4.巨人の手
一頻り笑った後に、イングスはあっさりと「これから仕事だから」と言い残して店から去って行った。
残された男…ロジャーは、何だったんだと溜息を吐きながら、当初の予定であった【宝探し】へ行くべく店を後にした。
「今日は何処に行く?」
「そうだなぁ…しばらく西の方ばっかり行ってたし、たまには南の砂丘にでも行くか。お前、行ったこと無いよな。」
あそこは大物ばっかりだから足が遠のいてて、とロジャーは苦笑する。
言外にオルカに荷物を運ばせるつもりだと示したその笑顔に、オルカはふんと小さく鼻を鳴らした。
「運ぶのは構いやせんが、持って帰ったところで売れるんかね。」
あまり大きすぎても、金が出せないと言って買取拒否をされる可能性はある。
「そこはまあ、見てみて決めるさ。」
飄々と答えて、ロジャーは歩を進めていく。
人の目に付かぬよう薄らと揺れながら、オルカはその後を追いかけた。
「……この辺で、どうだろ?」
けたたましい音を立てて、オルカが砂山から鉄屑を引き上げる。
決して軽くは無いそれを易々と宙に浮かせる様子は、確かに人間離れした芸当であった。
「見かけほど重くはないぞ、これは。」
「本当?中がスカスカだったりすんのかなぁ…とりあえず保留にしておこうか。」
「応。」
がしゃん、と鉄塊をその場に横たえる。
「うーん、なかなか良いのが見つからないな。」
「いつもの事じゃあないんかね。」
うぐ、とロジャーが口を噤む。
【宝探し】などと言っても、本当に価値のあるもの等そうそうお目に掛かれるものではない。
「……もうこんな時間か。ちょっと遠出してるし、さっきのだけで諦め……ん?」
ふと、ロジャーよりもいくらか上の方から辺りを見回していたオルカが何かを見つけたようで、ある一点を注視している。
「オルカ、何かあった?」
「……鉄の手が生えておる。少し離れているが、ありゃでかいぞ。」
「手?」
どうにも理解が出来ないといった様子で、ロジャーは小首を傾げる。
「行ってみれば分かるじゃろ。暴れるなよ、ロジャー。」
「へっ…うわぁっ!?」
ひょい、と両脇の下から持ち上げられる。
両足が宙を掻く何とも頼りない感覚に、ロジャーは「ひぇ」と情けない声を上げて縮こまった。
「見えるか、オアシスの手前に在るぞ。」
「え、えーと……」
砂避けの意味を込めて装着していたゴーグルを額に押し上げて、目を凝らす。
確かに、何か巨大な手の様な物が砂の中から真っ直ぐに天へと向かって突き上げられているのが見えた。
「……なんだろう、随分でかいな。あんなの見たことないぜ。」
徐々に近付いていくにつれて、その存在の大きさに息を呑む。
やや乱暴な扱いで傍らに降ろされれば、丁度胸の辺りに指先があった。
「ひゃあ、こりゃデカイな。」
「掘り起こすか?案外根が深そうだの。」
頼むよ、と一声掛けてロジャーは踵を返し巨大な手から距離を取る。
宙に浮いたまま胡坐を掻き、オルカは軽く息を吐いた。
煙が渦を巻き、砂を巻き上げる。
【大物】を掘り起こす時、オルカは煙を媒体にした魔法で全てを賄うのだった。
「…いや、これホントにでかいな。人型の…何だろう、機械なのか?ブリキの人形ってわけじゃあなさそうだけど。」
オルカにより粗方姿を現したそれは、少々不恰好ではあるが確かに人の形を模していた。
「人と言うよりか猿じゃの。手が長くて足が短い。」
巨人の指を握り、持ち上げる。
半ば宙に浮いたそれをまじまじと見上げて、ロジャーは意を決したように頷いた。
「……オルカ、これ持って帰ろう。」
「売るのけ。」
「いいや、直す。」
うん、と小首を傾げるオルカに含みのある笑顔を向け、ロジャーは言った。
「こいつは機械みたいだからな。修理は俺の仕事だ。」
予想はしていたことだが、鉄の巨人は店の作業場には持ち込めなかった。
あまりにも巨大過ぎる為、入り口すら通すことが出来なかったのだ。
そりゃあそうだろうな、と苦笑を漏らしてロジャーはオルカを見上げる。
「店の裏に運んでくれ。」
「裏?」
「塀があるだろ、それ乗り越えた先。」
巨人を抱えなおして、オルカは軽々と塀を飛び越えた。
「……何だ、こんな場所があったのか。」
「俺の敷地って訳じゃあないけどな。誰も来ないとこだし、まあ……秘密基地みたいなもんだよ。」
よいしょ、と掛け声と共にロジャーが塀から顔を出す。
そこは四辺を石塀に囲まれた、荒れ果てた空き地であった。
雑草が全力でその背を伸ばし、あちらこちらに半壊した機械や鉄屑が散乱している。
「がらくたが山程在るな。」
「立派な資源だよ、バカ。店に入らないサイズの注文とか、店に入れられない注文はこっちでやってるんだ。滅多に無いんだけどさ。」
ふぅん、と気の無い返事をしながら、オルカは巨人を今乗り越えてきた塀に寄り掛からせた。
「入れられない、っつうのはあの辺け。」
ぐるりと見回して、隅の方を顎で示す。
「……あんまり関わりたくは無いんだけどさぁ。お得意様なんだよ。」
示された一角は、火薬の臭いが漂っている。
時々店にやってきては、一言も喋らずに砂の詰まった銃火器を置いていく輩が居るのだ。
「店に置いといたら、万一衛兵でも来た時が怖いだろ?此処なら「不法投棄じゃないのか」で誤魔化せるんだ。」
「雑な扱いだが、此処じゃあ湿気る心配も無いしな。好きにせ。」
もう何も無いか、とオルカは向き直る。
「ああ、ありがと。何かあれば呼ぶから、好きにしてなよ。」
「そうけ。」
僅かに砂を巻き上げて、オルカは姿を消した。
「…さぁて、まずは砂を掃わなきゃかな。」
よし、と袖を捲って、ロジャーは巨人に手を掛けた。