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早朝と権限と電話

 翌朝。

 リビングで朱鷺は伸びをしていた。

 本日は休日であるのだが、普段なら昼まで寝ている藤が珍しくも起きていた。

 ただ、椅子に座ったまま、まるで屍かミイラのように動かない。

 目はあいているが、半分寝ているようだ。

 そんな彼の前で、朱鷺は丼を並べて朝食を準備した。

 匂いをかがせても、ぴくりとも動かない彼が面白くてたまらない。

 悪戯心が沸き上がる頃、リビングのドアが勢いよく開いた。


「荒方さん!車出して!早く!!」


 慌ただしく、北斗が叫ぶように入ってきた。


「どうした?」

「楓の所に行きたいんだ!!頼むよ!!」

「片付けしておくから行ってきなよ。」


 いつの間にか、藤が覚醒していた。

 とりあえず、上着と手荷物を持って玄関に向かう。


「ごめん、藤。」

「俺は大丈夫。急ぎなよ。」

「有難う。」


 バタバタとあっという間に去って行った。


「当たり前でしょ。君がそんなに必死なのは大事な時だけだもん。」


 いつものんびりしている北斗があんなに切羽詰まる姿を見せるなんてほとんど無い。

 唯一あったとすれば、何年も前に藤が大怪我を負った時だ。

 本当に大事な時だけ。


 一度、大きく欠伸をした後。

 藤は珈琲をいれるために立ち上がった。


*****************


 久しぶりのジェットコースターだ。

 そんな事すら考える余裕は無かった。

 ただ、一刻も早く到着したい一心。

 車が止まった瞬間に彼は飛び降りて、朱鷺を放置して門をダッシュでくぐる。


「北斗!」

「瑠依さん!」

「楓がいないの!見つからないのよ!!」


 朝一番に電話がかかってきた。

 楓が消えたという内容だ。

 瑠依さんがいつものように起こそうと部屋を訪れると、どこにもその姿は無かった。

 ただ、窓だけは開いたままで。

 室内も屋外も徹底的に調べ上げたが、痕跡一つ残っていない。


「親父は?」

「連絡は取れたけど、まだしばらく帰れないから、部下に任せるようにって……。」

「情報は無いのか!?」


 周りにいたSP達に問いただしたが、彼らは渋い顔で首を横に振る。

 しばらく考え込んでいた北斗は、ふと思い付く。

 瑠依に「ちょっと待ってて。」と伝えると外に出た。


「荒方さん。」

「何だ?」

「楓が居なくなったんだ。君なら見つけられる?」


 一瞬、朱鷺は目を丸くしたがすぐに元の表情に戻った。


「警察に連絡は、」

「それは駄目だ!楓が周殿と関係してるなんてバレてはいけないんだ。君ならわかるだろ?」

「………とりあえず、中に入れてもらえるか?」

「あぁ……そうだね。」


 こんな門の外であーだこーだと言っていては、情報がだだ漏れである。

 だが、彼女が入ろうとした瞬間、SP達が止めたのだ。

 面倒だと思ったが、口を開いたのは北斗のほうだった。


「下がれ。俺の権限で彼女に協力をしてもらう。誰も手を出すな。」


 その一言で、彼らは道を開けた。

 北斗の背について行く。


「周殿。後で咎められたりはしないのか?」

「お小言はあるだろうね。でも、親父はしばらく来れないし、事実上、権限があるから平気。」

「それならいいが…。」


 突然、北斗の足が止まり、彼は振り向いて朱鷺の頭を撫でた。


「………心配してくれて有難う。」


 ぽつりとそう呟いて彼は再び歩き始めた。

 正直、心配はする。

 何せかの有名な周殿なのだ。

 朱鷺自身、この建物に足を踏み入れているこの瞬間も、警戒心は弱めたりしない。

 ここは朱鷺にとっても危険地帯だからだ。


 しばらく歩くと、中庭に出た。

 そこには車椅子の女性がいた。


「瑠依さん、こちらは俺のマネージャーの荒方さん。」

「あら、初めまして。不桟 瑠依と申します。ええっと、私は…、」

「荒方です。あと、身の上の事情は説明不要です。

 むやみやたらに立ち入るつもりはありませんので。」

「……有難うございます。」


 瑠依は随分と優しい笑顔を見せた。

 思わず息を止めてしまいたくなるほどに。


「で、娘が行方不明なのはいつからだ?」

「昨夜は10時ぐらいにはきちんと部屋で寝かしつけたのです。

 今朝、8時ぐらいに部屋へ行ったらもうすでに…。」

「監視カメラはどうだ?」

「真夜中の1時から2時の間だけ、お嬢様のお部屋近辺のカメラが作動しておりませんでした。」


 SPの一人が答える。


「侵入の痕跡は?」

「指紋はありませんでしたが、ベランダに外の土がついておりましたので、

 恐らく外からベランダに侵入者がいたものと思われます。」

「ならば、そろそろ電話か。」

「逆探知の準備なら完了しております。」

「だろうな。」


 朱鷺は北斗と瑠依に向き直る。


「事故では無い。誘拐と見て間違いないだろう。」

「そんな………。」

「あとは、電話が――――」


 その時、SP達の動きが慌ただしくなった。


「お電話です。」

「………決定だな。」


 震える手で、瑠依は電話に出たのだ。

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