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第5話

「さて」


セラフィーナは自分の目の前で震えている娘達に呼び掛けた。


ここは都市アルベルにある集合住宅の一室。セラ達四人が暮らす家だ。

あのあと、セラは自分の娘二人に呼ばれた場所に行き、呆然としているアイナと必死に魔法を使っているユウナを見つけた。


ユウナが治癒魔法をかけていた黒髪の少年の状態を見て驚いたものの、冷静に状況を判断し、知り合いの信頼できる医者に連絡をし、少年を家まで運んだというところだ。


少年は今、医者による治療中である。


「なにがあったのかしら?」


セラは二人に笑顔を浮かべて柔らかな声を掛ける。

誰もがこんな表情、声で話しかけられれば緊張は吹き飛び、心地よい雰囲気に包まれるに違いない。


しかし、アイナとユウナは違った。


手を固く握り膝の上に置いている。

二人の肩は小刻みに震えている。

表情は顔をうつむかせているため、窺えない。

なにが彼女たちを恐怖させているのかわからない。


沈黙が部屋を支配する。

セラはにこにこと笑顔でいるだけ。


意を決したようにアイナが顔を上げ、震える声で話し始める。


「えっと、まずユウナは私に巻き込まれただけで……」


「お、お姉ちゃん! 」


「そう。ならアイナ。あなたが説明してくれる?」


「デバイスで話したことがぜん……」


「全てではないでしょう?嘘はついていないけど、話していないことはある」


「…………」


セラに隠し事など到底出来るわけもなくアイナはうなだれてしまう。


「私は全部話してほしいのよ?あそこにあった魔法陣の事とかあの男の子の事とかどうしてユウナを巻き込んでしまったのとか。わかってるでしょう?」


黙って頷くアイナ。


「あなたたちが危険に巻き込まれたのなら私はなにも知らずにはいられないのよ、母親として」


「お母さん」


「だから、話しなさい、全部。」


最後に底冷えのする尋問官のような声が響く。

アイナは声が震えるのを必死に我慢して、今日あったことを話し始めた。





「次、アイナ・エアハート! 」


「はい」


教師の声にアイナは気合いのこもった返事を返す。


《アルクレイド学園》。


都市アルベルにあり、総生徒3千人を超えるアルクレイド国内でも規模の大きな学園だ。

今は魔法実技の試験の時間だ。

ここでの魔法の成功が今後の成績に大きく響いてくる。

座学ではこれまでの出席や教師の塩梅で救済措置が取られていたりする。


しかし、この魔法実技の試験は試験一本で成績が決まる。


なぜかというと、魔法には精神力の強さが大きく作用するからだ。

操作は技量、効果は意思という基本が魔法にある。

普段の授業で技量を鍛え、本番では精神の強さを試験する。


これがこの国、共通の魔法の教育法だ。


数名の生徒は、それなりにいい成績を収めてホクホク顔、そのうちの何人かは失敗したのか頭を抱えている。

一発勝負という事で、試験の内容はそれほど難しい内容というわけではない。

しかし、簡単だからといって日々の練習を怠ったりした人間は軒並みいい成績を出せない事は学園でも知られてる事だ。

これは精神を測る試験で、本気で取り組まなければ望んだ成果を得られないということ。


ゆえにここで魔法の発動ができるという事は当たり前のこと。


試験で成果を得られないものは、大抵が試験をなめていたか、元々の精神力の弱さのどちらかのはずだ。


「………」


「なにをしている。早くしなさい」


今回の試験監督である教師レティシア・バルバストルは呼ばれて定位置についてから下を向いてうつむいているアイナに凛とした声をかける。

腰まで伸びた黒髪をうなじの所でまとめている。

長身痩躯でそのたたずまい、雰囲気は綺麗でかっこいいという表現がぴったりとはまる。


彼女のファンという生徒は少なくない。


「アイナ・エアハート、早く始めなければ不可としますよ?」


いつまでも動かないでいるアイナにレティシアは警告する。


「…………分かりました」


渋々、アイナは魔法を発動させようと構えを取る。

足を肩幅に開き、両手を前に突き出す姿勢。これがアイナの基本姿勢。

魔法を使う姿勢は人それぞれで、中には道具を構える者もいる。

道具があるからといって優劣があるわけではなく、その人個人が集中できる状態を作る一種の暗示のようなものだ。


「では、試験を開始しなさい。元素魔法、系統は自由です。自分の得意とする魔法を。普段の練習の成果を見せなさい」


今回の試験内容はシンプルで、自分の得意とする系統の魔法をなんでもいいから見せるというもの。


アイナは頭の中でいつも思い描いている魔法のイメージを思い浮かべる。イメージするは水。流れ。奔流。

大気に満ちた魔力を感じ取る。世界に自らの神秘を体現するための魔力を世界からかき集める。

そこに自分の魔力を練り込み、イメージを魔力に、魔力を世界に。

そしてここに魔法と名付けられた神秘が成る。


はずだった。


「!アイナ!やめなさい!学校を吹き飛ばす気!!」


アイナのクラスメイトの一人が悲鳴に似た声で叫んだ。

実際、それだけの危険を感じずにはいられないのだろう。

アイナが魔法を発動すると同時、嵐が巻き起こる。

それは正確な嵐ではなく、アイナを中心にして起こる魔力の嵐だった。


「ぐっ!」


アイナは魔力の流れを抑えようと、歯を食いしばる。

水の流れというイメージを魔力に込める。ありったけの意志を魔力に込めた。


しかし、状況は変わらず、嵐は酷くなる一方。

そこには荒れ狂う魔力の流れだけで、水はどこにもない。


「……そこまで!」


レティシアの怒号が響く。アイナは魔力の生成をやめる。


すると、嵐は止んだ。


アイナはうなだれている。実際にアイナの魔法は失敗したのだ。


「アイナ・エアハート、魔力の操作は試験以前の問題だぞ?」


「……はい」


今回の試験は元素魔法が試験科目となっている。

元素魔法の系統には、火、水、土、風の四種類がある。

系統の得意不得意は適性があるため全部を扱えるという人は少ない。

一種類か二種類が普通だ。


しかし、アイナは水系統の魔法を発動しようとしたが、起きたのは魔力の嵐だけだった。


「まぁいい。今後、励め。次!」


そういってレティシアは次の試験に移っていく。

そこに残されたアイナはただ自分の足元を見つめるのみだった。

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