上着と遠慮なくと見えているか?
気配を感じた。
優李がいち早く反応したが、
帝人が立ち上がり、下がらせた。
投げ込まれた破裂弾。
宙で破裂し一面が白煙に包まれたが、
帝人は自分の上着一枚ですぐに視界を開かせた。
飛び込んできた朱鷺はそれに気づいて態勢を立て直そうとしたが、
帝人が片手で彼女を掴んで投げ飛ばす。
だが、彼女は身をよじって綺麗に着地。
すぐに帝人に向かって行こうとした。
だがそこに二つの手が伸びてきた。
「「いい加減待ちなよ!!」」
「!?」
藤と北斗に押さえつけられて、思わず固まる朱鷺。
「本当にあんたって人は猪突猛進何だから!!」
「そんなことを言っている場合ではなかろう!!」
「まぁ、とりあえず話を聞き、」
「場合も何も状況を確認するぐらい出来ないわけ!?」
「この二人を前に何を暢気なこと言ってるんだお主は!!」
『あ、これめんどくさいパターンだ。』
「大事な話をしてる最中なんだから邪魔しないの!!」
「私抜きで話すようなものがなぜ大事などと思えるのだ!!
だいたい、私に黙って何をしているんだお主らは!!」
「あんたこそ俺らに黙って親父殿さんに
マザーシステムだって話したんじゃない!?」
「そんなのどうせ話すつもりだったんだから構わないではないか!!」
「じゃあ、聞くけど、会社に行った後、
俺達に黙ってこの二人と会おうとはしなかったって言える!?」
「そ、それは、急に思い立つことだって、」
「だいたいあんたこそ勝手な行動が多いんだから、
俺達に偉そうに物言いできるわけないでしょ!?」
「何だと!?これでも私はお前たちのボディガードなんだぞ!!」
「ボディガードだったら何をしてもいいわけじゃないでしょ!?」
「肝心なところでドジを起こすようなボンボンが偉そうに言うな!!」
「上品もへったくれもないご令嬢がこのざまで恥ずかしくないわけ!?
あんたのファザコン度合いを親父殿さんに見せつけてやりたいぐらいだよ!!」
「貴様!!親父殿を侮辱するな!!
貴様など親父殿の気品あふれるカリスマ性に足元など及ばんのだぞ!!」
「あんたは!」
「お主は!!」
「本当にいい加減にしない?」
「「!?!?!?」」
朱鷺と藤の頬を引っ張り上げる北斗。
「い、いひゃい!!ほふほ、いはい!!(痛い、北斗痛い!)」
「はにほふる!!ほふほ!!(何をする北斗!)」
「2人とも煩すぎて、何かいい加減疲れたっていうか、めんどう。」
北斗の顔が無表情で空を見上げている。
朱鷺と藤は『やばい』と思った。
こういう表情の彼は滅多に出ない。
本気で怒っている時の彼だ。
手を頬から話す気配が全く無く、
遠慮なく力が入っていて本気で痛い。
「ねぇ、荒方さん、大事な話をしてるって言ったよね?」
「は、はい…」
「ねぇ、藤、話がだいぶそれてるの気が付いてる?」
「ご、ごめん…」
それからも2人の頬を掴んだまま北斗は、
低いトーンで日ごろの鬱憤がたまっていたのか、
淡々と2人に説教をし続ける。
2人はひたすらに謝り続けるのだが、北斗はやめない。
そんな三人の様子を、優李は内心驚きながら見ていた。
頬を誰かに引っ張られる朱鷺など見たことが無かった。
自分以外の人間と言い合いをする姿も見たことが無かった。
素直に謝る彼女などもってのほかだ。
そして帝人は、不思議な気持ちで見ていた。
龍真と一緒に何かを楽しそうに話す朱鷺。
龍真が亡くなってぼろぼろになった朱鷺。
少しずつ、自分になついてくれる朱鷺。
優李に勝てなくて悔しそうにする朱鷺。
何かを教えると嬉しそうにする朱鷺。
帰ってくるたびに喜んだ顔を見せてくれる朱鷺。
そして、今、目の前には、
掴まれて固まった朱鷺。
怒鳴られる朱鷺。
負けじと怒鳴り返す朱鷺。
頬を引っ張られる朱鷺。
大人しくひたすらに謝り続ける朱鷺。
彼女の色んな表情が見える。
『―――龍真。』
お前には見えているか?
今の彼女の姿が、表情が。
朱鷺はお前が死んでぼろぼろになった。
それでも私の頼みを聞いてくれた。
お前の話をする朱鷺は幸せそうで悲しそうだった。
それでもたくさんのことを学んで、
自分を守る術も身に着けて、
独り立ちをしたんだ。
誰かのためにたくさん頑張って、
たくさんの世界を見て回って、
今、ここにいる。
お前ではない男と怒鳴りあって、
また違う男に頬を引っ張られて、
素直に謝っているんだ。
こんな姿を見たら、お前は怒るだろうか?
それとも、やはり――――
「ふっ、ふふふ…………」
「「「「!?」」」」
その控えめな笑い声に4人は視線を向けた。
帝人が肩を揺らして堪えきれないのに堪えるように笑っている。
藤と北斗は何事かと思っていたが、
「みっ、帝人様がっ、」
「お、親父殿がっ」
『『声を出して笑ってる!?』』
2人にとって初めて見る帝人の姿に驚愕した。
「帝人様、いかがなされました!?」
「親父殿!?どうされた!?」
慌ててかけよる。
だが、帝人の笑いが止まらない。
「親父殿!?申し訳ありません!!
醜態をさらして呆れさせてしまいました!!」
何故だが、必死で謝りだす朱鷺にそっと触れる。
――――やはり「可愛い!!」と言うかもしれないな。
しっかりと彼女を抱き締める。
初めてのことで朱鷺は思わず固まった。
―――龍真、朱鷺は大丈夫だ。
―――ちゃんと前を向いてお前のことも背負って歩いている。
戸惑う朱鷺に優しい声が降ってくる。
「……たまには、顔を見せに帰ってきなさい。」
「!?」
「可愛い娘に会えないのは寂しいですよ、朱鷺。」
「…お、親父殿……私はっ、」
体を離して顔を見つめる。
「君は私の愛する可愛い娘です…必ず守ります。」
その笑顔は龍真そっくりだった。
帝人は朱鷺の頭を撫で、優李に「行きますよ」と言った。
呆然とする朱鷺に、そうです、ともう一度振り返る。
「もし、君を侮辱するような
愚かな輩がいたならばすぐに連絡をしなさい。
早急に叩き切ります。」
朱鷺には見えなくて、藤と北斗の見える位置で、
帝人が少しだけ日本刀の刃を抜いたのが見えた。
「大丈夫です親父殿!ご心配などおかけいたしません!!」
また朱鷺の頭を撫でながら穏やかに笑う帝人。
『『また、怖い人見つけちゃったな……。』』
藤と北斗は反対に穏やかな心情ではいられなかった。
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後日、朱鷺と藤と北斗の3人は車に乗っていた。
「あ、確かここらへんかも。」
ある山道の途中、北斗が呟いた。
藤と北斗が思い出す、あの日。
小さいころの2人が覚えているのは、車の中だった。
父親が運転をして、助手席に母親がいた。
脇道で車が止まり、2人は下ろされた。
「用事を済ませてくるからここで隠れてなさい。」
母親はそう言った。
藤は北斗の手を引っ張って隠れた。
両親は誰かと何かを話している風だった。
誰かはわからないし、何の話をしているのかもわからない。
とにかく言われた通りに隠れていた。
だが、しばらくすると車が発車する音が聞こえた。
心配になった藤は様子を見に行こうとする。
服の裾を北斗が掴んだ。
「にいちゃん!」
「ダメだ、おまえはここにかくれてろ!」
「……でも。」
「いいか?おれがもどってくるまでゼッタイここからでるなよ?いいな!?」
「うん、わかった……。」
すぐに戻るつもりだった。
結果的に、このまま二人は離れ離れになった。
車が崖から落ちるのを見かけて、
呆然とする藤に声をかけてきたのが先珠 桜だった。
北斗の存在を知られたくなくて一人だと答えた。
そのもうしばらく後、
隠れていた北斗を見つけたのは周殿 兵佳だった。
お互いがどうなっているのかもわからず、
別々の場所で別々の道を歩んで育った。
そして、あの日偶然にも再会した。
だが、誰に狙われるかもわからない。
お互いはお互いを知らない人にして、
兄弟だと知られるのを防ぎ、
それでも一緒にいるために恋人のふりをした。
そんなことになった最初の場所に3人は訪れていた。




