、どこか余裕を含んだ笑みを見せながら答えた。
「藤は俺よりずっと多く修羅場をくぐり抜けて、場数だって踏んで来たんだ。
俺が知ってる人間の中で最もしたたかで、誰よりも戦場でコマの進め方を知ってるんだよ。
今の藤はある意味“キレた”状態。
俺でも敵わないよ、きっと面白いものが見れるよ。」
「………それはほめているのか?」
「Of course!(もちろん!)」
にかっと子供のように笑う北斗に、思わずため息をついた。
時計を見て、そろそろ時間だと確認した。




