屋台とたこ焼きと当人
後日。
二人を仕事場へ送り届けた朱鷺はとある場所に来ていた。
そこにはタコ焼きの屋台が営業していたのだ。
「いらっしゃい!」
店主の少し若い感じの男は元気に招いた。
「………1パック頼む。」
「はいよ!」
すると彼は慣れた手つきでタコ焼きを焼いて行く。
あっという間に1パック分作り上げ、彼女の前に差し出した。
「はい、あとこれ。」
そう言ってタコ焼きと一緒にファイルを手渡した。
「随分、仕事が速くなったな。清理。」
「いやいや、朱鷺さんには敵いませんって!」
「当たり前だ。」
彼の名前は城酉 清理。
朱鷺が情報収集のために時折、仕事を依頼する相手、
と言うより、朱鷺が一から叩き込んだ舎弟のようなものだ。
ファイルを確認しながら、タコ焼きを頬張る。
「しっかし、また組を相手にするんですか?前に片が付いたでしょうに。」
「そうなんだがな、新顔を見かけてな。」
「あぁ、半崎ッスね。」
「………半崎 内か。」
「確かに最近、組に入ってきたみたいッスね。
ただ、ちょっと他と違うのが、頭脳プレイヤーって事です。」
目を細めて清理に視線をぶつける。
こういう場合、「意味のわかりにくい言葉を使うな。」という合図だ。
おっと、と表情を見せた清理は改めて口を開いた。
「最初は会計を任されてただけですが、
新しい決まり事を作りあげたお陰で、組の費用はおよそ三倍。
また、金だけじゃありません。
敵対していたはずの二つの組が一月の間に、傘下に加わったようです。
化け物みたいに頭がキレ、尚且つ、桁違いの統率力を持って荒くれ者達を纏めています。
あそこにはちゃんとした組長がいますが、
半崎のお陰でほぼ隠居状態と言っても過言じゃありません。」
「…だろうな。」
「なんだ、知ってたんすか。それなら俺に調べさせなくても…、」
ぶすっとふて腐れる顔を見せたが、
「いや、会ったからな。」
その一言で表情が一変した。
「また一人で乗り込んだんすか!?」
「いや、」
「あれほど危ない事をする時は必ず連絡いれろって言ったでしょ!?」
「だから、」
「最近はしなくなったと思ったのに!!これだから朱鷺さんはっ!?」
騒がしいので出来立てのタコ焼きを素早く清理の口に捩込んだ。
「っ~!!!」
「騒がしい黙れ。」
しばらくもがいていた清理だが、何とか立ち直った。
「乗り込んだわけじゃない。たまたま遭遇しただけだ。
あともう一つ頼んでおいた仙羽 太一の情報は?」
「それならこっちです。」
もう一つのファイルを手渡す。
すぐに彼女は中身を確認した。
「ま、典型的な借金まみれって感じッスね。
ただ、相手が厄介な奴でしたねぇ。
色んな所から借金してるように見えますが、実は全部繋がってる組織です。」
「元締めは?」
「半崎の組です。」
「そりゃ、厄介だな。」
「まぁ、問題はそこだけじゃ無いんですけど……。」
「………そのようだな。」
ふと、ファイルの一カ所を見つめる。
朱鷺にとって、それは最も厄介な物だ。
それをどうにかせねば、問題は何一つ解決出来ないのだから。
「しかし………このタコ焼きはまずいな。」
「あのねぇ、朱鷺さん。貴女がタコ焼きがいいって言ったからこれを用意したんですよ?」
「いや、私が食べたタコ焼きは美味かった。」
「何言ってんすか!これでも腕には自信があるんです!」
「あ、いや、すまん。不味くは無い。ただ、美味く無いだけだ。」
「言い換えても変わって無い!!」
「そんなに美味しく無いの?」
ひょいと第三者の腕がタコ焼きを一つ掻っ攫う。
朱鷺と清理が視線を向けた人物はじっくりと味わい、飲み込むと口を開いた。
「焼き加減も完璧だし、これは一般的に美味しい部類だよ。荒方さん。」
にっこりと微笑む太一の姿があった。
「そうなのか?仙羽殿の作ったのと全然違う気がする。」
「そりゃそうだよ。うちは特にこだわりぬいた材料や味付けしてるもの。根本から違う。」
「……それならば仕方あるまい。」
とりあえず金を払って立ち上がった。
清理は他人のふりで「毎度。」と言い、仕事に戻った。
「タコ焼き食べにきたの?」
「そうだ。自分でも試しに作ってみたのだが、どうしても美味く出来なくてな。
お好み焼きももんじゃ焼きも、どうもまずいのだ。」
「ふふふ、いつでも食べにおいでよ。いくらでもご馳走してあげる。」
笑顔を作っていた太一がふと、悲しい表情を見せた。
「ごめんね、無理なお願いしちゃって。」
「何をだ?」
「二人から聞いた。僕の借金地獄をどうにかしてくれるって。」
「………。」
「……母さんが死んじゃってから、父さん随分変わっちゃって。
もう、毎日酒浸り。次から次へと借金三昧。」
「そのようだな。」
借金を作っているのは太一の父親が借りてくるからである。
どんなに返済しても翌日には新しい借金をする状態だ。
だからこそ、彼の生活は変わらないのだ。
「本当はすっごい腕のいい焼き手なんだよ!今の僕だって敵わない。
小さい頃からいつだって二人の背中はかっこよくってさ。
“自分のやりたいことを出来ない人間にはなるな。”って、いつも言われてた。
本当に……母さんも父さんも、尊敬してるんだ。」
一緒に歩いていた朱鷺の足が止まり、太一の足も止まる。
「ならば、やりたいことをやればいい。」
彼女の言葉に太一は目を丸くした。
「お前もあいつらもおかしな人間だな。何故“無理”だと決めつける。
私は一度たりとも無理だと思った事は無い。」
「で、でも……。」
太一自身、何度か父親に借金の事で話した事がある。
だが、話した所で何も変わらず、今に至る。
これ以上どうしろというのか。
心にはそんな思いがあった。
しかし、そんな心情すらも見透かしたように、朱鷺は自信溢れる笑みを浮かべて言った。
「気に入らん。だから、私が証明してやる。無理な事など無いとな!」
清々しいくらいに断言した。
「よし、せっかくだからお前にも手伝ってもらおう。」
わけがわからなかったが、何故だか、彼女の言葉に不安は感じなかった。
「オッケー!」
と、元気に返事をしたのだった。
明石焼きを思い出します。小さい頃に食べた記憶しかないので、また食べてみたい。




