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あおいの盲点  作者: 末紀世(まつきよ)


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ー黒井

第1.5章


【黒井】


街は、よく出来ている。


黒井は交差点の向こうを見ながら、そう思った。

立川。人が多く、情報が多く、そして――目が多い。


信号機。

商業ビルの外壁。

コンビニの軒先。

ATM。

自動販売機の上。


監視カメラは、もはや設備ではない。

風景の一部だ。


黒井は右耳のインカムに指を添えた。


「映像、回せ」


『Aブロック、クリアです』


『B、群衆多し。だが問題ありません』


複数の声が、感情を削ぎ落とした音質で返ってくる。

どれも同じ訓練を受けた声だ。


黒井の視界には、

カメラ映像が断片的に重なっていた。


一つ一つは意味を持たない。

だが重ねれば、一人の人間の輪郭が浮かび上がる。


歩幅。

立ち止まる癖。

視線の揺れ。


「――いた」


黒井は呟いた。


映像の中の女。

ショートボブ。

ヘッドフォンを首にかけ、

周囲を気にしながら歩いている。


数分前。

飲み屋の前で、男が倒れた。


発作ではない。

事故でもない。


「記録は?」


『消去済みです。

 個人のSNS投稿も拡散前に処理しました』


「よし」


黒井はそれ以上、興味を示さなかった。

倒れた男はもう過去のデータだ。


重要なのは、

原因のほう。


女は駅に向かっている。

人混みの中に溶け込もうとしている。


無駄だ、と黒井は思う。


この街に、

見えない場所など存在しない。


「別働隊、配置につけ」


『了解』


『対象、進路変更。住宅街に入ります』


黒井はインカム越しに、

淡々と告げた。


「逃走行動だな」


声の向こうで、誰かが小さく息を整える音がした。


黒井は一瞬だけ、

モニターから目を離し、空を見上げた。


青い。

何も知らない色だ。


再び視線を戻す。


「――捕えろ」


命令は、それだけで十分だった。


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