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お礼と過去とディスク

「これを渡しておく。」


 後日、太一の家を訪れたその帰り、朱鷺は封筒を彼に手渡した。

 中身を確認すると、何やら書類がたくさん入っていた。


「知り合いの弁護士に頼んで作ってもらった書類だ。だいぶ、金が返ってくる。

 弁護士にはその金で支払うといい。まぁ、格安だから安心しろ。」

「荒方さん、本当に有難うございます!」


 朱鷺は藤と北斗に頼まれて今日ここにやってきた。

 随分と必死になって(うんと言うまで言い続けた)頼み込むので来てみたわけだが、

 この親子がどうしてもお礼がしたいと言ったのだろう。

 溜息をついたが、折角なのでご馳走にありつく事にした。

 そして気の済むまで食べた後、太一が車まで見送りにきたのだ。


「荒方さん、藤君と北斗君は難しい所もあるけど、いい人なんだ。だから、」

「問題無い。あの程度、悪ガキと対して変わらないからな。」

「ふふふ、でも、何となく荒方さんといると二人の雰囲気が違うんだよね。

 前のマネージャーさんの時は猫被りまくりで、何となくギスギスしてたし。」

「今はやりたい放題だからな。」

「あー、それはあるかも。」


 くすくす笑う太一。

 朱鷺は車に乗り込むと窓を開けた。


「それじゃあ、」

「あ、あの、荒方さん。」

「何だ?」

「荒方さんは………恋人とかいるの?」

「……………何故?」

「いや、聞いてみたくて。」

「仕事が忙しい。今は必要無い。」


 きっぱりと言い切った。

 遠回しに振られた太一だが、めげずに笑顔を見せた。


「じゃあ、朱鷺ちゃん。」

「は?」

「そう、呼んじゃ駄目かな?」

「………好きに呼べばいい。」

「ありがと!それじゃ、朱鷺ちゃんにプレゼント。」

「それは!?」


 太一が手渡したのは白い粉が入った袋。

 表には“こなもんのこなもん”と書かれていた。


「今度、これ発売することになったんだ。

 試供品だけど、使ってみて。少しは美味しくなると思うよ。」

「有り難い!!」


 目を輝かせる朱鷺。

 そんな彼女に太一はぐっと顔を近づけた。


「でも、君を満足させられるのは僕だけだ。本物が欲しくなったらいつでもおいで。」

「あ、あぁ……。」


 一瞬、ぞくっと背筋が凍りついたが、恐らく天然なのであろう。

 挨拶を済ませて、車を発車させた。


「いやぁ、モテモテじゃないッスか、朱鷺さん。」


 後部席から潜んでいた清理が顔を出した。


「くだらんことを。」

「やだなぁ、俺の朱鷺さんなのに。」

「死ぬ覚悟はあるようだな。」

「冗談ですよ!まぁ、朱鷺さんに殺されるんなら、」

「御託はいい、報告しろ。」

「ちゃーんと後始末は済ませてますよ!

 あ、現場じゃきちんと指示通り彼の父親を誘導しましたでしょ?

 ちゃんと褒めてください!」

「うるさい。」

「あと、これが例の書類です。」


 ぽんっと助手席にファイルを置いた。


「警察の尻尾は一応掴めたかと。」

「ご苦労。」

「それじゃ、また連絡待ってます♪」


 車が停止したのと同時に清理は降りて、あっという間に路地裏に姿を消した。

 そのまま朱鷺は車を走らせ、家に帰ったのだった。


 朱鷺が買い物をしてから家に帰り着く。

 今日は二人とも午後からオフだったために、リビングで寛いでいた。


「よ、よう。お帰り。」

「………お疲れ様。」

「あぁ、ただいま………。」


 ソファからぎこちない声の北斗とテーブルで読書中の藤が小さな声で挨拶をしてきた。

 同棲してから初めての事で、若干戸惑ったが気にせず、買ってきた物を冷蔵庫にしまっていく。


「あー……どうだった?」

「ご馳走になっただけだ。」

「それだけ?」

「それだけ。」

「へぇ……。」


 微妙な空気の二人に「面倒だ。」と思いつつも、相手にせずにいた。

 だが、やはり我慢出来なくなって北斗が立ち上がりずばりと聞いてきた。


「太一のことふったのか?」

「………今は必要無いと言った。」


 がっくりとした空気が生まれる。

 何故こんなこと報告せねばならないのか。

 女子高生じゃあるまいに。

 内心、苛々したが心の中に留める事にした。


「試しに付き合ってやってもいいじゃん。俺達から見てもいい奴だぞ。」

「そうか、私にはどうでもいい事だ。」

「あんたの気持ちだって色々変わると思うけど。」

「変わる必要も無い。」

「本当に性格が悪いなぁ。」

「見るからに恋愛経験なさそうだしね。」

「あ、なるほどー。それじゃあ駆け引きなんて出来ないよなぁ。」


 彼らの言葉を流し、朱鷺は紅茶を持ってソファに座りテレビをニュースに切り替える。

 この時間、テレビを使用出来るように約束を取り付けているのだ。

 藤と北斗は面白くなさそうな表情で北斗のいれた珈琲を飲む。

 彼女から視線を外した時だった。


「一人だけいた。」


 ぽつりと朱鷺が呟いた。

 返事をする前に言葉を繋げる。


「もう何年も前だが、仙羽殿によく似ている。彼を思い出すから、嫌だ。」


 朱鷺が自分の事をそんな風に話すのは初めてだった。

 思わず北斗はソファに両肘をついた。


「よっぽど酷いふられ方をしたとか?」


 からかってやろうと思った。

 だが、目を合わせた朱鷺の瞳は真っ直ぐで、こう言った。


「もう、この世には居ない。どこにも。」


 しまったと思った。

 予想外の答えが返ってきてしまった。


 そのままどうしようかと悩んだ北斗だったが、ここで珍しく藤が動いた。


「新作の映画が見たい。」


 そう呟いて、朱鷺の隣りに座ったのだ。

 慌てて北斗もあいている朱鷺の隣りに座る。


「あんたもたまには映画ぐらい見たら?」

「そうそう、この新作、洋画なんだけど、けっこう面白いんだよ。」


 いそいそとディスクをデッキに入れる。

 朱鷺は何も返事をしなかったが強制的に変えられた。

 二人がフォローするなどと珍しいと思ったが、朱鷺はあえて口にしなかった。

 何せ、面白がっていたから。


「「え??」」


 再生された画像に二人は開いた口が塞がらない。


「あぁ、確かに新作だな……………ただし、

 “お前達の激しい”新作だけどな。

 これは、昨晩あたりか?」


 完全に固まってしまった二人をよそに、

 朱鷺は近くにあった中身の違うディスクを見つけ、北斗に手渡す。


「こっちじゃないか?」

「え?あ、あぁ、そ、そうだな。」


 何事も無かったかのようにディスクを入れ替え、再生する。

 今度は無事に目的の映画が始まった。


 結局、映画を楽しめたのは朱鷺だけで、藤と北斗は内容が全く頭に入らなかった。


 こうして三人の二ヶ月目は過ぎて行ったのだ。

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