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金と仕事と炎

 女は路地裏に入る。

 おもむろに、砂糖菓子を取り出して口に放り込む。

 一通り進んだ所で立ち止まると、建物の陰から一人の中年男が姿をあらわした。


「いやぁ、流石ですねぇ。」


 にやにやした笑みを浮かべながら、挨拶をするが、女は砂糖菓子を口内で砕いて何も話さない。

 黙って持っていた茶封筒を手渡した。


「こちらの仕事も流石ですねぇ。」


 男はすぐさま中身を確認すると、満足そうな笑顔を見せた。

 そして自分の懐から小さい茶封筒を取り出し、彼女に渡す。

 中身を確認した彼女は無表情のまま、男に視線を戻し、ようやく言葉を発した。


「………足りない。」


 男はにやりと口端を曲げると、頭をかきながら話しはじめた。


「実はもう少し仕事をお願いしたくてですねぇ、それは前金という形にしたわけなんですわ。

 次はそれの倍お出しいたしますんでぇ、ま、よろしくお願いしますわねぇ。」


 へこへことはしつつも、きな臭い態度この上ない。

 いわば金が欲しければ仕事して来いという態度だ。

 依頼者であるにも関わらず、まるで優位に立つ人間のように圧力をかける。

 だが、彼女は表情一つ変えること無く、確認をした。


「金はこれだけか?」

「えぇ、今日はねぇ。」

「そうか、なら調度いい。」


 彼女はそう言うと男に手渡した封筒を奪い、

 受け取った金の入った封筒と一緒にライターで火をつけた。

 一瞬の間に火がつき、燃え上がり情報もろとも灰になった。


「な、なにを!!」

「封筒に新開発の燃焼剤を含ませておいたんだ。うん、充分に使えそうだな。」

「金が!!データが!!」


 男は慌てふためき火を消そうとするが、既に炭と化していた。

 怒りが沸き上がり、女のえりを掴もうと手を伸ばした。

 だが、その手はすぐに彼女に掴まれた。

 そして、捩られたかと思った瞬間。

 男の視界がぐるりと一回転し、近くのゴミ袋山に投げられた。


「この程度の仕事なんざいくらでもある。つまらなさすぎて飽き飽きしてた所だ。」


 ようやく体を起こした男は、突如顎を強く引かれた。

 目の前には鋭い眼差しで笑みを浮かべた女の顔があった。

 あまりの威圧に固まり、動けなくなる。


「その程度のやり取りで私を操れると思うな?

 今後、もし私に近づいたならば、50年先まで後悔させてやろう。」


 そう囁くと、女は静かに離れ、背を向けて歩き出した。

 男は形の見えない恐怖にかられ、しばらく動けなかった。


荒方(あらかた)!!」


 その声にぴくりと反応し、ゆっくりと振り返る。

 そこには息を切らして凄い形相の中年女性が立っていた。


「あんた、荒方 朱鷺(とき)よね!?」


 呼ばれた女---荒方 朱鷺はじっとその顔を見つめて考え込む。

 そして、あぁ、と思い出した。


「あの時の女社長か。」

「覚えてもらってて嬉しいわ。名前は、」

最氷(さいひょう)やまね。」

「……嬉しいわ。」


 やまねは足早に朱鷺に近づき、目前に立った。


「今はフリーなのかしら?」

「見てたんだろ?」


 朱鷺の視線を追った先は、未だゴミ袋山で動けずにいる男の姿があった。

 少しぞっとしながらも、やまねは朱鷺に向き直り、目を合わせる。


「希望金額を出すわ。また仕事をお願いしたいの。」

「前と同じ仕事なら受けんぞ。つまらん内容はする気にならん。」

「いいえ、違うわ。」


 否定の言葉にふと彼女を見つめる。

 するとやまねは鞄から封筒を取り出した。

 黙って受け取り中身を確認する。

 朱鷺は怪訝な表情を見せたが、


「きっと楽しめると思うわよ?」


 やまねはどころか自信ありげな笑みを浮かべ、そう言った。

砂糖菓子をそのまま食べる。お金を燃やす。作者は到底そんなこと出来ない人間です。

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