第16話
話を重ねるごとに文章量が増えていきます。
キャラの心理描写とか会話とかむずいです。
「ユウナギ君」
とある日の昼休み、授業が終わり教室内の生徒がそれぞれの時間を過ごそうとしている。
春人はユウナお手製のお弁当を食べようと意気揚々としていた。
そんな時、クラスメイトの小柄な女子生徒、ソフィが声をかけてきた。
手にはお弁当である。
「一緒にお弁当食べよう」
「おう、いいぞ」
すでにこのクラスに転入してきてもうすぐ一カ月になる。
初日にユウナの件でいざこざが起きた男子たちとも、軽口をたたき合う事の出来るようになってきた。
そして、こうしてお昼のお誘いを受けることもたびたびだ。
「俺もいいか?」
隣に座るガイも顔を出す。
先ほどまでというか授業中ずっと寝ていたはずなのに、驚異的な寝起きの良さだ。
「なによ、ガイ。あんた弁当なんて持ってきたの?」
「おうよ!今日はマイシスターが俺に愛を込めて作ってくれたお弁当がな!」
ガイが掲げるお弁当箱はかつて見たことのあるピンクのうさちゃん弁当箱。
すでにオチが読めた春人だが、指摘するほど野暮ではない。
というよりも輝く笑顔で言うガイにそんなこと言えるわけがない。
ソフィも面白そうという事で、食べる時まで放置することにしたようだ。
「じゃあ、今日は天気がいいから中庭行かない?」
「それいいね。俺、行ったことないんだよ」
「俺もそれでいいぞ」
「決まりね。リタ……。て、どこ行った?」
「マルシェさんなら授業終わった時にはもうすでにいなかったよ」
ガイと反対側に座るリタは授業が終わって、気づいたらいなくなっていた。
気配すらなく、音もなく席を立つ事もさることながら、授業終わりとのタイムラグが全くなかった。
こんな日が何度かあったので、さすがにもう驚かないが、謎は深まるばかりだ。
「そっか。じゃあ、行きましょうか」
三人で教室を出る。廊下を歩いているとガイがこっそりとこんなことを、
「なぁ、今日も姫君の手作りなんだろ。今日こそちょっとくらいわけてくれよな。俺も妹のおかず分けてやっから」
「ふざけろ」
ユウナの弁当は死んでも渡さないと決意する春人だった。
中庭には数人の生徒がいるぐらい。
しかし、ベンチはすでに埋まっていたため、春人たちは芝生の上で食べることにした。
空は雲ひとつない晴天で、日差しはそんなに強くなく、心地よい風が吹いている。
つまりは絶好のピクニック日和だった。
「なんかここまで気持ちいいと得した気分だな」
「ホントね。私の狙いに狂いはなかったわね」
春人の感想にソフィが賛同する。
「にしても、ユウナギ君のお弁当いいわね」
春人のお弁当はユウナが作ってくれたもので、量も味も春人好みに仕上がっている。
今日の献立は、白米にから揚げ、グラタン、ミックスベジタブルとあとは名前の分からないおかずが二品である。
これが全て手作りだというから驚きだ。
初日からあれこれとお弁当の感想をユウナに聞かれ、報告していくうちにここまでのお弁当が出来上がった。
きっとユウナは将来いいお嫁さんになるだろう。
「そういうソフィこそ美味しそうだね」
ソフィの弁当のおかずは春人から言わせれば、和一色だった。
煮物にきんぴら、梅干し、煮豆と渋い中身に春人は毎回懐かしさを覚える。
「私も姫君のお弁当食べてみたいわ」
「でも、俺がいいというものでもないしな」
確かにソフィのおかずを食べてみたいのだが、交換の対価としてユウナのお弁当のおかずを進呈するのは抵抗がある。
「じゃあ、本人に聞いてみるわ。おーーい」
ソフィは春人の後ろに向かって手を振る。
春人が振り向くとそこにはベンチに座って食事をしているアイナとユウナの2人がいた。
2人は手を振るソフィに首を傾げていたが、春人がいることに気がついたようでユウナは笑顔で手を振り、アイナはそんな妹を見てやれやれと言った様子で見ている。
すでにお弁当は食べ終わっていたようで、2人はお弁当を片づけるとこちらへとやってきた。
「ハルトさん、今からお昼ですか?」
「ああ。そっちは早いね」
「魔法科は普通科より授業少ないから、午後の演習のために早めに午前の授業が終わるのよ」
「お姉ちゃん、朝の授業サボってたじゃない」
「細かいことはいいのよ」
「おいおい、細かくねェよ。という事は何か?アイナのサボりにユウナは付き合ったのか?」
「いえ、私は4限目の魔法座学は免除されてるので、人より早めに授業が終わったんです。そしたら、お姉ちゃんを見つけて……」
「免除っていいのか、それで?まぁ、ユウナはいいとしてアイナは何で出てないんだよ」
「それは―――」
「んなこたぁ、どうでもいいわよ」
アイナが何か言おうとしたことで、ソフィが口を挟んだ。
「ユウナギ君、2人を呼んだのは私であってあなたじゃないのよ?いい?」
「いや、そうだけどさ」
「話しが分かるわね、先輩」
「というわけで、お二人さんこちらにどうぞと」
そう言うとソフィは自分の隣に2人分のスペースを空けた。
「ありがとうございます。えっと」
「ソフィだよ。ユウナちゃん。そっちはお姉さんのアイナちゃんでいいのよね」
「―――そうね」
2人はソフィが空けてくれた所に腰を下ろした。
「で、何のようなわけ?」
アイナは年上に対しての態度ではない事は明白だが、そんなこと気にした風もなくソフィは要件を言う。
「ん?お二人とお近づきになりたいと思ったからね。お弁当食べちゃったのなら仕方ない。ユウナちゃん」
「はい?」
「ユウナギ君のお弁当食べてもいい?」
「ハルトさんさえよければいいですけど――」
「だってさ、ユウナギ君。ほれほれ、よこしんしゃい」
ユウナがいいというのだから春人が断る理由もなくなった。
「お前はおばあちゃんかって、じゃあ、そっちのおかずも分けてくれよ」
「ほれほれ」
春人は煮物を、ソフィは唐揚げをそれぞれからとっていった。
「おお、おいしい!ユウナちゃん!お弁当だからこそ冷めてもおいしいようにした味を濃くしてるのかな?」
「はい。わかりますか?それにハルトさんは濃い味が好みみたいで―――」
2人は料理談議に花を咲かせる。
ソフィの煮物はしっかりと味が染みていておいしかった。
そう言えばと春人は気になった事があった。
するとアイナが春人に小声で、
「ねぇ、ハルト。……あの人どうしたの?」
アイナがそう言うのも無理はない。
この中庭の位置に落ち着いてからまだ一言も話していないのだ。
春人も気づかなかった。
ソフィはあえてそっとしていたのだろう。
アイナが気にしたのは、先ほどからこちらに背を向けて微動だにしないガイ。
「おい、ガイ、どうし―――」
春人は声をかけようとしてガイの顔を覗き込もうとしたが動きが止まった。
見えてしまったからだ。
ガイが手にもつ蓋が開けられたお弁当箱。
つまり、今日の献立。
「―――なぁ、ユウナギよぅ」
「なんだ、ガイ」
「このお弁当、美味しそうだろ?」
「そう……だな」
「はは、だな。いただきます」
そう言うとガイは、入っていた梅干しに箸をのばす。
次に梅干し。
その次も梅干し。
というか梅干ししか入ってなかった。
「くうぅぅ~すっぺ~うめぇ~涙が出る!」
なおも笑顔で泣きながらも見てるだけで口の中が酸っぱくなるようなお弁当を食べるガイに、春人は思わず合掌していた。
「ハルト?」
「大丈夫。あいつは強く生きるよ」
アイナは訳が分からず首を傾げている。
だってそうだろう。
妹のお弁当を食べるという事が、どれだけ兄貴にとって、うれしい事なのかが分かるわけがない。
たとえ、梅干し一色のお弁当でも。
それを嬉しそう?に食べるガイはお兄ちゃんの鑑だ。
自分はごめんだが。
「意味わかんないわ。それより、唐揚げもらうわね」
春人がもつお弁当から唐揚げを一つ取り口にくわえるアイナ。
「おまっ!誰に許可もらって。ああ、あと2つしかねェじゃねえか」
「いいじゃない、別に」
「うるさい。楽しみしてたんだよ、唐揚げ」
「ケチケチすんじゃないわよ。男のくせに。あ、グラタンもらうわね」
「おかずがなくなるわ!」
春人はアイナからおかずを死守するべく、急いで口を動かす。
もっと味わいたかったが、すぐに空になってしまったのは言うまでもない。
「あれ、マルシェじゃねえか?」
昼ご飯を食べ終え、5人で昼休みを堪能しているとガイが渡り廊下の方を向いて言った。
「ホントだ。リタね。なにしてんのかしら?」
ソフィもそちらに視線を向けると確かにリタが渡り廊下で男子生徒と話していた。
「あの制服、魔法科だな」
春人もそちらを見ると、リタが魔法科の男子生徒と話していた。
話しているというよりも男子生徒が一方的にまくし立てているように見える。
「なんだ?どういう状況だ?」
「どうというか、あれはあのままじゃマルシェさんがかわいそうだ」
「そうね。ただでさえ人見知りのリタがあれはつらいわね」
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
春人は立ちあがり、リタと男子生徒の所に向かおうとした。
「私も行こうか?」
「まぁ、なんとかなるよ」
「俺も行こうか?」
「ガイが行くと、喧嘩になりそうだからいいよ」
「何だよそりゃ」
「事実でしょ。この前も喧嘩沙汰で先生に呼び出されたでしょ」
「ありゃ、向こうから売ってきたんだって」
「あ、私も行きます」
ガイとソフィが言い争っていると、次に立候補してきたのは意外にもユウナだった。
「ユウナ」
そんなユウナをアイナは心配そうに見ていた。
「いや、あの子はクラスメイトだから俺が行くよ」
「いえ、あの人、ちょっとした知り合いで―――」
ユウナが知り合いといったのは男子生徒の方のようだ。
魔法科の生徒だから面識があるのだろうか。
「ユウナ、やめときなさいって」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
アイナはよっぽどユウナをあの男子に会わせたくないのか否定的だ。
春人もアイナがここまで心配しているのとユウナの顔がどうも気が進まないように見えた。
「無理しなくても大丈夫だよ、ユウナ」
「いえ、行きます。それに私がいた方が話しやすいと思いますよ?」
この学園では魔法科と普通科の間に確執がある事は春人も感じていた。
ユウナがいることで話せることもあるだろう。
春人たちのように、いるのはかなり特殊だ。
「じゃあ、頼む」
いざとなれば自分が盾になればいいと春人は判断した。
「いざとなったらおれも行くからな」
「おとなしく座ってろ」
春人は2人のいる渡り廊下へと早足で向かった。
その後ろを遅れて、ユウナが付いてくる
近づくと2人の会話が聞こえてきた。
「どうしてお前は―――」
「………」
やはり男子生徒が一方的にまくし立て、リタはうつむき肩を震わせていた。
「マルシェさん」
春人は男子生徒は無視してリタに話しかけた。
リタは肩をビクッと震わせて恐る恐ると言った様子で振り返った。
目が前髪で隠れてしまっているため見えないが、頬は濡れて光っていた。
泣いていたことは春人にも分かった。
怒りを必死に押し殺して、春人は努めて優しい声を出す。
「もうすぐ授業始まるよ。行こう」
言われたリタはあたふたと視線を春人と男子生徒とに往復させる。
「なんだい君は?」
男子生徒がイライラした様子を隠さずに言う。
「クラスメイトだけど?」
「なら、黙っていろ。これは家庭の問題だ」
「家庭?」
ということは、この男子生徒はリタの兄なのだろうと春人は考えた。
しかし、だからといって無視はできない。
「―――シモン先輩」
春人の後ろにいたユウナが呼びかける。
シモンと呼ばれた男子生徒から春人が陰でユウナが見えなかったのだろう。
ユウナの姿を見ると、シモンは取り繕うように笑顔を浮かべた。
「やあ、ユウナさん。どうしたんだい?」
「いえ、先輩の姿が見えたので、その人は妹さんか何かですか?」
「ああ、そうだよ。普通科のね。全く情けない限りだよ」
シモンはリタの肩に手を置く。
その表情は人を見下したような笑みが浮かんでいる。
「我が家の汚点でね。エルヴァシウスの血が通っているはずなのにね」
リタはうつむいたまま、シモンの声を聞いていた。
春人はシモンを睨むように見る。
しかし、シモンは春人の睨みに怯んだ様子もなく続けた。
というかユウナに気づいた時点で春人など見てもいなかった。
「ユウナさんにも分かるだろう?血縁というのはやっかいでね」
いやらしく粘着質な声一つ一つが春人の脳に響く。
シモンがどういう考えを持っていて、リタをどういうふうに見ているのかははっきりと理解していた。
「妹がこうして普通科なんて言う落ちこぼれになってしまうと僕まで同情した視線を受けるんだよ」
春人は必死になって耐えていた。
脳の奥底、心の底は沸騰して熱くなる。
視線で人が殺せるなら、この男を黙らせたかった。
両手を握りしめ、なお強くシモンを視線で射抜く。
「ユウナさんも『能なし』の姉がいるから、僕の気持ち分かると思うんだけどさ」
シモンはユウナが絶対に自分と同じ気持ちだと疑っていない。
春人からユウナは見えないから彼女がどんな表情をしているか分からない。
そして春人は自分がどんな目をしているのかも分からない。
「そっちの男もそうだけど、ユウナさんにふさわしくないよ。こんな普通科にいる魔法の適性のない世界に選ばれもしなかった男は」
シモンは自分の言葉に酔うように続ける。
彼には春人もユウナさえも見えていなかった。
そのことも春人にとっては耐えがたいことだった。
故に、
「こんな無力でなんの才能もない無能なね」
春人の心の奥底でパンと何かが弾けた。
「ユウナさんにも分かるだろう?血縁というのはやっかいでね」
ユウナにこの男がなにを言っているのか理解できなかった。
やっかい?
ふざけるな。
シモンに手を置かれたリタという少女はうつむいて震えている。
それを目の前にいる本人に向かって言う男の神経を疑った。
「妹がこうして普通科なんて言う落ちこぼれになってしまうと僕まで同情した視線を受けるんだよ」
それを言って何になるのか。
自分がはい、そうですねと言うとでも思ったのだろうか。
ユウナはシモンに黙ってほしかった。
これ以上は自分の理性が負けてしまうから。
「ユウナさんも『能なし』な姉がいるから、僕の気持ち分かると思うんだけどさ」
この人はまたアイナの事を言っている。
この間、それでユウナの怒りを買った事を覚えていないのか不思議に思う。
これでは気にしていた自分が馬鹿みたいじゃないか。
それともあえて怒らせているのか。
「そっちの男もそうだけど、ユウナさんにふさわしくないよ。こんな普通科にいる魔法の適性のない世界に選ばれもしなかった男は」
そっちの男というのはユウナの前に立つ春人の事だろう。
ユウナの位置からだと春人の表情は分からない。
しかし、彼の手は強く強く握られていた。
赤く震えるほどに。
それに自分にふさわしいとはどういう事かと。
あなたが決めるなと。
ユウナはもはや我慢の限界だった。
故に、
「こんな無力でなんの才能もない無能なね」
ユウナは彼を黙らせようと動こうとした。
しかし、彼はユウナが動く前に黙ってしまった。
ユウナより先に動いた人物がいたからだ。
それは春人だった。
春人は突然一歩踏み込み、シモンの顔面を右手で殴り飛ばした。
シモンは今起きた事が理解できていないようだ。
地面に尻もちをついて、殴られた頬を手で押さえて、呆然としている。
リタも突然の出来事に呆然としていた。
ユウナの動きが止まる。
春人がシモンを殴った事に驚きはしたが、それではなく彼女は春人の表情が見えてしまったのだ。
そこには怒りも悔しさもなかった。
本当に空っぽ。
そこには感情と呼べる色はなく、春人は無色だった。
その表情を見てユウナは動けなくなってしまった。
しかし、すぐに春人の表情に色が戻る。
それは困惑だった。
それからすぐにシモンは自分が殴られたことを理解し、憤怒の表情を浮かべる。
「きさまぁぁぁあああぁあぁーーーーー!!!」
シモンは両手を振り上げ、魔力を練った。
「ハルトさん!!」
ユウナが叫ぶのと、春人の体が吹き飛んだのは同時だった。
春人は強力な突風に吹き飛ばされ、渡り廊下と校舎を結ぶ扉に叩きつけられた。
扉はその形を歪める。
付いていたガラスが派手にわれ、辺りに破砕音が響く。
ガラスの破片が廊下に散らかる。
廊下にはまだ生徒がいたのか、悲鳴が上がった。
叩きつけられた春人は意識がもうろうとしているのか、膝から崩れ落ち、うまく立ち上がる事が出来ない。
ユウナは突然の出来事に半ばパニックになっていた。
リタも震えるばかり。
しかし、シモンは違った。
彼はうつぶせに倒れる春人に近づくと、彼の後頭部を踏みつけた。
「『無能』の分際で!この僕を!君はーーーー!!!」
すでにシモンの表情から余裕は抜け落ち、憤怒に染まりきっていた。
彼は何度も春人の後頭部を踏みつける。
何度も何度も。
「ハル、ハルトさん」
ユウナはパニックとなった頭をどうにかもとに戻し、シモンを止めに入ろうと彼に駆け寄った。
「先輩!やめてください!ハルトさんが!!」
「うるさい!黙れ!こいつが―――」
「その辺にしとけよ」
ユウナの後ろから底冷えのするドスの利いた声が聞こえた。
ガイだった。
彼は、シモンの肩をつかむと春人の体から遠ざけた。
相当な力だったのか、シモンはまたしてもユウナの横で尻もちをついた。
「おい、大丈夫かユウナギ!」
春人の側に膝をついたガイは少し焦ったように春人に呼び掛けるが、意識がないようで返事はない。
ユウナは改めて春人を見ると、踏みつけられた部分には泥が付着し、辺りにはガラスの破片でどこか切ったのか血が飛び散っていた。
「ハ、ハル」
「邪魔をするな!おまえもこうなりたいか!」
シモンは立ちあがり、再び腕を振り上げていた。
ユウナはそれに気づき、シモンとガイの間に体を滑り込ませ、シモンの起こした風を自身の風で相殺した。
「何事だ!」
「先生こっちです!」
中庭の方からソフィとレティシアの声が聞こえてきた。
「チッ」
シモンはユウナの横を通りすぎ、足早にその場を去っていった。
「ユウナ、なにがあった?」
「レティ先生」
起きた事を説明しようと言葉を絞りだそうとしたユウナだが、
「先生」
ガイがそれを遮る。
「ユウナギを先に運びたいんでいいですか?」
レティシアはユウナの様子とガイ、そして横たわる春人を見て驚いたのか目を見開くが、すぐに立ち直る。
「―――わかった。事情はそこで聞こう」
アイナは今見た光景を受け入れるという事が出来ない。
シモンが起こした風の魔法でなす術もなく吹き飛ばされる春人。
自身の召喚獣。
春人にはそんな自覚はないのだろうが、アイナは密かにこの事を誇っていたのだ。
春人がいることで自身の可能性が示されると。
春人たちがどういうやりとりをしたのかは聞こえなかった。
アイナから見えたのは、シモンを殴り飛ばした春人の姿。
きっとこいつは何かをすると期待した。
だが、期待は裏切られる。
勝手な事だが、アイナは春人に失望していた。
召喚獣は大いなる力を持っていたんじゃないのか。
あれではただの人じゃないか。
そこまで考えて、気付いた。
いや、ようやく見れたと言った方が良い。
春人は召喚獣ではなく、人だと。
これまで認めたくなかった。
魔法の適性のないただの人だと。
そして気づく。
これでは、周りの連中と一緒だ。
自身に向けられる侮蔑の類を自分は春人に向けている。
自分にとって何の証明にもならない春人を見下している。
己の醜悪さに衝撃を受け、アイナは気づくとその場から駈け出していた。
どうでしたか?
春人君フルぼっこですね。
ですが、主人公は何があっても立ちあがるから主人公なんですと言いたい!
ここまでの評価とか感想とかをいただければ励みになるので自分のモチベーション作りのためによろしくです!!