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コインと下着とうさぎさん

 とある日、警察署内。

 繁牙 蛍(しげが けい)はデスクに山積みにされた書類を異常な速さで目を通していた。

 速読の達人である。

 そんな彼の部屋にある人物が訪れた。


「半崎、どこに………。」


 見るからにボロボロになっている彼の姿に、思わず言葉が止まる。

 己を落ち着かせて、ゆっくりと背もたれに体を預けて口を開く。


「お前、まさかと思うがあれほど言ったにも関わらず、荒方 朱鷺に近づいたのでは無いだろうな?」


 荒方、と聞いただけで半崎の体はびくっとした。

 次の瞬間、彼は猛ダッシュで繁牙に近づいて泣き叫んだ。


「警部!俺もうお嫁に行けない!!」

「………はぁ。」


 色んな理由を含めて呆れている所だが、この泣き叫ぶ男は至極、

 本気で言っているのだから無下にするわけにもいかない。

 縋り付いてくるその様は、置いてかれそうな子供そのままだ。


 繁牙は自分の机から一枚のコインを取り出し、半崎の前にかざす。


「半崎、これをよく見ろ。」

「?」

「いいか、これはただのコインだ。表と裏があってな……、」


 そんな事を言いながら、彼は何度もコインを表裏にひっくり返す。

 だが、徐々に半崎はぼんやりとした表情になる。

 そして頃合いを見計らい、彼の頭にそっと触れた。

 途端、半崎は覚醒したように意識をはっきりさせた。


「………あれ?」

「気分はどうだ?」

「すっごいすっきり爽快です!」

「だろうな。」


 突然、元気に立ち上がってガッツポーズを決める。


「で、荒方に何をされた?」

「あ、そう!あの、あー、んー………あれ?」

「ま、覚えて無いんだろうな。」

「………一体、何がどうなってんです?」


 半泣きしそうな半崎に、もう幾度目かの溜息をついてしまう。


「催眠術だ。」

「はい?」

「あいつの得意技の一つだ。催眠術で操り、欲しい情報だけ抜き取って、

 不思議とその間の記憶だけがすっぽり消える。」

「そんな事可能なんですか?」

「不可能、のはずなんだがな………現にこうして事が起こってる。

 催眠術の一種としか説明がつかないだろう。

 何か変わった所は無いのか?どこかが痛いとか、痺れるとか。」


 そう言われて、んー、と唸りながら体のあちこちを触ってみる。


「………ズボンの中がやたらすーすー風通しがいいんですけど。」

「………知らん、自分で確かめろ。」


 あまりに怖くて確認出来ない。

 ゆっくりとベルトを外して中を見てみる。


「警部。」

「何だ。」

「俺のトランクスが(ふんどし)になってます!?」

「クラシックパンツなぞに興味は無いわ!!」

「いや、そうじゃな………ん?」


 己のズボンを覗き込んだまま、首を傾げる半崎。


「褌に何か書いてます。」

「は?」

「えーっと………“ほたるちゃんへ、お馬鹿な部下を持って大変誇り高い事ですね。”」


 繁牙のこめかみに、うっすらと血管が浮き上がる。


「“それと貴方達、警察が調べてる事について…”この先は脱がないと読めないですね。」

「………あの女め!」

「とりあえず、脱いで洗濯してから、」

「馬鹿者!!」


 鬼の形相で怒鳴られ、びくりと動きを止める。


「………水性の物で書かれていたらどうなる?」

「あ……………。」


 二人の間に微妙な空気が流れる。


「と、とりあえず脱いできます。」

「あぁ、頼む。」

「脱ぎたてでも気にしませんか?」

「………口に出すな。」


 この後、褌を脱いだ半崎が書かれていたものをメモに取ればいいという事に気づき、ことなきを得る。

 ちなみに、書かれていた内容は暗号化されており、それを解読するのに時間がかかる事になった。

 揚句、いくつかの情報の締めくくりに、


“ほたるちゃんのお馬鹿さん”


 という最低な文になっているという始末だった。

 勿論、繁牙が怒り狂うのを半崎が必死に宥めたのは言うまでもない。


***************


 それは静まり返る真夜中の事だ。

 場所は周殿家所有の豪邸。

 不桟 瑠依(ふさん るい)とその娘の(かえで)が住まう家だ。

 瑠依と優李の間には楓という存在があるのだが、未だ結婚はしていない。


 楓は自分の部屋で大人しく眠っていた。

 ところが、ふと物音で目が覚めた。

 目をこすりながら起きてみると、窓に人影が見えた。

 警戒心の少ない幼い子供は、ふらふらと窓に近づいてカーテンを引っ張る。

 次に窓も開けて、ベランダに出た。

 そこに立っていた人物を見て、彼女は笑顔で言った。


「うさぎさん!」


 何の警戒心も抱かず、楓は駆け出したのだ。

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