第3話
魔法陣の中心に向かってアイナとユウナはゆっくり歩いていく。
そして、二人は陣の中心で仰向けになっている少年を見下ろす。
「これ、生きてるの?」
アイナが疑うのも無理はない。
少年は至る所にやけどを負い、来ている服は焦げている所の方が多い。
よく見ると、炭化して黒くなっているところと血で黒ずんでいるところとある。
生きていると思う方が難しい。
「わかんない……」
生死を確かめるためにユウナは少年の元に膝を立てて座り込む。
血の臭いに顔をしかめるも少年の口元に耳を近づける。
「…………っ……ゅ………」
「! 生きてる! 生きてるよこの人! 」
「うそでしょ! こんな酷いケガなのに」
「でも、このままじゃもたないよ。今、私が使える魔法を使うにしても間に合わないかも」
「クリスタルは?」
「手持ちのやつは全部使っちゃったよ。家に帰ればあるけど……」
「とにかくユウナはこの人に治癒魔法かけて! なにもしないよりは時間が稼げるはずよ」
「わかった! でもどうする?魔法使うにしても応急処置にしかならないし、魔力ももうそんなにないよ……」
「お母さんがいる。お母さんに連絡してルイさんに診てもらえるように頼んでもらえば大丈夫なはずよ」
「そうだね」
「ユウナはとにかく治療お願い」
「わかった」
ユウナに指示を出すとアイナは腰に巻いていたポーチを開き、中からデバイスを取り出す。
これは指定のデバイスにしか連絡を取れないが今は指定されている所にコールする。
2、3回コール音を耳で聞き、反応があった。
『は~い、もしもし~』
間延びした優しげな声がアイナの耳に届く。
この声を聞くとアイナは張り詰めた緊張がいくらか和らいだ気がした。
声の持ち主がアイナとユウナの母親、セラフィーナだ。
「もしもし、お母さん。アイナだけど」
『あら、アイナ。こんな時間までどこにいるの?ユウナもいないのだけど~?アイナもユウナも門限が何時かわかっているのかしら?』
アイナの背中に冷や汗が浮かぶ。
変わらずに優しい口調だが妙な迫力があった。
セラは普段温厚で優しい母親だが怒らせるとトラウマ級に恐い。
「えっと、ユウナも私と一緒にいる」
声のふるえを抑えながら話すアイナ。
門限も盛大に破っている上、今の状況は確実にやられるとわかっている。
『そう。二人して不良さんなのね。お母さん悲しいわ』
「いや、そういう訳じゃなくて……」
『しょうがないのかしら、お父さんは家にほとんど帰らないし、その悪い癖が似ちゃったのかしら?帰ったらどうしましょうか?……うふふ』
「……………」
アイナは自分の母親が笑いながらも明らかに般若を後ろに従えている姿が容易に浮かんだ。
それを思い浮かべると声がでない。
足がふるえる。
自分たち二人と父親が帰ったらなにをされるかなど想像もしたくないが、恐怖が増大していく。
「お姉ちゃん! 」
「っ! お母さん! 」
ユウナの悲鳴にも似た声に意識を元に戻す。
話も思考もずれてしまった。
『なにかしら?』
「怪我した子がいるの! 私たちじゃどうにもならないの! 」
『……詳しく話しなさい』
アイナは今の現在地、ここにいる理由、少年のけがの状態を簡単に説明する。
自分がしようとした魔法について除いて。
最後に少年を運ぶための足が欲しいのとルイを呼ぶ事をお願いする。
『……わかったわ。待ってなさい』
さっきとは打って変わって冷たい声がアイナの耳に届き、切れた。
「お母さん。どのくらいで来てくれるって?」
ユウナはアイナに聞くが、反応はない。
アイナは最後に聞いた母の声に恐々とし震えていた。