爆弾と鳩と遊園地
北斗は気が気で無かった。
楓が落ちた現場を見たのだ。
思わず叫んで飛び出そうとした。
寸前のとこで、ステージから降りた藤が彼を抑えた。
「大丈夫、受け止めたから無傷だ。」
と、朱鷺から連絡が来るまで、北斗は震えていた。
ようやく、車で楓と再会ししっかりと抱きしめて喜んだ。
そして、警察に取り押さえられた男のほうが問題だった。
マスクの下には強力テープで口を封じられていた。
テープを剥がすと男は叫ぶ。
「あー!あー!駄目なんすよぉ!あぶねぇっからぁ!!」
そう喚きながら上着を脱いで見せた。
そこにはチョッキ型の爆弾がしかけられていた。
「ポンちゃん!?」
「太一ぃ!!!」
思わず声をかけてしまった太一はポンちゃんに近づいた。
「何してんの!?」
「わかんねぇんよ!突然、頭殴られて、気がついたらこんな状態でぇよぉ!メモに、ここに来いってぇ!!」
「危ないからじっとしてなよ!」
「太一ぃ…。」
半泣きのポンちゃんに、太一は繁牙に言う。
「警察なのに何もしないんですか!?」
周りの警官達は慌てているが、繁牙は呆れた顔でこう言った。
「………偽物だ。」
「「え??」」
「その爆弾は偽物だ。」
そう言って繁牙はあっさりチョッキ型爆弾を引き裂いた。
火薬も何も無かったのだ。
「「よかったぁ~!!!」」
太一はポンちゃんと抱き合って喜んだ。
「……少女は行方不明です!」
半崎が戻ってきた。
「そういえば、ブツ交換のたれ込みどうなったんですか?」
朱鷺が置いていた鞄の中身を確認する。
すると、開けた途端中から白い鳩が羽ばたいて行った。
「………ガセだな。」
「………そうっすね。」
鳥達が飛び去った空を見上げ、賑やかなライブステージを背に、繁牙達は撤収したのである。
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「“アカペラの貴公子”長生 悟が魅せる!!だって~凄いね悟くん!今月号も見開き特集だよ!!」
「あざーっす!」
「声が出ないんじゃなかったの?」
「もう、すっかり克服しました♪ホント、マネージャーさん、有難うございます!」
ストレスたまってるだけなら遊ばせればいい、という短絡的な考えだったのだが、思いの外、効をそうしたようだ。
ライブステージでの一件もあり、悟は自信を持てるようになり、すっかり元気になった。
現在、またも朱鷺は五人を連れ出した。
というよりも、太一と悟の事務所から「遊ばせてくれ。」と依頼を受けた。
完全に丸投げである。
「………しっかし、遊園地貸し切るとはぁ、流石、最氷プロダクションすね。やること違うわぁー。」
「ねー、ホントー。」
広々とした遊園地に大人の男五人がむさ苦しくも遊びにきている。
とても酷い絵だ。
「貸し切っているわけじゃない。点検の為の休園日に、点検しないものを借りているに過ぎん。」
「それが凄いんですって。」
遠い場所で遊具が点検されている。
ちなみに、点検の業者のトップは実は朱鷺である。
つまりマネージャーと点検の仕事を一気に片付けようという魂胆だ。
「しかし、北斗くんは楽しそうだね~。」
「そりゃ、お姫様相手すよ~。」
彼らの視線の先、北斗はメリーゴーランドにいた。
小さなお姫様、楓も一緒である。
あれから、楓達の監視が少し緩められた。
勿論、SP達は今も姿を見せない位置にいるのだが。
豪邸の警備の甘さと朱鷺の手腕で、外に出掛ける事が許された。
母親の瑠依は出掛けられなかったのだが、北斗は彼女の為に写真をたくさん撮ることを約束した。
太一達には「親戚の子」として紹介している。
「おもしろかったよ~!」
「おかえり~楓ちゃん。」
パタパタと楓が走って戻ってきた。
そのあとから北斗もやってくる。
「あ、そうだ!あっちにアイス屋さんがあるよ、楓ちゃん食べる?」
「たべたい!ねぇ、ほくと、アイスたべてもいい?」
「もちろん♪」
「やったー!」
「じゃあ、僕と一緒に買いに行こっか!」
「あ、自分も行きます!」
太一と悟の二人に手を繋がれて、屋台の所に行く。
だが、従業員を見て太一はびっくりした。
「ポンちゃん!?」
「太一~!?」
なんと、そこにはあのポンちゃんがいたのだ。
「何してんの!?」
「いやぁ、俺さぁ、ふらふらしててんよぉ?まぁ、この間みたいなぁ?あんなんもう勘弁て感じじゃね?」
話が面倒な男なので簡単に説明すると、あのあと、警察に連れていかれたのだが、殴られた痕跡もあったこと、諸々の検査の結果、彼の言い分が正しいと判断され無罪放免になった。
「そしたらぁ、ここで働くチャンスゲットンみたいな?」
よくわからないが、とりあえず就職したらしい。
「おい、新入り。仕事しろよ。」
「すんませぇん~。」
もう一人の従業員が顔を出した。
太一と悟は見覚えがある気がして首を傾げる。
「ご注文はいかがされます?」
だが、さっとメニュー表を出されて注意がすぐにそれた。
ちなみに、彼はまたまた変装した清理である。
メニューを決める三人の様子を離れた場所から眺める北斗。
「随分懐いたものだな。」
「楓は賢い子だから、人の善し悪しはわかるよ。」
そんなものか、と軽く頷いた朱鷺。
「………感謝してる。」
「仕事だ。」
「俺は君がマネージャーなら全然問題無いし、むしろ、歓迎するよ。」
様子を伺うような視線を彼に向ける。
「俺は荒方さんをマネージャーとして認めるよ。合格。」
「ほぉ、それは、」
「だけど、藤は俺ほど甘く無いからね?気をつけて。」
不敵な笑みを見せる。
すると遠くから北斗を呼ぶお姫様の声が聞こえた。
彼はその声の元へ歩いて行った。
溜息をついた次の瞬間。
気配を感じさせずに、隣りに藤が立っていた。
「調子に乗るなよ。」
視線は北斗達のほうに向いたまま、そう呟いた。
「もし、あの子が無事じゃなかったらただじゃすまなかった。
今度あんな事が起きたら、容赦しないから覚えといて。」
二、三歩進んだが、彼はすぐに振り返った。
その表情はいまだかつて見たことないほど冷淡で見下した視線。
「俺はあんたの事は大嫌いだから。」
そう冷たく言い放ち、彼も屋台のほうに歩いて行った。
朱鷺は内心「めんどくさい」と思いながら深く溜息をついた。
すると、服を引っ張られた。
下を向くと楓がアイスクリームを持っていた。
手招きをされて、屈み込み耳をかした。
すると楓は小さな声で伝えた。
「これ、ウサギさんにあげる。」
そう言って彼女は持っていたアイスクリームを朱鷺に手渡した。
そして二人はお互いに人差し指を立てて唇にあてた。
大事な“内緒”の合図。
「ほくとぉ~!つぎはあっちにいきた~い!」
そう言って小さなお姫様は駆け出した。
こうして内緒を持ったまま、彼らの7月は過ぎたのだ。




