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ライブと私服と風船

 そこはいつも人で賑わう場所だ。

 様々な店が立ち並び、色々なイベントが行える広場がある。

 その広場には野外のライブステージが設営されていた。


「こ、こちら長生 悟。じゅ、準備完了でしゅ!」

「こちら、仙羽 太一!眺めも抜群で異常ありません!」

「………俺は大丈夫。」

「こっちも。」

「北斗くんも藤くんもノリ悪いよ~!!」

「仙羽殿。騒いでは困るのだが。」

「ごめんなさ~い。」


 と、こんなやり取りを通信機でやっている五人。

 悟は勿論、ステージの裏手にある控室だが、そこには寛ぐ藤の姿もある。

 太一はすでに満員御礼の観客席のが一望出来る喫茶店の窓際。

 北斗はステージの端からスタッフに紛れて様子を伺う。

 朱鷺はどこにいるか姿を見せていない。


「でも、朱鷺ちゃんが悟くんの警備するなんて凄いね!」

「まだ、この間の依頼が完璧というわけでは無いからな。確認が必要なだけだ。」

「ホントに有り難いっす!」

「まぁ、先珠のスペシャルドラマ発表のついでだがな。」


 藤の出演していたドラマが好評だったためスペシャル企画がたてられた。

 それの主題歌に悟の歌が抜擢された。

 今回はそれの発表イベントついでに、悟のライブも開催されるのだ。

 太一はライブを見たいついでに監視という役目を受け取りご機嫌だ。


 だが、北斗はマネージャーの都合で会場にいる事になっているが、彼の目的は違う。

 そう、“楓”である。


 電話は逆探知に失敗したのだが、誘拐犯はこの会場を指定してきた。

 要求は大金。

 ただし、鞄に詰めて広場の端にあるベンチの下に置け、という指示だった。

 朱鷺は指示通りに鞄を置いた。

 北斗はステージ側からそこを一点に見詰めていた。


「北斗。お客さんに見えるよ。」


 珈琲を片手に藤がやってきた。

 落ち着いて、裏側に引っ込む。


「ごめん、藤………あの、」

「教え無くていいよ。周殿の事には口は出せないし、迂闊に関われない。」


 本当に申し訳なさそうな北斗の表情に、藤は優しい笑みを浮かべた。


「北斗が先珠には迂闊に関われないのと同じでしょ。それに、必死な姿は見てて楽しい。」

「………ありがと、藤。」


 藤の言葉が、北斗の肩から余計な力を抜かせた。

 こういう時、心から彼には敵わないなと思ってしまう。


「じゃ、行ってくるね。」


 自分が持っていた空き缶を北斗に渡し、アナウンスに合わせて、藤は颯爽とステージに登場した。

 持ち前の営業スマイルとトークで会場は盛り上がる。


「あれ?何だか見覚えのあるなぁ…。」

「太一、どうした?」

「いや、どこかで見たことあるような人が広場に入ってきたよー。」


 藤と北斗も確認する。


「………まずいな。」


 朱鷺がぼそっと呟いた。

 その視線の先には私服で会場に紛れる繁牙 蛍と半崎 内の姿があった。


「おい、荒方さん。何であいつらが。」

「わからん。だが…様子からしてプライベートでは無いな。

 仙羽殿、窓際から離れて観客に紛れてくれ。彼らに気づかれるな。」

「え、あ、はい。了解です!」


 未だ、太一のマークが離れていないのだろうか。

 とりあえず彼との接触を避ける。

 私服であるが故に派手な動きはしないだろうが、目的がわからない以上、下手に手出しは出来ない。

 ましてや、周殿の人質などという情報も漏らしてはならないのだ。


「……荒方。」


 それは北斗の合図だった。

 朱鷺は置いた鞄の近くを確認する。

 そこには、帽子を深くかぶり、

 サングラスとマスクで顔を隠したみるからに怪しげな人物が近づいてきた。

 だが、その手には小さな少女が手を握り締めている。

 間違い無く楓だった。


「荒方さん、行けそう?」


 計画としては、朱鷺が楓だけを連れ出すという手段なのだが。


「駄目だ。後方の観客がバラけていて邪魔をしている。先珠、観客の注意を引かせられないか?」


 藤は上手く話に合わせて首を横に振った。


「藤が脱ぐぐらいの事をしないと無理みたいだね。」


 一瞬、藤の表情が引き攣ったがすぐに営業スマイルに戻る。

 だが、悟が願い出た。


「自分、やってみます!」

「「は?」」


 ステージ上ではちょうど主題歌の話に差し掛かった所だった。

 それはまるでBGMのように流れ始めた。

 少しずつその音に気づいた観客は耳を澄ませるように、静かになっていく。

 伴奏もマイクも無いのに、その声は会場が静まり返るのに反比例して、どんどん広まっていく。

 最後列の人達も何事かとステージのほうへ近づいていく。


 それはとてもとても優しい歌声。

 時に強さが現れては、切なさもこもる。

 いつもは騒がしい日常が、ただ、その時は周りの音が切り取られて、歌声だけが存在していた。


 それが終わった瞬間。

 どっと歓声があがり、拍手の嵐がまきおこる。


 それを見逃さなかった。

 朱鷺は動き出した。


 だが、


「動くな、警察だ。」


 怪しい男に、繁牙と半崎が拳銃を突き付けたのだ。

 男はびっくりして、繋いでいた手を離した。


 すると、楓は背後にあった手摺りを上り、そのまま向こう側に飛び降りた。


 広場は二段式になっていた。

 上の広場ではイベント会場に、下の広場は公園として使われる。

 その差は、二階建ての建物と変わらない。


 つまり、楓は二階から飛び降りたのだ。


 繁牙と半崎は近くにいた仲間に合図して男を取り押さえさせ、

 自分達は楓が落ちたほうを確認しようと手摺りに手をかけた。

 すると一面、風船がぶわっと浮き上がったのだ。

 風船をかきわけたが、大量の風船で見えない。

 ようやく空へ飛んだ後に確認出来たのだが、そこに少女の姿は無かった。

 半崎は急いで駆け出した。


 その頃、上から見えない位置に楓はいた。

 落ちた時、見事に彼女をキャッチした人物にしがみついていた。


「か…………、」


 思わず名前を口に出そうとして思い止まった。

 だが、楓は嬉しそうに彼の首に抱き着いていた。


 周殿 優李は突然の事に驚いていた。

 上が突然騒がしくなったと見上げた瞬間、少女が落ちてきた。

 思わず受け止めたが、一瞬でも誰かわかったのだ。


 久しぶりの愛娘の感触。

 随分大きくなったのだと実感した。


 その数秒後。


「感謝する。」


 という言葉と共に、楓の体が離れた。

 そこには彼女を抱えて素早く去って行く朱鷺の姿が見えた。


 呆然としていると、胸ポケットに違和感を覚えた。

 確認すると、そこから一枚の紙が出て来た。

 そこには“誕生日ケーキ”の絵が色鉛筆で描かれていた。

 優李は自分の誕生日が今月であることを思い出した。


「あの!すみません!こ、ここらへんに、女の子落ちてきませんでしたか!?」


 息切れをした半崎が優李に尋ねた。

 優李はさっと紙をポケットにしまうと、笑顔で答えた。


「いいえ、見てません。」

「えぇー!?あ、有難うございました!!!」


 半崎が走り去って行くと携帯電話が鳴った。

 同僚からだ。


「え、場所が違った?あぁ、変更なんだな。わかった。」


 仕事でこの場所に呼び出されたのだが、どうやら場所が変更されたらしい。

 やれやれと溜息をついて優李は歩き出した。

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