宝の地図と拳銃とワイヤー
「んー……こっち?」
「違うよ、北斗くん。こっちだよ。」
「あ、わりぃ。」
地図とにらめっこしていた北斗は太一に手渡した。
ようやく自分が方向音痴である事を自覚したようだ。
こういう時、年下の太一はまるで弟を持ったかのような気分になる。
しばらく歩いてとある建物にやってきた。
そこはすでに使われていない廃墟ビルだ。
日が沈んで暗くなったその場所は、肝試しにはもってこいの雰囲気を漂わせる。
「………ここ、だよな。」
「うん、地図ではね。」
地図を覗き込む。
そこには馬鹿にしたように“たからのちず”と平仮名で書かれていた。
これを朱鷺から受け取った瞬間、内心殴りつけてやりたかったが、
思いの外に太一が楽しそうな反応したので何とか思い止まった。
「荒方さんて本当に面白いね。」
「そうか?俺はすっごく嫌い。」
指示通りに裏手にある小さな扉から中に入る。
「ふぅん。」
「何?」
「いや、藤くんは真っ向から嫌がってるけど、北斗くんは面白がってるように見えたから。」
中々に鋭い所をついてくる。
流石、長年の付き合いは隠せない。
「面白いと嫌いは別物。」
「なるほどねー。」
そんなにこやかに話をしながらビルの中を進んで行く。
しかし、ある大きな広間に出た瞬間、こめかみに固いものが押し付けられた。
横目で確認する。
それの本物を見るのは初めてだった。
「大人しくしろ。」
銃口を当てられ、条件反射で両手を上げた。
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そのビルのとある一室に朱鷺と藤はいた。
そこはかつて警備室として使われていた場所だった。
朱鷺は耳に小型の機械を当てて、様子を聞いていた。
「ふむ、予定通りだな。」
「………何が?」
「二人が組の奴らに捕まった。」
「はぁ!?」
ばっと朱鷺に振り返る。
だが、彼女は着替え中だったため、すぐに向き直った。
「ねぇ、危険にさらさないって約束したよね。」
「その点については問題無い。」
「何%?」
「100%。」
「絶対嘘だよね?」
「種明かしをするつもりは無いし、お前と言い合うつもりも無い。」
きっぱりと言うと、彼女は身なりを調え荷物を持った。
何かの作業服を着ているようだ。
睨みつけている藤に、ぽいっと何かを投げ付けた。
手を広げて受け取った物を確認する。
小型マイクのついたヘッドセットだ。
そして彼の前にセットしておいたパソコンに入力をし、ロックを解除した。
すると、画面にはビル内に設置された監視カメラの映像が全て映しだされたのだ。
「ここはこの部屋の前だ。ここには見てわかるように奴らが捕まっている。」
指をさされた画像には、確かに捕まって縛られた北斗と太一がいた。
「じゃあ、私は行くから、動きがあれば教えてくれ。」
「俺が素直に協力するとでも?」
「思ってない。だから、周殿を同行させた。奴のためなら協力するだろ?」
「ホント、むかつく。」
守られる立場にいるはずの男をいわば人質にとっている。
ありったけの暴言をぶつけてやりたくなったが、ふと監視画面を見て固まった。
声をかけようとして顔を上げたが、そこにすでに朱鷺の姿は無かった。
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「だからぁ、お宝を探しにきたわけで、」
「んなわけねぇだろ!いい年こいた大人が!」
「ポ、ポンちゃん…落ち着いて、」
「大人になっても宝を追いかける夢は捨てきれないんだって。」
「もうお前黙ってろ!!」
ふざけた北斗の態度に、ポンちゃんはブチ切れる。
彼もまた組の人間であり、大事な取引のためにここに居たのだ。
「随分騒がしいですね。」
「は、半崎さん!?」
数人を連れて半崎が入ってきた。
「おや、太一君じゃないですか………これは偶然という事ですか?」
彼の姿を見つけ、半崎は連れに合図をする。
すると彼の後ろから、見覚えのある姿が現れた。
「父さん!?」
「太一!?」
「何でも、“宝探し”だそうで。」
「「!?」」
間違いなく朱鷺の仕業だった。
何故、太一の父親まで巻き込んだのか。
藤と北斗は考えが追いつかなかった。
「半崎さん。お金はお支払いします!父さんは助けてください!」
咄嗟に叫んだのは太一だった。
すると、半崎は笑顔で答えた。
「………そうですね。早い話がありますよ。」
「どんなことですか!?」
「君が体を売ればいいんですよ。」
「……は?」
「知り合いにたくさん裕福なご夫人方がいましてね。
素敵な容姿ですから、いいご紹介は出来ると思いますよ。
まぁ、今のお仕事は出来なくなりますがね。」
言葉が出て来なかった。
色んな衝撃が多過ぎて。
「太一、耳を貸すな。」
北斗と視線を合わせた。
「そんな事するなら、お前に反対されても俺達が金を全額返済する。
だから、あんな言葉を聞くな。」
幾度か提案した事だったが、その度に断られた。
藤も北斗もずっと太一に感謝してきた。
だからこそ、彼の為になるならどんな事も惜しむつもりは無いのだ。
「いいじゃないですか。そうしなさいな。」
半崎から拍手が贈られる。
「今まで返済額を抑える為にそのご友人も巻き込んできたのですから、
いっその事肩代わりしてもらえば早いじゃないですか。」
ポンちゃんの開く合コンに呼んだり、サインを頼んだり、
今までそう言った事を行ってきたのは、返済額を少し抑えてもらう為だった。
唯一の方法だったのだ。
「まぁ、そんな話も我々がマスコミに話してもいいお値段になりますけど。」
ぞくっと悪寒が走る。
北斗と藤はふと先月の朱鷺が似たような事を言っていたのを思い出した。
『どうして気づかなかったんだろう…。』
大丈夫、そんな事を言っていた自分達が恥ずかしいと思った。
今更になって、危険な事をしていたと気づいたのだ。
そんな時、
「ふざけるなぁ!!!」
と叫び声が響いたのだ。
「俺の息子に手を出すんやない!!」
「!?」
突如、彼は叫んだかと思うと、掴んでいた組員を次から次へと投げ飛ばした。
あっという間に半崎の元まで進み、襟元に手をかけた。
だが、半崎のほうが上手だ、逆に投げ返されてしまったのだ。
すぐさま、数人の組員に押さえ付けられる太一の父親。
「離せぇ!太一に触るんやない!!」
「およしなさい。今まで何もしてこなかった飲んだくれの父親が、今更みっともない。」
「やかましい!俺は…俺は宝探しにきたんや!」
「は?」
「確かに……俺は何も出来ひん、のんだくれのおっさんじゃ。
せやけど、息子の体売ってまうようなていたらくになんやなりとうない!!」
「よくもまぁ…。」
「太一、すまん。お前がいつもえらい元気でおって、
それでええんやと思ってたんや…まさか、
友達に頼んでまでそないな事してたなんか、
気づいてやれへんかったなんて……俺は、俺は!!」
「父さん……。」
「それでも俺の宝は息子ただ一人じゃあ!!」
「うるさい!黙ってろ!」
「父さん!!」
殴られかけたその時、不意に扉があいた。
全員が視線を上げると、組員と思われる人間がぞろぞろと入ってきた。
「あ、れ?半崎さん?」
「チカちゃん?貴方の取引、別の場所でしょ?」
「それが…、」
すると、また別の扉が開いて別の組員がぞろぞろと入ってきた。
「半崎さん!?チカさんまで!?」
「貴方達も取引場所違うでしょ?」
「いや、相手先からここに変更したと連絡がきたんですわ。」
「俺のほうもです。」
「こっちには何も………まさか。」
半崎の顔色が一瞬にして変わり、その視線が北斗を捕らえた。
北斗が首を傾げたその瞬間だ。
ガシャン!!!
「「「「「!?」」」」」
突如、天井の通気口の金網が落ちてきた。
埃が舞う中に一人の人間が姿を現す。
「どうも、荒方メンテナンスサービスの者でーす。」
作業服に身を包んだ朱鷺だった。
手には数本の太いワイヤーらしきものが握られていた。
彼女は周りを見回すと、わざとらしく口を開く。
「おや、おっかしーな。ここは立入禁止区域のはずだけど。」
「誰だ!?」
「メンテナンスの者ですって。ここのビルの所有者に仕事依頼されてんの。
おたくらこそ、何してんの。」
「うるさい!さっさと出ていけ。」
「……やれやれ、これだから血気盛んな若僧は。」
「あぁん!?」
「メンテナンスってのは、ネズミ一匹残さずして、成り立たないんだよ。」
ワイヤーをくるくる回して、左手を差し出し構えを作る。
「ネズミ捕りだ、かかってこい。」
「小娘!!!」
一斉に彼女に殴りかかる組員達。
だが、いともかんたんに避けられてしまう。
朱鷺は何十人という男達の間を器用にすり抜けて行く。
逃げた先は壁、ついに追い詰められたかと思ったが、
彼女が勢いよく持っていたワイヤーを引っ張った。
すると、組員達の体の至る所にワイヤーが引っ掛かり、
纏めて全員がバランスを崩して倒れこんだ。
「ワイヤーを切れ!」
巻き込まれなかった組員がナイフを取り出してワイヤーを切ろうとするのだが、全く歯が立たない。
「馬鹿者、我社特注のワイヤーだ。その程度の刃なんぞ無力だぞ。」
とりあえずもう一本ワイヤーを引っ張り出し、残りの組員も縛り上げにかかる。
太一と北斗は縛っていた縄が解かれた。
なんと、ポンちゃんが二人を解放したのだ。
「お、おめーら、端っこいっとけ!」
「ポンちゃん!」
「お前捕まると、合コン出来なくなるっしょ!?落ち着くまで大人しくしとけよ!」
そう言ってポンちゃんは朱鷺のほうに向かって行った。
やっぱり、本当はいい奴なのかも知れない。
「太一!」
「父さん!」
太一の父親もどさくさに紛れて脱出してきたようだ。
三人は部屋の隅で様子を伺う。
すると、もはや部屋の中で立っているのは朱鷺だけという状態だった。
彼女は辺りをキョロキョロと確認すると、
「先珠、今からそちらに向かうが、気をつけろ。」
(はいはい。)
小型マイクで藤に伝達する。
そしてすぐに三人の元に近づいた。
「荒方さん!ありが、」
「今すぐ先珠と合流する。急げ。」
「こいつらは?」
「ネズミはネズミ捕り専門の業者に任せるのが1番だ。」
「「「???」」」
彼女の言ってる意味がさっぱりわからない三人だったが、それに構う事なく、朱鷺は急かした。
ポンちゃんは仕事より合コンのことしか考えていません。




