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第1話

世界《ディエベルト》では魔法という神秘が発達した。

世界の加護を受けた人々は、神秘を自らの手で起こす事が出来るようになる。


水の国《アルクレイド》。


世界《ディエベルト》にある島国だ。

豊かな水資源と穏やかな気候から様々な産業が盛んに発展している。

魔法系統は多岐にわたるが、水系統の魔法使いが一番多いのもこの国の特徴である。


アルクエイドでは、特に教育、研究機関の発展に力を入れている。

その魔法技術はトップクラスの技術力を持っている。


都市アルベルはアルクレイドでも比較的大きな都市である。

この都市の隣には工業都市エクルが隣にあるため住宅が多い。


そして、国内で最も教育に力を注いでいる都市でもある。

この都市出身の魔法科学者、ならびに魔法使いは今のこの国の最先端を走っている。


そんなアルベルの郊外にエルヴェの森がある。


都市の3分の1を占める森。

普段多くの動植物が生息し、国の保護区画に指定されている森でもある。

エルヴェの森には数軒の小屋がある。

それはこの森の生態調査のためにとある調査会社が建てたものだ。

いまだにその調査は続いている。

そのうちの何件かは調査が一時終了し、しばらく使われる予定のないものが存在する。


その内のひとつの小屋に灼熱の地獄が広がっていた。



「ぐっ! お姉ちゃんまずいよ! 私じゃ制御できない! 魔力が大きすぎる」


ユウナ・エアハートは切迫した声を上げる。


このままでは命の危機がある事が予感してならない。


腰まで伸ばした金髪を吹き荒れる熱波で揺らし、その細腕で必死に魔力の奔流を制御しようと力を込める。

彼女の端正な顔立ちは見るものを魅了するが、今の切迫した状況からかその表情は硬い。


「これお姉ちゃんの魔力だよね! これ以上私じゃ押さえきれないよ! 」


吹き荒れる熱波と緊張で全身から汗が噴き出る。

熱波は相当の熱さで目を開けているのも苦しい。

その灼熱は大きく息をしようものなら、一気に喉と肺を焼くだろう。


はたして今発動している魔法を抑え込む術はあるのだろうか?


「ぬぅ~! ユウナ! とにかくあたしがなんとかしてみるからできる範囲でいい! 魔力の流れをコントロールして! 」


アイナ・エアハートはイライラを隠さずに声を上げる。

これはアイナが発動した魔法であり、自分に消す責任があると分かっている。

肩口で揃えた金髪の中で、一房を三つ網にしたおさげがひときわ大きく揺れている。


自らの魔力を制御しようとありったけの意志を込める。


その顔は、ユウナと酷似していて髪型と髪の長さが同じであれば見分けがつかない。

それもそのはず、アイナ・エアハート、ユウナ・エアハートはファミリーネームが同じな事から分かる通り、姉妹だ。


「あぁ~もう暑いわね! 目も開けてられないじゃない! 何なのよこれ! 」


「これもこの魔法の効力なのかな?」


「知らないわ。少なくとも本には書いてなかった………と思う」


「……お姉ちゃん、途中で読むのやめて手を出したの!? 」


「…………そんなわけないじゃない」


「今の間はなに!? 思いつきで分からない魔法に手を出しちゃ危ないよ!」


「だぁぁ~~うるさい! 」


「うるさいって……」


「とにかく集中しないと! こうしてる間にどんどん魔力持っていかれてるのよ。こんな魔力の減り方初めてだからどうなるかわかんないから」


「大丈夫なの!? この感じからいって普通の人の倍以上はあるんだけど」


魔力の制御に自信のあるユウナには分かる。


彼女が抑えようとしている魔力は常人の遥か倍以上の流れ。


ユウナの魔力量は平均値の少し上くらいなので通常の魔力量の魔法ならば制御することはたやすい。

しかし、今発動している魔法は規格外の魔力量を必要としている事は魔力の奔流から明らかだ。


平均値の魔力量しか持たない人ならばもっと前の段階で命を落としていてもおかしくはないが、


「問題ない!消費は確かに大きいけどまだ大丈夫!! 」


ユウナの姉・アイナの魔力保有量も規格外だという事だ。


「……相変わらずでたらめだね」


そのつぶやきはアイナの耳に届く事はなかった。


とはいえ、この状況がどれだけ続くかもわからない。

長く続けばいくら今余裕そうなアイナでも限界は来るだろう。


(なんとかしないと、でも……)


ユウナは制御に徹しているため魔力の減少は最小限に抑えられている。

しかし、おそらく姉よりも早く限界が来る。

ユウナにはこれだけの灼熱の地獄の中で精神を強く保つ自信がない。

しかも終わりが見えない事も大きい。

いくら魔力量に余裕があっても、それを行使する意思がない事には意味がない。

ユウナが倒れてしまえば、アイナはこれまで以上に魔力の消費大きくなるだろう。

今の状況を維持する事が自分の限界という事は気づいている。

とにかくユウナは早く地獄が終わる事を願った。


願ってしまった。


その瞬間、魔力の奔流が一瞬、強く弾けた。


「きゃっ! 」


ユウナは小さな爆発に吹き飛ばされ、小屋の壁に強く背中を打ちつけてしまう。


「ユウナ! 」


アイナは魔力を必死に押さえながら、ユウナが吹き飛ばされた方向に振り向く。

そこには壁にたたきつけられ、苦悶の表情を浮かべたユウナがいた。


「げほっ…ごほっ……私は大丈夫だから……集中してお姉ちゃん」


苦しそうに豊かな胸に手を当て、呻きながら、言うユウナ。


その様子から大丈夫な様子は見て取れない。


今すぐにでも駆け寄りたいという衝動に駆られる。

しかし、そうも言ってられない状況だ。


今、アイナがユウナに駆けよればこの魔力の暴走はどうなるか分からない。


何よりユウナにさらに負担をかけてしまうかもしれない。


(それにしても……)


アイナはユウナが抜けてからの魔力の消費が激増したことに内心焦っていた。

これまでユウナが魔力の奔流をうまく循環して制御してくれていたのだ。

その分、アイナの魔力消費も最小限に抑えられていたのだろう。


通常、魔力を制御するには正確な計算式などは存在しない。


あくまで術者の感覚に依存する部分が大きい。


術者の才能もしくは長い年月をかけて磨かれる技術と言える。


それを自分と同い年で、魔法を学び始めたのも同じ時期のユウナがこれほどの激流を制御できていたことに驚愕する。


「さすが天才といったところか……」


自嘲気味につぶやく。

しかし、膨大な魔力の奔流を一人で制御するには無理がある。

もともとアイナは魔力の制御が大の苦手だ。

しかもアイナは今も魔力を《なにか》に吸われ続けている。


また爆発が起きる。今度はある程度身構える事が出来た。

だが、魔力の消費はより多く、流れは激しさを増す。


「ぐっ」


最早アイナ一人では抑えきれない。


「お姉ちゃん! 」


ユウナが衝撃から立ち直る。


「ユウナ! 」


ユウナは左手を掲げ、激流を抑えようとする。

白く綺麗な左腕には数ヶ所に擦り傷と軽い火傷。


また爆発が起きる。

これまでの爆発と比べ小さいもの。


アイナは必死に両手を翳し、魔力を抑える。

ユウナよりも魔法陣の近くにいたため、両手はすでに火傷や魔力の激しい流れに舞う瓦礫の破片でできた裂傷で傷だらけになっている。


「お姉ちゃん! 後少しだよ」


ユウナは今にも弾かれそうな左手を右手で支え、アイナと自身を鼓舞する。

左手には新たな裂傷が刻まれ、血が弾け飛ぶ。


「そうみたいね」


そんな声に答える。実際、魔力の消費はだんだんと減っている。


小さな爆発が連続して起きる。

しかし、魔力の奔流に比べれば軽いもの。

魔力の奔流も心なしかそのなりを収めていく。


「ユウナ……ごめんね、怪我させちゃって……」


「大丈夫、クリスタルあるからこれくらいならすぐ治るよ」


そう言って、ユウナはアイナに柔らかく微笑む。

そしてすぐに真剣な表情にする。


「……それにまだ終わってないよ」


事態は確かに収束に向かっているように思える。


しかし、今発動している魔法は全くの未知の領域。


文献の中で存在と魔法陣がかかれているのみ。

いくらアイナの魔力保有量も未知数とはいえ限界に近いはずだ。

しかも、この先なにが起こるのか二人には全く予想がつかない。


しかし


「大丈夫よ。魔力の減りも普通になってきたしなによりユウナもいるしね」


そんなユウナの緊張はアイナには伝わっていないようだ。


両手には軽いやけどと裂傷があり、部屋を包む熱気により尋常でない量の汗を流している。

その小さな体とボロボロの両手でありながらも、アイナは余裕の笑みを浮かべている。


「……お姉ちゃん」


そんなユウナの余裕が油断になりうると思い、より一層左手に魔力を込める。


「それよりもユウナ。帰ったときにお母さんにどうあやまっ!」



瞬間、爆発が起こるこれまでより大きな爆発がアイナを襲う。

身構えているとはいえ人は爆発の衝撃に耐えられるようにはできていない。

それは心の準備と言うものであり、体が硬直する事を防ぐためでもある。

アイナの小さな体と合わせ、油断した瞬間に起きた爆発は、


アイナを4メートル程吹き飛ばし、壁に叩きつけた。


「ぐっ………」


「お姉ちゃん! 」


ユウナの悲鳴じみた声。


アイナは爆発と壁に叩きつけられた衝撃から立ち上がれない。


意識が朦朧とする。


起きあがろうとするも力が入らない。


顔だけを上げる。


薄れゆく意識の中、見えたのは、アイナを背に庇うようにして必死に左手を掲げ、

魔力の奔流を抑えようとしているユウナの背中と、


魔法陣の中心で集まるようにして輝く魔力の塊。


(……きれい)


吹き荒れる魔力の奔流。


その中で塊は一際強く美しく輝いている。


それは終始うごめき、粘土のようにその形を変え、形を成していく。


(……ひ……と?)


そこでアイナは意識を失う。


最後に見た魔力の塊は、人の形をしていた。


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