—咆哮
叫びは、もう声ではなかった。
あおいの口の中で、
何かが砕ける音がした。
歯だと理解したのは、
血の味が遅れて広がったからだ。
一本ではない。
連鎖的に、
噛み合うものすべてが耐えきれず、
粉砕されていく。
それでも、喉は震え続ける。
声帯が、意思とは無関係に振動を強める。
(やめて……)
思った瞬間、
叫びはさらに高くなった。
⸻
北村は、膝をついていた。
頭が、熱い。
内側から、押し広げられている。
思考を中継し、
周波数を合わせ、
複数の意識を束ねる――
その代償が、一気に来た。
頭蓋が、
縦方向に、ゆっくりと歪む。頭が…伸びている‼︎
皮膚が裂ける前に、
骨が悲鳴を上げる。
それでも北村は、
意識を切らなかった。
『……うぎぎぐ…あえっ!…まだだ』
声は、もう形を保っていない。
だが、確かに届いている。
⸻
通路の先で、
一人の能力者が限界を超えた。
遠隔操作。
扉を“開け切った”直後だった。
次の瞬間、
その身体が、内側から弾けた。
肉と骨と臓器が、
音を立てて飛び散る。
壁に張り付いたそれらは、
もはや誰のものか分からない。
ただ――
床に残った頭部だけが、
妙に穏やかな表情をしていた。
恐怖も、苦痛もない。
脳内で何かが誤作動し、
幸福だけを過剰に放出したような顔。
まるで絶頂を迎え、恍惚とした表情。
そのまま、
静かに動かなくなる。
⸻
施設の各所で、
同じことが起きていた。
能力を使った者から、壊れていく。
血を吐く者。
内臓を抑えながら崩れる者。
骨の形が変わり、
人ではないシルエットになる者。
爆散
それでも、
誰も止めなかった。
止まれなかった。
あおいの視界が、
赤く滲む。
歯のない口から、
まだ音が溢れている。
(生きたい)
その願いが、
あまりにも多くのものを壊していく。
それでも――
叫びは、止まらない。
施設全体が、
その悲鳴に共鳴し続けていた。
黒井は、モニターを見ていた。
波形が、狂っている。
ありえない振幅。
抑制フィールドが、内側から侵食されていく。
「……増幅している?」
違う。
増幅されているのは、
施設のほうだ。
被験者の能力が、
建物と“同期”している。
黒井は、初めて眉をひそめた。
「誰だ」
「誰が起点だ」
答えは、
もう分かっていたはずなのに。
施設のスタッフも例外ではなかった。
洗浄室にいた係員たちはとうに液状化して排水溝へと流れ去っていた。
壁に飲まれる係員
蛇の様な鉄筋に切り裂かれるスタッフ
この惨劇の一部始終を見ていた黒井はひとり
気がつくと拍手をして笑っていた。
「素晴らしい!!こんな…あぁ、あのひとにも観せてあげたかった…」




