テンプレに徹底的に沿ってみる作品
「ミネルバ・フォン・アーデルハイド! 僕は君との婚約を解消する!」
突然の話だった。
どうして、私は何もしていないのに……。
そして王子のハンス様の隣にいるのは、私の義妹のマチルダだった。
「そしてここで宣言する、僕はこのマチルダ嬢を次の国王である僕の妻として婚約を発表する」
まただ、私の持っているものは全て妹に奪われる。
可愛い犬、綺麗なドレス、お母様の形見のアクセサリー、全て……全てがマチルダと、その母のマルガレーテに奪われた。
今日も普段なら外に出してくれないはずなのに、珍しくお下がりの地味なドレスを渡されてパーティーに出ろと言われたのが、この仕打ち。
「そんな……ハンス様。私は何もしておりません」
「言い訳は聞きたくない! マチルダから全て聞いている!」
「お姉様、もう諦めてください」
マチルダは勝ち誇ったように微笑んだ。
「私はあなたとは違うんです。ハンス様に愛されるのは私です」
「そういうことだ。ミネルバ、今日限りで王宮から出ていけ」
「……はい」
私は俯いた。
こうして私は、全てを失った。
ようやく家から出られた。こう考えた方がまだマシなのかもしれない。
この地味なドレスでも、庶民のパンの値段と考えればまだ数ヶ月のお金にはなるかもしれない。
どのみち、お父様がいない私には、誰も味方なんていないのだから……。
一人で生きていこう、私はそう考えた。
ドンッ!
行くあてもなく、城を出ようと外に出る時、私は誰かに後ろから押された。
そこにいたのは、下卑た笑いの男たち。
どうせマチルダの仕業だろう、でもここまでするのか。
私のものを横取りするだけでなく、いじめ殺すためなら手段を選ばない。
もう駄目……私は運命を呪った。
「なあ、依頼って二度と人目に晒せなくしろってことだったよな」
「だったらよ、遊んでやったあと売っ払えば二重に金稼ぎできるよな」
「それならはやくヤっちまおうぜ」
コイツらの好きにされるくらいなら、死んだ方がマシ。
でも何もできない私、そして途方に暮れていると……。
「ぐわぁ!」
「ぐげっ! なんだテメエ!」
「下衆に名乗る名前はない!」
誰かが三人の男をあっという間に倒し、私を抱きかかえてくれた。
貴方は誰なの……? 私は彼の顔を見る前に気を失った。
気がつくと、私は豪華なベッドで寝かされていた。
「お目覚めですか、お嬢様」
「え? 貴方は? ここはどこなの?」
私がいたのは、実家の一番広い部屋よりも大きな部屋、そのベッドに寝かされていた。
「私めは旦那様の執事でございます。お嬢様のお世話を仕りました、セバスチャンと申します」
「セバスチャンさん、ここはどこなの?」
「ここは、レオンハルト公爵様のお屋敷です」
レオンハルト、その名前を聞いて私は血の気が引いた。
通称残虐公爵。戦場の返り血で真っ赤に染まったマントを翻す人の姿をした悪魔。
そんな彼が私をどうしようというの? まだあの連中に捕まっていた方が命は助かったかもしれない、そんな恐怖が私の頭をよぎった。
「気が付いたか」
部屋に入ってきたのは切れ長の目の男、でもどこかお母様を感じさせる男性だった。
「貴方は、残虐公爵」
「はは、ひどい言われようだな。命の恩人にそのような言い方とは」
「す、すみません」
「いい、気にするな」
そう言うとレオンハルト様はメイドを呼び、私の服を用意してくれた。
こんな素敵なドレス、マチルダも持っていない。
「どうだ、それは姉上、ダイアナのお気に入りだったものだ。亡くなった際、私があの連中に奪われる前に先に形見としてもらっておいた、君の正式な持ち物だ」
「姉上? お母様?」
私にはまだ意味が理解できていない。
「あの、ダイアナは私のお母様ですが……」
「そう、そして私の姉だ。ミネルバ、君は王家の血を引いていたのだ」
知らなかった。そんなこと一言もお父様から聞いたことがなかったから。
でもそれだと、ハンスもレオンハルト様も私の叔父ということになるの?
それでようやくわかった。私が生きていると継母にとってもマチルダにとっても邪魔な存在だったのね。血の繋がりが濃い方が王妃の候補になるから。
「ところで、なぜレオンハルト様は残虐侯爵などと言われているのですか?」
「アイツがろくに世間も知らない尻拭いをしているだけだ。外交は綺麗事では済まない、時には武力で外的に立ち向かう必要がある。それをアイツが放棄しているから私が戦っているにすぎない」
「それでは、自分から名乗っているのではないと……」
「私はそれほど戦闘狂ではない。残虐公爵というのはおそらくその外交相手の生き残りが私のことを嫌っているから言っているのだろう」
そうだったんだ、むしろ彼の方がよほど国王に相応しい。ハンスは優しいと思っていたけど、単に面倒ごとを嫌っていただけなのね。
「だが君のおかげでようやくアイツらの正体を掴むことができた、この国をあのバカに治めさせて内側から乗っ取ろうとしている。その黒幕がマルガレーテだった。それを君のことを襲った連中から吐かせ、証拠を見つけ出したのだ」
そういえば、マチルダはよく義母のマルガレーテと外に出かけていた。
それがこの国の内情を伝えるためだったとは。
「これでようやく動ける、君を見張っていたのは悪かった。だが、こうでもしないとアイツらの尻尾を掴めなかったからな」
え? ということは、私を助けてくれたのは偶然ではなかった……ということ?
「君を利用していたことは謝ろう。だが、君を傷つけるつもりはなかった」
そう言われたらもう許すしかないじゃないの。
でもそこからのレオンハルト様の行動は早かった。
「ハンス、お前は王に相応しくない。そこにいるマチルダは王妃どころか国に対する反逆者だ、そんな者を王妃にしようというお前は、その椅子に座る資格がない!」
「ええ? マチルダ、どういうことだよ!?」
「そんなことしらないわよ、ワタシが何をしたというの?」
そこに突き出されたのは、マチルダがミネルバを襲わせようとしていたチンピラ三人だった。
「コイツらが吐いた。お前が手引きしたとな」
「ウソよ、ウソ。ワタシこんな奴ら知らない!」
「もっと上手くやるべきだったな、お前のミスがマルガレーテの裏取引まで全部知られるきっかけになったのだからな」
そしてマルガレーテも衛兵に捕まり連れてこられた。
どうやら彼女の実家が首謀者であり、この国を乗っ取った後はマルガレーテが皇太后、マチルダを王妃としてハンスを操り人形にする計画だったらしい。
その後マルガレーテとマチルダは国外追放。ハンスは王子の地位を剥奪され幽閉。
そして……レオンハルト様が新国王になった。
「ミネルバ、どうだ? その椅子は?」
「それが、どうもあまりしっくりこなくて」
「そうか……」
そう言うとレオンハルト様が私を両手で抱き上げた。
「そ、そんな……恥ずかしいです」
「でも、これが一番しっくりくるんだろう?」
そう、あの初めて助けてもらった時に抱きかかえてもらった感触。
王妃の椅子なんてものより、この人の腕の中が一番落ち着く。
そして私は幸せな感触の中、ゆっくりと眠ってしまった。
でも、今度はきちんとあの人の顔が眠る前にはっきりと見えた……。
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