少女と笑顔とお願い
時間は少し遡る。
朱鷺に送り届けられた北斗は、これまた大きい門の前に立っていた。
警備員が開門し、彼は中に歩いて行く。
そして芝生の敷かれた広い中庭で目的の人物を見つけた。
北斗の腰ぐらいしかない小さな“彼女”はすぐに彼を見つけて、とびっきりの笑顔を見せた。
「ほくとぉ!!」
彼女はそう声を上げて、猛ダッシュで彼に駆け寄る。
すると、北斗は一度屈んで手を広げた。
少女が飛びつくと同時に彼は立ち上がり、抱き抱えた。
「楓!元気かぁ?」
「げんきだよ?ほくとはげんきかぁ?」
「勿論、元気だ・ぞぉ~?」
おでこをくっつけてぐりぐりすると、楓はキャッキャッと嬉しそうに笑った。
「ママー!ほくとがきたよ!」
少し離れた場所に母親は居た。
彼女は車椅子に座って、ゆっくりと近づいてきた。
「いらっしゃい、北斗。」
「こんにちは、瑠依さん。」
「ほくと!なにしてあそぶ?」
「今日は絵本を持ってきたぞ?」
「えほん!?みたい!」
「よし、じゃああっちに座ろう。」
楓を抱えたまま、近くのテーブルと椅子に移動する。
「飲み物は珈琲でいい?」
「お願いします。」
そう言って瑠依は屋敷の中に入って行った。
楓は早速北斗が持参した絵本を開いてみる。
「おぉ~!」
初めて見るそれに感動したのか、歓喜の声を上げた。
その絵本には色々な動物が描かれている。
子供らしくあっという間に夢中で眺め始めた。
しばらくすると、器用に膝上に飲み物を乗せた瑠依が戻って来た。
慌てて北斗が飲み物を受取に行く。
彼女から珈琲とオレンジジュースを受け取って楓の元に戻る。
楓は夢中になっていたが、すぐに顔をばっと上げ、絵本を広げて彼に見せた。
「ほくと!うさぎってどんなの?」
「うさぎは、耳が長くてぴょんぴょん飛ぶんだよ。」
「とぶの!?やわらかい?」
「うん、毛がふかふかしてるのもある。」
「いいなぁ、ふかふか。ねこは?」
「爪が尖ってて、自由気ままかな。」
「いぬは?」
「わんわん吠える。懐くと甘えん坊になるよ。」
「へぇ~。ほえるのかぁ。」
絵本に目を向けたままジュースを飲む楓。
彼女につられて、北斗も珈琲を飲む。
「うさぎはどれくらいとぶの?」
「跳ねるだけだよ、そんなに跳ばない。」
「かえでのおへやには?」
彼女の部屋は2階にある。
「届かないと思うなぁ。」
「そっかぁ……。」
「うさぎがいいの?」
「うん!みみがながくてかっこいい!」
素直に可愛い答えを聞いて北斗は笑顔になる。
彼女の頭を一撫でして、再び絵本の世界に彼女を引き込んだのである。
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後日、三人はある場所に居た。
「藤ぃ~!見て見てぇ~!超可愛いよぉ~!!!」
「………う、うん…そうだ…ね。」
今までに見たこと無いほど緩んだ顔の北斗と、これまた今までに見たこと無いほど顔の青い藤。
それをどう受け止めていいのかわからない朱鷺が壁にもたれて見守る。
「ほら!こいつとか!」
「………わかった、わかったから。」
北斗の手の中で子猫がみゃあーとか細く鳴いた。
その姿はとても愛らしいが、それを40間近の男が緩みまくった笑顔で抱えてるというのは、何とも言葉に表しにくい様である。
むしろ、北斗が別人ではないのかと疑ってしまいたくなるほどだ。
ようやく、藤が駄目の一点張りだった事に納得出来そうな気がした。
北斗が行きたがっていた場所、それは“猫喫茶”だった。
猫でも犬でもとりあえずどんな動物も大好きで、触れ合いたいとの要望だったので、あるビルの一室を貸し切り、色んな動物を連れてきたのである。
その部屋に入った途端、北斗の態度が急変。
どちらが動物か区別がつかなくなりそうなほど、戯れている。
正直、ファンが見たらドン引く可能性大だ。
だからこそ、藤は却下し続けていたわけだが、完全個室という条件で渋々承諾した。
犬猫兎やら色々な小動物に囲まれて、北斗は至極幸せそうである。
「………おぬしも戯れたらどうだ?」
「いや、いい………。」
どことなく落ち着かない様子の藤に、朱鷺は首を傾げる。
動物嫌いという話は聞いた事無かったが、本当は苦手なのだろうか。
「!?」
その時、彼の足元に一匹の子犬が擦り寄ってきた。
どうやらサークルから飛び出したらしい。
業者の男がそれに気づき、戻そうと手をのばしたが、
それより先に藤が子犬を抱えてサークルに連れて行った。
すると、
「こらぁ、駄目だろぉ~?飛び出したら危ないんだぞ~?」
と、態度が一変。
藤までもが緩んだ顔を見せ、そのままサークル内で戯れ出した。
「………めっちゃ我慢してたんですね。」
「プライドの高い男だからな。」
業者に変装していたのは清理だった。
思わず彼も呆然とその姿を見つめていた。
「あの、業者さん。」
「はっ、はい!」
北斗に声をかけられ、慌てて振り向く。
彼の手には兎が抱えられていた。
「動物のレンタルとかはしてないの?」
「動物だけですか?」
「うん。」
「それはしてないですね。やっぱり生き物ですから、デリケートな扱いが必要になるので。
お呼び下さるならどこにでも馳せ参じますけど?」
「あー…そうだよなぁ。」
「………どうした?」
妙な表情の北斗に朱鷺が理由を尋ねた。
「いや、知り合いの子供が家から出られなくて、
でもそこの家が厳しくて他人を入れられ無いんだ。
動物見たこと無いから一度でも見せてあげたくて。」
兎をあやしながら北斗は呟いた。
「見たこと無いって、動物アレルギーとかですか?」
「いや、色々深い事情でね。アレルギーは無いよ。」
清理はうーんと唸ると、すぐにぱっと笑顔を見せた。
「じゃあ、上司に掛け合ってみますよ!」
「ホントに!?」
「まぁ、色々条件はつくかもしれないし、ちょっと割高かもですけど。」
「有難う!」
「じゃあ、話がついたら、と……ごほん、マネージャーさんに連絡しますね。」
「あぁ、頼む。」
危うく名前で呼びそうになり、咳ばらいでごまかす。
北斗は上機嫌で動物達の元に帰って行った。
「どうしたんですか?」
真剣な眼差しで彼らを見つめる朱鷺に、小声で清理が話しかけた。
「………いや、動物と一緒なら写真集出せそうだな。
勿論、緩み過ぎる表情はどうにかしないといけないが……、
社長に提案してみるか…いや、まずは…(ぶつぶつ)。」
子供のように戯れる大人の男に、仕事の計算をするマネージャー。
どこまでが動物と飼い主の境なのかと、清理はふと思った。
犬も猫も兎も大好きです。イケメンはも~っと(略)




