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しゃもじとナイフ

この話には多少のBL要素が含まれます。しかし、それを主軸に書かれたものではありません。ストーリー上必要なだけで、それほど重要というわけではありません。ので、それだけは理解をお願いいたします。

 俺達にとって世界がどうかなんて関係無い。

 ただ、一緒に生きていく場所が欲しいだけ。

 それだけで、その他なんてものは必要じゃない。

 だけど、世界ってのは恐るべき相手で、

 何をするにも常に神経を尖らせねばならなかった。

 そうしなければ、あっという間に荒波に飲み込まれて、

 声も手も届かない闇に引きずり落とされてしまうのだ。

 だからこそ、誰も信じなかった。

 俺達は俺達だけを信じていたんだ。


 先に言っておく。

 これから話す事は、そんな俺達がとある凄腕の破天荒で、

 無茶苦茶な事をするけれど、大切な物を与えてくれた、

 そんな女性と出会ってから過ごした12ヶ月の間の話だ。



 [俺達と彼女の12ヶ月 ~4月~]



 それは桜も散り終える頃だった。

 年度始めと言っても俺達にたいした変わりなんてのは無くて、ただ新しい仕事をやり始めていた。

 宣伝のために珍しくも仕事が屋外で入った日の話だ。


「では、本日のゲストをお呼びしましょう!」


 司会のアナウンサーが声と同時に手を挙げる。

 彼女の「せーっの」という掛け声で、ほぼ女性客で満員のイベント会場に、名前が響く。


「「「「「ふじくーん!!!!!」」」」」


 そして、舞台の裾から姿を現し、ふじは優しい笑顔でこう言った。


「こんにちは。」


 途端に会場は大歓声。

 悲鳴と間違うほどのその叫び声は耳鳴りを起こしそうだ。


 藤は案内されるまま、椅子に座りマイクを渡される。


「今回は、新作のドラマの宣伝ということで、いらしたわけですけども。どうですか?この会場の雰囲気は。」

「こういう場所で話すのが初めてで、何だか落ち着かないですね。」

「本当ですか?すっごく落ち着いてるように見えますけど。」

「あぁ、たぶん、あんまり表現うまくないからですかね?」

「ドラマの宣伝ですけどいいんですか~?」

「あ、ドラマはちゃんと表現できるように頑張ってますから!」


 藤の照れ笑いに再び歓声が上がる。

 彼が一言一言話すだけで彼女達は騒ぐのだ。


「ちなみに、今回の主演のドラマ、タイトルは“バトラーポリス”ですけど、

 どういった役なんですか?」

「はい、普段は刑事をやってるんですけど、

 家に帰るとお金持ちの執事をしてるという凄く忙しい男の役ですね。」

「刑事役でもあり、執事役でもある。というわけですね。

 そういった演じ分けとか難しいんじゃないのですか?」

「そうですね。刑事も執事も初めてする役なので、二倍の勉強が必要ですが、

 二倍楽しめるものでもあります。あとは、体力勝負ですかね。」

「え!?まだまだ若いじゃないですか~!」

「いや、流石に30後半になると、やっぱり20代の体力は無くなりますね。実感してます。」

「えぇ!?30後半なんですか!?」

「あと数年で40ですよ?」

「「「見えなーい!!!」」」


 藤の言葉に違う悲鳴があがる。

 彼女達の声に、また彼は爽やかな笑みを浮かべるのだ。


 でも、誰も知らない。

 爽やかな笑みを浮かべていながら、藤という男の内心がどんなものだか。

 今の彼が何をどう思い、どう考えているのか。


「さて、実はここでもうお一方、ゲストをお呼びしております!」


アナウンサーの声に会場はざわめく。

藤は顔色一つ変えず、その姿を待つ。


「それではお呼びいたしましょう、お願いします!」


 彼は颯爽と現れた。

 独特の歩きはまるでモデルのようにしなやかで華やか。


「“Hello, ladies.(こんにちは、お嬢様達)”」


 流暢な英語という生意気な挨拶も彼らしい。


「「「「「 HOKUTOほくとー!!!」」」」」


 ほぼ悲鳴だ。

 さっきまでは藤にきゃーきゃー叫んでいた彼女達は一気にHOKUTOにくぎづけになる。

 アナウンサーも心なしか目が輝いている。

 彼はさっさと藤の隣りの椅子に腰をかけた。

 少し動くだけで、彼は様になる。


「今回、HOKUTOさんはご本人がキャラクターモデルをされております、

 香水の宣伝で来られたんですよね?」

「はい、そうです。“wild desire”っていう、新作です。」

「HOKUTOさんは普段、香水はつけられたりするのですか?」

「んー、つけたりつけなかったりかな?」

「何だか、近づいたらいい香りがしそうなイメージがしますが。」


 アナウンサーの言葉に会場の客はうんうんと頷く。

 HOKUTOはほんの少しだけ驚くと、すぐに甘い笑顔を見せて言った。


「なら、もっと近くで確かめてみる?」

「いえいえいえ!そういうわけでは!」


 慌てるアナウンサーに今度はやんちゃな笑顔で言う。


「Am I dangerous?(俺は危険かな?)」


 声をあげたいのを我慢したアナウンサーの代わりに、観客が声をあげる。

 一瞬、意識を飛ばしかけたアナウンサーだが、ギリギリで保った。


「お、お二方は同じ事務所に所属されているんですよね?」

「そうですね。」


 爽やかに藤が答えたが、すぐにHOKUTOがかぶせた。


「ついでに同期だよ。年も近いし。」


 会場が再びざわついた。

 また意外な年齢だったのだろう。

 HOKUTOは苦笑して笑顔で答えた。


「ちょっと、ダンディさが足りないかな?」


 またまた黄色い悲鳴が沸き上がる。

 女性にたいするこういう扱いはおてのものだ。

 藤から見ても彼は自分以上に余裕を持て余しているようにも見える。

 自信満々、座っているだけなのにその存在感は違う。


 けれど、また余裕ぶった彼の心の内も違う。

 表情とは掛け離れるその真意は誰にも知られる事は無い。


「同じ事務所ということは、お二人は仲がよろしいのですか?」

「あんまり会わないから、ほとんど話したこと無いですね。」

「俺は是非とも仲良くしたいんだけどなぁ。」


 怪しげに笑いかけるHOKUTOに対し、軽く笑みで返す藤。

 何とも言い難い雰囲気に会場はボルテージが高まる。


「あんのやろう!あれほど、注意してるのに!」


 会場の片隅から、腕組みをした一人の女性が呆れた声を零す。

 彼女は二人が所属する事務所の女社長だ。

 苛々しながら溜息をついた瞬間。

 突如、奇怪な叫び声が聞こえた。


「ひ、ひぃ~!」


 情けない声が会場に聞こえた。

 一斉に視線が後方へと集まる。

 そこには何かから逃げるひ弱そうな男の姿があった。

 彼を追うのは数人の警官である。


「きゃあああ!!」

「ち、近づくんじゃない!!」


 すると、追い詰められた男は近くに座っていた小柄な女性客につかみ掛かり、首元に刃物をあてて、人質にとった。

 警備員も彼の周りを取り囲んだのだが、男は興奮していて、とても危険だった。

 警官達は慎重に手順を考えていた。

 だが、急に表情を変えてすっと後ろに下がり始める。

 警官だけでは無く、警備員もゆっくりさがり始めた。

 男は何事かと困惑していたが、そこに呑気な声が聞こえた。


「このナイフ、安くて切れ味最悪なんだよな。」


 ふと違和感を感じる。

 握っていたナイフが軽い。

 恐る恐る確認すると、男の手には別の物があった。


「しゃもじ?」


 再び確認すると、人質にとっていた女がいつの間にか男のナイフを弄んでいた。

 代わりにしゃもじが握らされている。

 女は顔だけ男に向けてたずねた。


「もういいか?」

「え?なに、」


 返事も待たず、女は行動に出た。

 小柄な体格に似合わず、自分より体の大きい男を見事に投げた。

 次に地面に叩きつけられた男の顔のすぐ横にナイフが勢いよく突き立てられる。


「弱い。出直して来い。」


 すっと立ち上がった女は警官達に視線で合図を送る。

 すぐに彼らはのびきった男を取り押さえた。


「へぇ、あの子まだ若そうなのにやるなぁ。」


 HOKUTOが面白そうな声をあげた。

 離れた場所ではあったが、なにが起こっているのか、藤とHOKUTOにはきちんと理解出来た。

 ふと、二人は彼女と目があった気がした。

 だが、彼女はつばを返し、会場からさっさと立ち去ったのだ。


「ちょっと、あとは頼んだわよ。」

「え、社長!?」


 女社長はアシスタントに言い付けると彼女を追いかけた。

 会場は一時騒然としたが、また再開された。

 藤とHOKUTOは社長が気になったが、各々の仕事に戻る事にした。

読んでくれた友人が「HOKUTOがうざかっこいい」と言ってくれました。実際にいたらきっと耐えられないと思います。

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