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第6話

今日もダメだった。


アイナは試験場となっている実技アリーナの端っこで膝を抱えていた。

アイナの頭の中には先ほどの試験の失敗。


失敗、失敗、失敗。


アイナはその事ばかり考えてしまう。

何がいけなかったのか。

自分になにが足りないのか。

何をすればいいのか。


試験では大丈夫だと思っていた。

自分は本番では成功するはずだと。たとえ


練習で一度も成功していないとしても。


実際、周りの生徒は授業の実技や個人練習では成功する方が確実に多い。

それは練習であり心に余裕があるからだ。

魔法の失敗は精神に起因する事が大抵である。

自身の魔力の操作の仕方は入学から半年かけて教わり、元素魔法の適性属性に合わせたカリキュラムが一人一人に立てられて、自己鍛錬が主になる。

魔力の操作に関しては術者の感覚に頼る所もあるので進み具合にも個人差が出てくる。

そこで魔力操作の試験は申請すれば受けられるようになっており、早いもので入学したその日に合格する者もいる。


アイナは魔力操作の試験を期限である半年一杯かけてラインぎりぎりで何とか合格。

もちろん合格したのはアイナが最後。

そして、アイナ用にカリキュラムが組まれた。

それから半年、入学してから一年が過ぎ、アイナは二年生になった。

アイナのカリキュラムは一向に進んでいない。


これまで何度か試験を受けたが全てで魔法の失敗という結果を出してしまった。


自己練習においても起きるのはあの嵐だった。

どの系統の魔法を試しても成功する魔法など一つもなかった。

そのことをレティシアにも相談した事があった。

レティシアは自分の母親であるセラフィーナと旧知の仲であって、アイナも小さいころからお世話になっていた。

そんなレティシアにも個人練習を付き合ってもらう事もあった。


しかし、成果は得られない。


レティシアもあの手この手でアイナに指導をするのだが進歩する気配すらしない。


はたして自分に適性などあったのだろうかと疑問さえ浮かんでくる。


練習してもダメ、指導してもらってもダメ。


「どうしよっかな……」


そんなつぶやきが漏れ出る。

それは、何かを考えての呟きではなく思わず出てしまう呟き。


自らの進む道が見えないアイナはただ呆然とする女の子だった。


「お姉ちゃん」


「……ユウナ」


いつまで座り込んでいたのか。

なにも考えていなかったため時間の感覚もあいまいなものとなっている。

少し寝てしまっていたのかもしれない。

アリーナ内に生徒の姿は少なく、試験はすでに終了しているようだ。


「お昼休みだよ。ご飯食べに行こ!」


そういってアイナに手を差し出すユウナ。

反対の手には今朝作っていたお弁当の入ったバスケットが握られている。


「もうそんな時間?」


試験の終了がお昼休みに入る一時間前の予定だったから、一時間ほど座り込んでいたようだ。

アイナはユウナの手を取り、立ち上がり、両手を組んで伸びをした。

立ちくらみが起きたがすぐに収まる。


「どこで食べる?」


「今日はいい天気だから、中庭のベンチで食べよ。まだ人も少ないと思うんだ。」


「そうね。そうしようか」


中庭で食べることに決め、アイナとユウナはアリーナを出ると、太陽が真上に来ていた。

確かにいい天気だ。雲ひとつない快晴。

その暖かな陽光に目を細める。

柔らかな風が吹き、心地よい陽気を演出していた。


「今日のお弁当はなに?」


中庭に行く途中、アイナは今日の献立を聞いてみる。

するとユウナはちろっと舌を出して片眼をつむる。


そんな愛くるしいしぐさをしてみせながら、


「ちょっと寝坊しちゃって。今日はサンドイッチだよ。手抜きでごめんね」


基本、アイナとユウナは一緒にご飯を食べる時が多い。

そして二人のお弁当を作っているのはユウナだったりする。


「文句なんてないわ。手抜きといってもユウナのお弁当はおいしいんだから」


明るく返すアイナ。


すでに頭の中は食欲に支配されている。

試験という緊張が解け、一気に食欲が襲ってきたのだ。

そういえば、最近試験が近いと言って食べる時間すら惜しいと言って、まともな食事を取っていなかった気がする。

昨日はいつもの小屋に一日飲まず食わずで、魔法の練習をしていた。


一度も成功しなかったが……。


ここ一週間ユウナの手料理を食べていない気がする。


「……ユウナ、ごめんね」


「ん?なにお姉ちゃん?」


アイナは小声で謝罪の言葉を口にする。

どうやらユウナには聞こえなかったみたいだ。

きっと一週間ユウナはアイナの食事も用意していただろうことを考えると謝らずにはいられなかった。

試験の失敗で落ち込んではいた。


空腹にも気づかないほどの極限の中にアイナはいた。


ユウナも試験の事は知っている。

しかし、ユウナはそれに触れず、いつも通りの笑顔を自分に向けてくれる。


そのことがたまらなくうれしかった。


途中、涙が出そうになるのを必死にこらえながら、中庭に到着した。

二人は空いているベンチを見つけ、一人分の間に空けて腰を置く。

その間にユウナは持っていたバスケットおいて、蓋を開く。

そこには色とりどりのサンドイッチが並んでいた。


明らかに二人分の量ではない。


「これ、多すぎない?」


「そうかな?でも、お姉ちゃんおなかすいてるでしょう?」


どうやらユウナにはアイナの空腹状態が分かっていたようだ。

サンドイッチならこれくらいの量、今のアイナは一人でも食べられる自信がある。


「……いただきます」


「いただきます」


ユウナの気遣いに小さくなりながらもアイナは手を合わせてから、食べ始める。

最初に食べるのはBLTサンド。

ユウナはタマゴサンドだ。


「おいしいわね、こんちくしょう」


「そういってくれると嬉しいよ。でもサンドイッチだから誰でも出来ちゃうんだけどね」


「何言ってんのよ。この味はユウナにしか出せないでしょう?私のつぼをピンポイントについてくる味だもの」


「えへへ、ありがとう」


アイナの言葉に、赤くなりながらはにかむユウナ。


「お姉ちゃん、試験前だからまともなもの食べてないんじゃないかなと思って、多めに作ってきたんだ」


アイナは、その通りなので何も言えない


「それに昨日帰らなかったでしょ? いつものところに籠ってたんだろうけどあそこ食べ物置いておけないし、お店とか近くにないし、昨日は何も食べてないんじゃないかなと」


「……見てたの?」


むしろ怖いくらいにアイナの生態がいい当てられていく。


「というか、お姉ちゃん。試験前はいつも同じことするじゃない。分からない方がおかしいよ?」


「そうだったかしら……」


「そうだよ。お母さん怒ってたよ~。アイナはどこだーー!って」


言いながら、ユウナは頭の上に二本指を立てている。

母の怒りを表現しているようだが、アイナはあまりの可愛さに抱きしめたくなる衝動を必死に押さえる。


「……お母さんどのくらい怒ってた?」


「そりゃもう昨日の夜は探し出す~って言って聞かなかったんだよ。止めなかったら多分一晩中探してたんじゃないかな?お仕置きだべ~って」


「……ユウナ、恐い事言いながら変顔しないで」


お仕置きだべ~のところで何を表そうとしたのか分からないが顔をゆがませていたユウナをたしなめる。笑いをこらえるのに必死だ。

せっかくの美少女が台無しだ。


「それでね、ユウナ……」


それからしばらくサンドイッチを摘まみながら二人の姉妹の話は花を咲かせていく。


アイナはユウナとふれあっているこの時間が好きだった。

一生大切にしていきたい輝かしい時間の一つだ。


先ほどの試験の失敗など忘れてしまっていられた。


しばらくして、アイナはお弁当を食べ終え、最近の疲れが一気に来てしまいうとうとしていた。

ユウナもつられて瞼が重たくなっていた。


そんなときだった。


「なぁ~お前さっきの試験どうだったよ?」


そんな男子の言葉が聞こえてくる。

アイナに冷たい汗が流れるのを感じる。

思わずユウナに顔を向ける。ユウナはどうやら眠ってしまっているようだ。


「あ~まぁいい感じだったかな。ただまぁあがっちまって、練習の時みたいにはいかなかったわ」


「まだましな方じゃん。俺なんか火力強すぎて制服焦がしたしよ~」


「マジか!? 見せろ見せろ。うわっモロじゃん」


そんな他愛ない会話をして男子達は歩いていく。次第に声は遠ざかっていった。


アイナは安堵の息をつく。気づくと手に汗を握っている。


「そういえばさぁ~」


今度は女の子の声が聞こえる。


「さっきの試験の失敗見た?」


「見た見た~~」


今度はクラスメイトの女子だった。

今度こそアイナの息がとまる。いやな汗が止まらない


「よくあれだけ失敗何度もできるよねぇ。一回も成功してないじゃん。エアハートさん」


「そういえばそうだね。私が試験一緒の時は一度も成功した所見たことないし、友達も失敗した所しか見てないってさ」


「うへぇ、実は練習でも成功した事なかったりして」


「うわぁありえるね、それ。よく一段階合格できたよね。ギリギリだったみたいだけど」


「いや、むしろよく魔法適性があるなんて結果出せたと思わない?あの子の時だけ機械壊れてたんじゃないの?」


「きゃはは、ありえるね、それ」


アイナは悔しくて拳を握りしめる。

口を閉じ必死に耐える。

涙が出そうになるがこらえる。


そう、まだ耐えられる。


彼女達はまだ自分の事しか話していない。大丈夫と言い聞かせる。


だが、


「妹はあんなにすごいのにね~」


「ねぇ~聞いた?妹さん、二つ目のカリキュラムも修了させたんだってさ~」


「あ、知ってる知ってる。先生たちが大騒ぎしてたよね。学園史上4人目の天才だ~って」


「入学してからすごくなかった事ないじゃない、彼女。流石は『氷雪の姫君(グレイス・プリンセス)』ね」


「言えてる。なのに姉の方は何で『無能』なのかしらね」


女子生徒二人は笑いながら去っていく。


そして、中庭のベンチには眠ったユウナと空いなったバスケットが残されていた。


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