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第14話

安定して描きためています

春人が学園に入学してから一週間が過ぎた。


今日は学園に入学してから初めての休日というものだ。

春人はどう過ごしたものかと悩んだ。


アイナとユウナは魔法科の授業に行っているらしい。

休日でも授業があるのは、魔法科は普通科とは違い、平日の半分の授業が魔法の座学や実技に費やされているため、一般教育にかける時間を補わなければならないそうだ。


春人も授業はないがアイナ達についていこうとしたが、


「普通科は魔法科の補習がある時は、登校禁止よ」


とアイナに言われた。

理由を聞くと、ユウナが答えてくれた。


「教養に足して実技の特別演習をやってるんです。魔法科の生徒は魔法にある程度の防衛手段があるからいいんですけど、普通科の適性の低い生徒に被害があったりすると大きな事故になりかねないからだそうです」


「ま、建前上はそうなってるけど、一部の名家出身の生徒が集中して魔法に取り組む事が出来るようになんていう理由が本音らしいわ。要は、魔法科と普通科を明確に差別化してますってお偉方に示したいのよ」


春人にとっては気持ちのいい理由ではなかったが、ルールならしょうがない。

という事で学園に行く事はあきらめたところで、セラフィーナが喫茶店を手伝わないかという提案をしてくれたのでウェイターの仕事をすることになった。


「ハルト君、学校はもう慣れた?」


今、春人はセラフィーナが経営している喫茶店のカウンターで食器の整理をしている。

厨房にはエプロン姿のセラフィーナ。

腰まである長い銀髪を後ろまとめポーニテールにしている。


彼女が経営する喫茶店フェリーチェには常連さんから口コミできたお客さんで結構繁盛しているため、お昼時はかなり忙しい。

今はお昼を過ぎたため一番忙しい時間帯は過ぎている。

店内にお客さんは何か書きものをしている女性と昼寝をしている中年男性、そしてフェリーチェでバイトしているという女の子しか見当たらない。


そのため、ゆうゆうとセラフィーナと世間話ができる。


「そうですね。いろいろとしてくれるクラスメイトがいて助かってます。それとユウナにも」


「そう、ならよかったわ」


春人の学園生活に思う事があったのか、セラフィーナは安堵している。

春人に学園入学を勧めたのは彼女なので、そのことで春人が悩むような事があれば気にしてしまうだろう。


今のところ問題ないのは、ソフィ達のおかげだろう。


ソフィの世話焼きスキルやガイの楽天的な性格は春人の気質にも置かれた状況にとってもありがたいことだし、自分も過ごしやすい環境が出来上がっている。

クラスもあのユウナ襲来以来、打ち解けたといえるほど気やくす春人に話しかけてくれるようになった。


大半がユウナに関する事だったが。


「文字の方は?どのくらい分かるようになったの?」


「そうですね。簡単な絵本みたいなのなら一人でも読めるようになったんですけど、教科書とかになっちゃうと難しいですね。」


「にしても、不思議よね。会話はできるのに文字が読めないなんて」


「確かにそうですね。まぁ、ともあれユウナのおかげで苦もなく勉強はできてます。授業も友人にお世話になってますし」


「いい友達じゃないの。今度紹介して頂戴。サービスするから」


「ははは、サービスなんかしなくてもいいんですよ。今度連れてきますから」


春人がこの世界に来て気付いた特徴は、春人の世界とこの世界はどこか似ているという事だ。

春人にとって、外国の文化と日本の文化が入り乱れている。

そこに、見た事のないこの世界に文化を取り入れているというのが春人の認識だ。

つまり、この世界は、春人の世界でもこういう事がありえたかもしれないという可能性の世界なのだ。


文字を例にして出すと、春人が会話、つまり言葉が理解できるのはこの国の言葉が日本語だからというのが大きい。

しかし、言葉を表現している文字は、春人が見た事のない文字だった。

この世界ではかなの文字が発案されておらず、代わりに事なる文字が発案された歴史をたどったと考えられる。

他にも地図は地球のそれに近いものになっていたり、似たような童話があったり、食べた事のある料理だったりと多岐にわたる。


そのおかげで、春人は苦労する事もあれば、苦労せずにいられるときもある。

文字も全く分からない文字ではあるが照らし合わされる言葉はかなであるから、それに合わせればよいし、漢字がない分こちらの方が楽ではある。


多くの助けがありながら、春人はこの世界にも順応していけそうだ。


「にしても、いまだに自分が置かれた状況に実感がわいませんよ」


「そうなの?」


「ええ、なにせ俺の世界には魔法なんて概念は創作の世界ですからね。それが目の前で実現してるなんて信じられないですよ」


「あら、ハルト君の世界は魔法がないと言うけれど、どうやって発展していったの?」


「魔法じゃなくて科学の力とでもいいましょうかね。産業革命によって大きなエネルギーが得られて、それを利用して多くの国が経済的に豊かになって行ったんですよ」


「魔法とは違うエネルギーがあったの?」


「化石燃料ですね。地球の何億年もの月日をかけて作りだされたものです。まぁ、俺の世界ではこれが何年かすると枯渇するっていって新たなエネルギー源を模索している途中でしたけど」


「なんかまるでそこで大きな分岐があったみたいね」


「俺からすれば、もっと前からあったように思いますよ。住んでる人種の地域とか国とか。というか、よく信じられますね、俺の話。俺からすれば正気を疑うレベルですよ?」


「そんなことないわよ。ハルト君は来た経緯が経緯だから信じざるを得ないわよ。私からすればこちらの世界に拉致して来ちゃいましたみたいなものよ?」


「もっと言葉を選びましょうよ、セラさん。悪意がないのは俺にもわかるんですから」


「そうは言うけど、ハルト君。私達にはあなたを帰してあげる方法が分からないのよ?」


セラフィーナ達にとっては、連れてきてしまったからには帰す方法も探さなくてはならないと責任を感じている。

現在、セラフィーナは様々なつてを使って調べているらしい。

らしいというのは春人にはどういう方法があって、どんなつてを使っているのか分からないからだ。

それはアイナとユウナにしても同じらしく、セラフィーナの交友関係についてはかなり広いという事ははっきりしているようだ。


「俺は気にしてないですよ。方法がないなら、探せばいいですし、作ればいいです。俺も文字が分かるようになれば、探してみようと思ってます。なにより、ここにいるのも悪くないと思ってるんですから」


何事もないように、心配しないようにと明るく春人はセラフィーナに言葉を返す。


春人の答えに対しセラフィーナの反応がない事に気づいた春人はセラフィーナに目をやる。

彼女は春人の顔を真剣な目つきで見ていた。先ほどまでの穏やかな表情でない。


「セラさん、どうしました?俺の顔に何か……?」


先ほどまでの穏やかな表情でないため、春人も少々焦り気味になる。

しかも、セラフィーナほどの美人に真剣なまなざしで見つめられるのはどうにも慣れない。


どこか心の内を見透かされているみたいで、


「ハルト君」


ふいにセラフィーナが口を開く。

同時に店内に、オーダーを取っている女の子の声が響く。


「店長~~」


オーダーを取り終えたようで、女の子がセラフィーナの所に来た。


「コーヒーおかわりとアップルパイです」


「わかりました~」


先ほどの真剣な様子とは打って変わって、穏やかの表情で答える。セラフィーナは厨房へと入って行った。


「店長となに話してたの~?」


「いや、世間話ですよ。リーダさん」


喫茶店フェリーチェでバイトをしているのは春人の一つ年下のリーダだ。

フェリーチェのウェイトレスが着るシックな感じの制服に身を包んでいる。

肩まである茶髪を首辺りで二つにまとめている。

決して小柄ではないが、どうも小動物の感じが抜けない少女だ。

しかも、アルクエイド学園の普通科に在学しているらしい。


「もう!年上なんだから敬語はいらないって言ったじゃん!」


「いや、でも先輩ですし」


「それは仕事上でしょ。今、ハルト君仕事してないんだから、そっちが先輩!」


「はぁ~分かったよ、リーダ。これでいい?」


「OKです。先輩!」


リーダは、お盆を持っていない方の手でピースサインを作り、人懐っこい笑顔を向ける。

彼女には、春人のウェイター仕事のサポートをしてもらっていた。


リーダも普通科という事で休日の日にはいつもシフトが入っているそうだ。

休日以外にも学園終わりにシフトが入っているらしい。

大変じゃないのかと思った春人が彼女に聞いてみたところ、


「お恥ずかしながら、うち貧乏でして。私も働かなくちゃいけないのはそうなんですが、何よりここが好きなんですよ!」


と、元気いっぱい笑顔満開で言われてしまったため、春人も自然とほほえましくなってしまった。


「リーダ、アップルパイとコーヒー。よろしくね」


「はいです!」


厨房から出てきたセラフィーナにメニューをもらったリーダは、意気揚々と仕事に戻って行った。

あの速度で歩いて、コーヒーがこぼれないのは不思議だ。


「元気な子ね。ハルト君もそう思うでしょ?」


「ははは、元気すぎて、こっちも元気になりますね」


リーダは笑顔で、お客にメニューを配膳している。

ここフェリーチェには、彼女目当てで来店するお客が3割ぐらいいるらしい。

快活な彼女に元気を分けてもらおうと通う人は数多くいるようだ。


実際、リーダが言った席では男性が鼻の下をのばしながら、彼女の接客を嬉しそうに受けていた。


「家もあの子のおかげで売り上げ増えて良かったわ」


リーダがこの店で働くようになったのは、一か月前かららしい。

アルクエイドでアルバイトが認められる年齢は、リーダの年齢かららしく、彼女もようやく家にお金を入れられると喜んでいる。


余談だが、フェリーチェで働く女性にはセラフィーナを筆頭に美人・美少女いる事もこの街では有名な事らしい(リーダ談)。

アイナとユウナも時間がある時に店を手伝っているとリーダから聞いた。


「先輩、どうしました?」


いつの間にか配膳を終えたリーダが戻ってきていた。


「なんでもないよ」


リーダが春人を不思議そうな顔で見ていると、セラフィーナが口を開いた。


「リーダ」


「はい、なんですか?」


「今日はもう上がっていいわよ」


「えぇ、でもまだお客さんいますよ?」


「これくらいなら私一人でも大丈夫よ。だから、今日は上がって、ね」


リーダはセラフィーナから何かを悟ったのと春人を見て、


「はい、わかりました」


そう言って、奥の部屋に入って行った。

数分経って、私服姿のリーダが出てきた。


「それじゃ、お先に失礼します!」


軽く敬礼するように挨拶をした後、リーダは帰って行った。


その数分後に、店内に残る客は誰もいなくなった。

店内には、春人と向かいに立つセラフィーナだけ。


「ハルト君も上がっていいわよ。そろそろ夜の子が来るから」


「はい」


「初仕事記念にお茶出すからそこ座って」


そういうとセラフィーナはティープに紅茶を注ぎ、カウンターに置いた。


春人も子たわる理由もないので席に着く。


温かいうちに紅茶で口の中を潤す。

春人には紅茶の味など分からない、

しかし、比べるのも失礼な気はするが、普段飲んでいたパックの紅茶とは違うことは明白だった。


「美味しいです」


「ありがとう」


それから数分経って、春人はカップに入っている紅茶を飲み干す。

あまり長居しても邪魔になるだろう。


「あら、もう帰るの?」


「あまり長居してもですし、なにかしときましょうか?」


「そうね、夕飯の買い物をお願いしてもいいかしら。買うものはメモにして渡すから」


「それくらいならお安いご用ですよ」


実際、春人がエアハート家でできる家事は限られている。

洗濯は基本女性しかいないので男である春人がするわけにいかない。

掃除もセラフィーナが塵一つ残さない完ぺきな仕事をしてしまうのでする必要がないし、春人に料理のスキルはない。


というわけで、今日も買い物を頼まれるぐらいしか役に立たない。


「じゃあ、買い物してから帰りますね」


「ああ、最後に一つ」


「はい」


これまでも雰囲気から春人は油断していたといっていい。

セラフィーナの顔は笑っているが、目は春人の心の内を見抜いているような眼をしていた。


ゆえに、触られる。


「もしかして、ハルト君、帰る気ない?」


どこにという事は聞かない、正確には聞けない。

その問いの意味は春人には十分に通じたし、逆に触れてほしくないものだった。

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