鏡と再会と噴き出した
「朱鷺!」
今でも覚えてる。
その日はドレス合わせの日だった。
ただ、その日だけ、龍真は一緒に居られないと言った。
彼曰く、
「花婿が花嫁のドレス姿を見るのは式当日までのお楽しみ!」
とのことで、
と言ってもどんなドレスを着るかはすでに龍真が選んでいた。
それを着て、サイズを確認するだけ。
出かける前に龍真はずっと抱きついていた。
「あー、朱鷺のドレス姿見たい。
絶対似合うもん、俺自信ある。絶対超絶可愛い。」
いつもの朝と変わらないと思っていた。
衣装業者がやってきて、
入れ替わりに龍真は剣臣と一緒に出掛けて行った。
少し用事を済ませてすぐに帰ってくると言って。
「お嬢様、いかがでございますか?」
そう言われてもよくわからなかった。
真っ白なドレスを着る自分の姿を鏡で見ても。
何が良くて何がどうなのか。
でも、龍真は「いい」と言うのだろう。
あのいつもの笑顔で。
「やっぱり、可愛い。」
鏡の中の扉に龍真がそう言って映りこんだ。
「龍真!」
勢いよく振り返る。
だけど、そこに彼の姿は無く。
廊下に出て見回したけど、どこにも無かった。
「お嬢様?」
胸騒ぎがして、急いで着替えた。
着替え終わる頃、珍しくも優李が目の前に現れた。
慌てた様子の彼について車に乗った。
着いた先は病院。
数分後、慌ただしくも運び込まれた。
ストレッチャーに横たわる龍真の姿。
「龍真!!!」
すぐに駆け寄った。
だけど彼の目は開かなくて、
ゆすって叫ぶ。
「龍真!?龍真!?」
「落ち着きなさい、朱鷺さん。」
親父殿に引っ張られて止められた。
彼の姿が見えなくなるまで叫んでいた。
見えなくなって、力が抜けてその場にへたり込む。
手には真っ赤な血がついていて、
わけがわからなくて、呆然としていた。
しばらくして、ようやく龍真と再会出来た。
けれど、彼は動かなかった。
冷たくて、白い肌が一段と白くて。
「りゅう、ま…?」
人が死ぬということの理解が出来なかった。
どんなに呼びかけても、触れても、
その体をゆすっても反応が無くて。
ただ、そばにいるだけしか出来ない。
それも、しばらくすればそばに居ることも出来ない。
それを理解するのにも時間を要した。
******************
閉じていた瞼を開く。
藤と北斗は夢を見ていた気分だった。
というより、まるで実際に見ているような感覚。
『『これがマザーシステム』』
「そのあとのことは………親父殿が助けてくれた。
私は龍真のそばに居ること以外、考えが無かったからな。
何をどう思ったのかはわからないが、
今度は親父殿がそばに居てくれたんだ。
彼が居場所や仕事の仕方、生き方を教えてくれて、
私は独り立ちをして世界を飛び回ってた。」
でも、ある時、気が付いた。
自分が普通でないという意味をしっかりと自覚した。
周りが老化の波にのまれるのに、
自分だけはどれほど時間が流れようとも変わることは無い。
それがどう意味なのかを、理解した。
だから、出来る限りのデータを消し、
いずれ誰とも関わらずに過ごしていけるように準備をしてきた。
自分が人間ではないとバレる前に。
帝人の前から完全に消え去るために。
「まぁ、もうその必要もなくなったわけだが。」
マザーシステムを差し出す。
そして帝人はマザーシステムを葬る。
「あの人が君を葬るとは思えないんだけど。」
「鷹友 帝人という人間は一度決めたことは必ずやり抜く。
だからこそ、今ある地位を築いてきた。」
「だけど、命を奪うとはまた別の話じゃ…。」
「私は何十年もの間、彼らを騙してきた。
ましてや、親父殿が長年破壊を望んできたもの。」
「だからといって、長年君を娘として育てたなら!」
「だからこそ、だ…。」
朱鷺の悲しそうな微笑みが、
ずっと大人のように感じた。
「けじめをつけなばならない。
信頼していた人間が裏切ったことを許してはならない。
許しは堕落を与える。
たとえ、悲しい決断であろうとも、
私の存在は危険だ。
………親父殿の手は汚さない。
きちんと彼に話をして、始末をつける。」
「………城酉さんは、知ってるの?」
「何も知らない。」
「話さないの?」
「話さない。」
「君を一番に信頼している。」
「あ奴は…強くならねばならない。」
「それで?」
「私は龍真を失うことで強くなった。」
「彼にも同じ想いを味合わせると?」
「いいや、私が話せないだけだ。身近に置きすぎたな。」
苦笑いを浮かべる彼女の顔があどけなくて。
その後、清理を呼んで、4人で紅茶を飲むことにした。
朱鷺は八馬弦相手に頑張ったと清理にご褒美として、
龍真の話を見せるのではなく、聞かせた。
最終的に彼は号泣して、その顔があまりに酷いので朱鷺は噴き出していた。
藤と北斗はそんな2人の様子を眺めながら、
朱鷺にとって清理がどんな存在であったのか実感した気がした。
どこまでもひたむきに彼女に食らいついていこうとした清理。
荒方 朱鷺にとっても、その存在は大切だっただろう。
そして、城酉 清理にとっても彼女はとても大切で、
いついかなる時も助け合っていたはずだ。
だからこそ。
それぞれの部屋に戻り、眠りにつく。
北斗はスマホを取り出して、
覚えていた番号に電話をかける。
電話の向こうの存在は多少の驚きは見せたものの、
すぐに淡々と会話を交わした。
通話を切ると、今度は別のところに通話をした。
[………なんで電話なんですか。]
「荒方さんに聞かれるとまずくて。」
[え、それ、絶対嫌な予感しかしないんですけど。]
無茶苦茶嫌な声を出したのは清理だった。
彼はリビングのソファで横になっていた。
「ねぇ、荒方さんには黙ってろって言われたんだけどさ。」
[何をです?]
「実は今、命の危険が近いのが荒方さんの方らしいんだよ。」
[は?]
「ほら、俺たちは心が読めるからわかったんだけど。
君には絶対知られたくないらしくてさ。」
[ちょ、何か、すっげぇ怪しいんですけど。]
「じゃあ、俺達でどうにかするから、君はいいや。」
[いやいやいやいや、そういう意味じゃないですってば!
そこは詳しく話してくださいよ!!]
『あの人、本当に凄いな。
アドバイス通りに言ったら本当に成功したや。』
心の中で感心した。
その様子を隣で見ていた藤は呆れ顔になっていたのだが。
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「絶対、朱鷺さんに殺される。」
「もういい加減諦めなよ。」
「往生際の悪いんだね。」
翌朝のことだった。
やまねたちからの連絡を受けた朱鷺は会社に向かった。
藤と北斗は清理に任せていた。
何かあればすぐに逃げろと。
だが、3人は彼女を見送った後、すぐに出かけていた。
とある見晴らしのいい公園に。
「ここに何があるんです?」
「俺だな。」
車を降りた直後、清理ののど元にナイフが当てられた。
背後の気配に一切気が付けなかった。
「ゆ、優李さん!?」
手早く清理の両手を拘束し、
騒がしくなりそうだったので口もテープで塞いだ。
「社、あとは任せたぞ。」
「せーちゃん♪おいで?」
八馬弦に車に乗せられる清理。
叫び声らしきもごもごという声がドアと共に消えた。
「………だ、大丈夫なんだよね?」
「…たぶんな。」
『うわぁ、えげつない。』
優李に連れられて高台にたどり着く。
そこには高そうなテーブルと椅子がセッティングされており、
新聞を読みながら優雅に紅茶を飲む帝人の姿があった。




