表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/104

兄と護身用とメール

 一時間後、北斗は朱鷺に連絡をいれ、迎えに来てもらった。

 荷物を車に積み込みながら、北斗は喜びを口にした。


「ホント、楽しかったよ。楓もはしゃぎ過ぎて疲れて寝ちゃったし。」

「そうか、それは良かったな。」


 稀に見る笑顔だと朱鷺は思った。

 いつもの愛想笑いや腹黒い笑みでも無い、心底から生まれ出た本当の笑顔だ。

 これが素直な北斗の姿なのだろう。


「瑠依さんも、一緒に――――、」


 そう言いかけた言葉が途切れた。

 朱鷺も顔を上げた、彼の視線の先には一人の男が立っていた。

 すると、その視線に気づいた男は片手をあげて挨拶をした。

 北斗は持っていた荷物を朱鷺に手渡す。


「ごめん、ちょっと時間もらってもいい?」

「あぁ、構わん。」

「また連絡するから!」


 慌てて走り出す。

 たいした距離でも無いのに、息切れしそうになる。


「そんなに慌てずともいいのに。」


 久しぶりの呆れ顔に北斗は思わず笑みがこぼれる。


「お帰り、兄貴!」

「ただいま。相変わらず、お前は子供みたいだな。」

「大丈夫、体は大人だから。」

「頭の中も成長してないな…。」


 思わず溜息をつかれてしまう。


「それより、彼女を一人にしていいのか?」

「え?あぁ、あの子は新しいマネージャーだよ。」

「また変わったのか。」

「まーね。でも今回はわりと行けそうな気がするよ。」


「それは大変有り難い話だな。」


 突然、その声は近くで聞こえた。

 北斗は振り返らず、驚きを押さえて言う。


「話の邪魔をしたくなかったのはわかるけど、気配消して背後に立つのはやめてくれないかな?」

「……すまん。」


 ゆっくりと振り返ると、申し訳なさそうな表情の朱鷺の手に、見覚えのある携帯が見えた。


「あ、ごめん。携帯忘れてた。」

「気をつけろ。」


 素直に携帯を受け取ると、北斗はそうだと思いついた。


「荒方さん、紹介しとくよ。俺の兄貴。で、兄貴。こっちは新しいマネージャーだよ。」


 すると、二人は突然がっちりと固い握手を交わす。


「どうも、マネージャーの荒方 朱鷺です。」

「兄の周殿 優理(ゆうり)です。いつも、愚弟がお世話になっております。」

『……何だ?この空気………。』


 二人とも見たこと無いようなにっこりという笑顔に、ぎしぎしと音がしそうなほど手を握り締めあっている。

 愚弟と言われた事より北斗はそっちのほうが気になってしまった。


「そうだ、荒方さん。これから弟と少し話がしたいのでこのまま彼を連れ出しても構いませんか?

 ガードはきちんと出来ますので、そこはお気になさらず。」

「そうですか。北斗さんのお兄様ともあれば、さほど心配などはいりませんよね?

 要らぬ気遣いは不要です。どうぞ、私にはお構い無く。」

「………手の色、変わってるけど大丈夫?」

「「問題無い。」」


 ようやく手を離す。


「じゃ、気をつけるんだな。帰りは連絡しろ。迎えに、」

「ちゃんと送り届けるからご心配無く。」


 朱鷺は優理に一睨みした後、すぐにその場を立ち去った。


「………知り合い?」

「はははっ、そう見えるかい?」

「うん。」

「仕事柄、“荒方 朱鷺”を知らないわけは無いさ。

 ま、向こうも“周殿 優理”を知らないわけじゃなさそうだな。」

「あー、そういう事ね。」


 詳しくはよくわからないが、妙に納得をした。

 北斗と優理は近くに止めてあった車に乗り込み、いつもの店に向かった。


****************


 そこは知る人ぞ知る穴場の喫茶店だ。

 夜はバーになるが、とても上品で静かな店で優理の気に入りの場所だ。

 北斗も彼に紹介してもらって以来、時折一人で来る事もある。


「何だ、砂糖は二つじゃないのか?」

「一つでいいよ。」

「甘いのじゃ無いと嫌だと言ってたじゃないか?」

「あのね、それ何年前の話だよ。最近はずっと一つ。」

「そうだったか?うむ…、大きくなるのは早いな。」

「兄貴、俺もう三十後半だって。」

「おっさんだな。」

「そう、おっさん。」


 この日、二度目の“おっさん”発言に何故だか力が抜ける。


「ってか、いつ日本に帰ってきてたわけ?」

「数日前だ。」

「連絡ぐらいしてくれればいいのに。」

「お前も仕事があるだろう?まぁ、俺のほうが立て込んでいてな。今日やっと時間が空いたんだ。」

「………楓と瑠依さんに会わないの?」


 珈琲を飲む手が止まる。

 優理は苦笑いを浮かべた。


「いつも、すまんな。代わりに会いに行ってくれて。」

「別に代わりじゃないよ。俺が会いに行きたくて行ってるし。」

「そうか、楓も大きくなってるだろうなぁ。」

「だいぶ大きくなってるよ!数年したら瑠依さんに似てすっごい美人になるだろうなぁ~。

 そのうち、俺と結婚したいとか言われたらどうしよー、」


 こつんとテーブルの真ん中に小型のナイフが置かれた。


「兄貴。」

「何だ?」

「そのナイフは?」

「護身用だよ。」


 にっこりと笑顔で答えられた。


『相変わらず、冗談通じないんだな。』


 久しぶりに会った愚兄の相変わらずさに、ひやりと背筋が冷えた。


***************************


「え~!?北斗さんてあの周殿 優李さんの弟君なんすかぁ!?」

「騒がしいぞ、清理。さっさとよこせ。」

「痛っ。」


 朱鷺は容赦無く、清理の頭を小突いた。

 彼は頭をさすりながらも、嬉しそうに顔を上げ、手に持っていたスイーツの入った箱を手渡した。

 本日は人気スイーツ店のスタッフに扮している清理である。


「しっかし、優李さんが兄君って事は父君は………うわぁ、

 流石にこれはやばいんじゃないですかぁ?本当、チャレンジャーなんだから。」

「私だって知らなかったんだから仕方ないだろ!」

「そういう所はホント甘いんすから。」

「うるさい!」

「痛っ!」


 もう一度、小突かれる。

 でもやっぱり嬉しそうだ。


「あー、でもあの周殿相手にするなら下手に調べるわけにもいかないッスもんね。」

「まぁ、別段。父親と関わってるような様子は無いのでな………。」

「尚更気づかなかったッスね。」

「………お前、嬉しそうだな。」

「いやぁ、姉さんのそういうちょっと危機を感じてる表情って珍しいので。」

「久しぶりにムカついてきたな。ちょっと手合わせでもどうだ?」

「うわぁ、勘弁してくださいよ。えげつない!」


 朱鷺から代金を貰うと清理はニコニコと答えた。


「あ、でも、先珠は先珠で厄介ですよね?」

「うるさい。」

「何だか、姉さん。貧乏クジばっかりですね。」

「この店ごと潰してやろうか?」

「すみませーん。」


 全く悪びれてない清理に、溜息をついてしまう。


「ま、野猿じゃないけど。俺も正直、気をつけたほうがいいとは思いますよ。」

「わかってる。」

「何かあったら呼んでください。姉さんの為ならどこへでも馳せ参じますよ♪」

「マッターホルンに行ってもらおうか。」

「喜んで!」


 万遍の笑みで仕事に戻って行った清理。

 朱鷺はスイーツを持って店を出る。

 車に乗り込み受け取った箱の中から隠されていたメモりを取り出し、パソコンに接続した。


「………やはり、これは周殿関係という事なのか?」


 仙羽 太一の一件から、どうしても気になる事があり個人的に調査をしていた。

 あのエリート警部の繁牙 蛍がわざわざ自ら動いていたのだ。

 以前から彼を知っている朱鷺にとっては、それが不可解で仕方ない。

 むしろ“警部”という器におさまっている事すら驚いているというのに。

 知る限り、彼は警察の中でもかなりやり手のはずだ。

 海外での経験も多く、もっと難しい捜査を得意としていたのだ。


「………考えたくは無いが、仙羽殿の一件に周殿が関わってるという事か?」


 それなら納得がいく。

 だが、どんなに調査をしても、どこにもそんな証拠は無い。

 それに北斗自身がそういうそぶりを全く見せない。

 だがあのヤクザ達の身辺は異常なほどに様々なグループと繋がりが多い。

 そこが気になって仕方が無いのだ。


『ホタルちゃんが素直に吐くとは思えないしなぁ…。』


 すると突然、携帯電話が鳴った。

 着信元は北斗だ。


[兄、急用。すぐ帰る。公園にて待つ。]


「……いつ見ても電報か果たし状みたいな文面だな。」


 北斗のメールはいつもこんな感じだ。

 素っ気ないのでは無く、文章を作るのが下手くそなだけという事が最近わかり始めた。

 ちなみに藤には


[兄、急用。すぐ帰るo(≧∀≦)o]


 と、顔文字を使う事を覚えたそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ