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あおいの盲点  作者: 末紀世(まつきよ)


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6/6

—破城

洗浄室は、ただ身体を洗い流す場所ではなくなっていた。


あおいと北村にとって、

そこは唯一、意思が交わる場所だった。


高圧の水が降り注ぐ数十秒。

抑制フィールドが乱れ、

世界の輪郭が、わずかに緩む。


その隙間で、北村は言葉を送ってくる。


『昨日、確認した』

『三人、使える』


短い。

だが、意味は十分だった。


北村はテレパスだった。

距離は限られているが、

抑制が揺らぐ瞬間だけ、

複数人に同時に合図を送ることができる。


さらに、別の被験者。

意識を媒介に、

遠隔で物理的な干渉を起こせる者もいるという。


能力は、バラバラだ。

完成品ではない。

だが――

繋げば、形になる。



『君の能力は、破壊だ』


北村の声が、

水音の奥で震える。


『正確には、共振』

『対象を揺らして、壊す』


あおいは黙って聞いていた。


自分が叫ぶとき、

周囲の空間が歪む感覚。

建物が、音として悲鳴を上げる。


それが、答えだった。


『俺が周波数を合わせる』

『仲間が増幅する』

『一斉だ』


計画は、単純だった。


洗浄が始まる。

抑制が緩む。


その瞬間に、

北村が合図を送る。


そして――

あおいが、全力で叫ぶ。


結果は、誰にも分からない。


『成功すれば、壁は崩れる』

『失敗すれば……』


言葉は続かなかった。


未知の能力同士が共鳴する。

制御も、前例もない。


自爆。

精神の崩壊。

身体が耐えきれず、消える可能性もある。


それでも。


(戻りたい)


あおいは、強く思った。


あの街へ。

雑踏へ。

何も知らなかった、普通の生活へ。


何より――

ここにいるべきじゃない。



洗浄室。


いつもと同じ手順。

いつもと同じ水音。


だが、今日は違う。


心臓の鼓動が、

施設の低音と重なっていく。


『……今だ』


北村の合図が、

頭の中で弾けた。


同時に、

遠くで何かが“掴まれる”感覚。


見えない手が、

空間そのものを引き寄せる。


あおいは、息を吸った。


肺が、痛いほど膨らむ。


恐怖が、喉に絡みつく。


それでも――

叫んだ。


音にならないほどの、

原初の叫び。


次の瞬間、

世界が鳴った。


壁が、床が、天井が、

同じ周波数で震え出す。


コンクリートが、

柔らかく、波打つ。


内部の鉄筋が、

うねる。


施設全体が、

悲鳴を上げた。


警報が、意味を失って鳴り響く。


――その先は、

まだ誰も知らない。


だが、

もう後戻りはできなかった。


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