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爆弾と鳩と遊園地

 北斗は気が気で無かった。

 楓が落ちた現場を見たのだ。

 思わず叫んで飛び出そうとした。

 寸前のとこで、ステージから降りた藤が彼を抑えた。


「大丈夫、受け止めたから無傷だ。」


 と、朱鷺から連絡が来るまで、北斗は震えていた。


 ようやく、車で楓と再会ししっかりと抱きしめて喜んだ。


 そして、警察に取り押さえられた男のほうが問題だった。

 マスクの下には強力テープで口を封じられていた。

 テープを剥がすと男は叫ぶ。


「あー!あー!駄目なんすよぉ!あぶねぇっからぁ!!」


 そう喚きながら上着を脱いで見せた。

 そこにはチョッキ型の爆弾がしかけられていた。


「ポンちゃん!?」

「太一ぃ!!!」


 思わず声をかけてしまった太一はポンちゃんに近づいた。


「何してんの!?」

「わかんねぇんよ!突然、頭殴られて、気がついたらこんな状態でぇよぉ!メモに、ここに来いってぇ!!」

「危ないからじっとしてなよ!」

「太一ぃ…。」


 半泣きのポンちゃんに、太一は繁牙に言う。


「警察なのに何もしないんですか!?」


 周りの警官達は慌てているが、繁牙は呆れた顔でこう言った。


「………偽物だ。」

「「え??」」

「その爆弾は偽物だ。」


 そう言って繁牙はあっさりチョッキ型爆弾を引き裂いた。

 火薬も何も無かったのだ。


「「よかったぁ~!!!」」


 太一はポンちゃんと抱き合って喜んだ。


「……少女は行方不明です!」


 半崎が戻ってきた。


「そういえば、ブツ交換のたれ込みどうなったんですか?」


 朱鷺が置いていた鞄の中身を確認する。

 すると、開けた途端中から白い鳩が羽ばたいて行った。


「………ガセだな。」

「………そうっすね。」


 鳥達が飛び去った空を見上げ、賑やかなライブステージを背に、繁牙達は撤収したのである。


********************


「“アカペラの貴公子”長生 悟が魅せる!!だって~凄いね悟くん!今月号も見開き特集だよ!!」

「あざーっす!」

「声が出ないんじゃなかったの?」

「もう、すっかり克服しました♪ホント、マネージャーさん、有難うございます!」


 ストレスたまってるだけなら遊ばせればいい、という短絡的な考えだったのだが、思いの外、効をそうしたようだ。

 ライブステージでの一件もあり、悟は自信を持てるようになり、すっかり元気になった。


 現在、またも朱鷺は五人を連れ出した。

 というよりも、太一と悟の事務所から「遊ばせてくれ。」と依頼を受けた。

 完全に丸投げである。


「………しっかし、遊園地貸し切るとはぁ、流石、最氷プロダクションすね。やること違うわぁー。」

「ねー、ホントー。」


 広々とした遊園地に大人の男五人がむさ苦しくも遊びにきている。

 とても酷い絵だ。


「貸し切っているわけじゃない。点検の為の休園日に、点検しないものを借りているに過ぎん。」

「それが凄いんですって。」


 遠い場所で遊具が点検されている。

 ちなみに、点検の業者のトップは実は朱鷺である。

 つまりマネージャーと点検の仕事を一気に片付けようという魂胆だ。


「しかし、北斗くんは楽しそうだね~。」

「そりゃ、お姫様相手すよ~。」


 彼らの視線の先、北斗はメリーゴーランドにいた。

 小さなお姫様、楓も一緒である。


 あれから、楓達の監視が少し緩められた。

 勿論、SP達は今も姿を見せない位置にいるのだが。

 豪邸の警備の甘さと朱鷺の手腕で、外に出掛ける事が許された。

 母親の瑠依は出掛けられなかったのだが、北斗は彼女の為に写真をたくさん撮ることを約束した。

 太一達には「親戚の子」として紹介している。


「おもしろかったよ~!」

「おかえり~楓ちゃん。」


 パタパタと楓が走って戻ってきた。

 そのあとから北斗もやってくる。


「あ、そうだ!あっちにアイス屋さんがあるよ、楓ちゃん食べる?」

「たべたい!ねぇ、ほくと、アイスたべてもいい?」

「もちろん♪」

「やったー!」

「じゃあ、僕と一緒に買いに行こっか!」

「あ、自分も行きます!」


 太一と悟の二人に手を繋がれて、屋台の所に行く。

 だが、従業員を見て太一はびっくりした。


「ポンちゃん!?」

「太一~!?」


 なんと、そこにはあのポンちゃんがいたのだ。


「何してんの!?」

「いやぁ、俺さぁ、ふらふらしててんよぉ?まぁ、この間みたいなぁ?あんなんもう勘弁て感じじゃね?」


 話が面倒な男なので簡単に説明すると、あのあと、警察に連れていかれたのだが、殴られた痕跡もあったこと、諸々の検査の結果、彼の言い分が正しいと判断され無罪放免になった。


「そしたらぁ、ここで働くチャンスゲットンみたいな?」


 よくわからないが、とりあえず就職したらしい。


「おい、新入り。仕事しろよ。」

「すんませぇん~。」


 もう一人の従業員が顔を出した。

 太一と悟は見覚えがある気がして首を傾げる。


「ご注文はいかがされます?」


 だが、さっとメニュー表を出されて注意がすぐにそれた。

 ちなみに、彼はまたまた変装した清理である。


 メニューを決める三人の様子を離れた場所から眺める北斗。


「随分懐いたものだな。」

「楓は賢い子だから、人の善し悪しはわかるよ。」


 そんなものか、と軽く頷いた朱鷺。


「………感謝してる。」

「仕事だ。」

「俺は君がマネージャーなら全然問題無いし、むしろ、歓迎するよ。」


 様子を伺うような視線を彼に向ける。


「俺は荒方さんをマネージャーとして認めるよ。合格。」

「ほぉ、それは、」

「だけど、藤は俺ほど甘く無いからね?気をつけて。」


 不敵な笑みを見せる。

 すると遠くから北斗を呼ぶお姫様の声が聞こえた。

 彼はその声の元へ歩いて行った。

 溜息をついた次の瞬間。

 気配を感じさせずに、隣りに藤が立っていた。


「調子に乗るなよ。」


 視線は北斗達のほうに向いたまま、そう呟いた。


「もし、あの子が無事じゃなかったらただじゃすまなかった。

 今度あんな事が起きたら、容赦しないから覚えといて。」


 二、三歩進んだが、彼はすぐに振り返った。

 その表情はいまだかつて見たことないほど冷淡で見下した視線。


「俺はあんたの事は大嫌いだから。」


 そう冷たく言い放ち、彼も屋台のほうに歩いて行った。


 朱鷺は内心「めんどくさい」と思いながら深く溜息をついた。

 すると、服を引っ張られた。

 下を向くと楓がアイスクリームを持っていた。

 手招きをされて、屈み込み耳をかした。

 すると楓は小さな声で伝えた。


「これ、ウサギさんにあげる。」


 そう言って彼女は持っていたアイスクリームを朱鷺に手渡した。

 そして二人はお互いに人差し指を立てて唇にあてた。

 大事な“内緒”の合図。


「ほくとぉ~!つぎはあっちにいきた~い!」


 そう言って小さなお姫様は駆け出した。

 こうして内緒を持ったまま、彼らの7月は過ぎたのだ。

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