ー街
あたし、あおい!多分、どこにでもいる普通の女の子。
あおいは、たぶん普通の女の子だった。
23歳。
都内のどこにでもいそうな、少し疲れた目をした女の子。
自分では「普通」だと思っているし、そう信じて生きてきた。
ただ一つだけ、
説明のつかない違和感を除けば。
立川の街を歩いていた。
休日の午後。人は多いが、どこか雑音のように流れていく。
飲み屋の呼び込みの男が声をかけてきた。
「ねえねえ、ちょっとだけ話聞かない?
今ならすぐ働けるよ」
無視して歩いた。
すると男は距離を詰めてきた。
馴れ馴れしく、息が近い。
「大丈夫大丈夫ぅ!簡単な仕事だからさ。
きみ、可愛いし、向いてるよ」
胸の奥が、ざらついた。
――やめて。
言葉にはならない。
でも、その瞬間あおいは男を見た。
睨んだ、というより
感情がそのまま視線になっただけだった。
男の顔が一瞬、歪んだ。
次の瞬間、
男は泡を吹いてその場に倒れた。
人が集まる。
誰かが叫ぶ。
スマホを向ける音。
あおいは、動けなかった。
心臓がうるさい。
息が浅い。
――私、今、何をした?
怖くなって、走った。
家に帰り、シャワーを浴び、
震える手でテレビをつけた。
ニュース。
天気。
スポーツ。
どこにも、さっきの話は出てこない。
事件になっていない。
それが、逆に怖かった。
スマホが震えた。
ショートメッセージ。
あなたを見ている。
差出人不明。
あおいは、声を出さずに泣いた。
これは偶然じゃない。
そう思った瞬間、
胸の奥で何かが冷たく固まった。
このまま一人でいるのは無理だ。
あおいは上着を掴み、
友達の愛の家へ向かうことにした。
愛なら、笑ってくれる。
大丈夫だって言ってくれる。
そう信じた。
駅を出て、
人通りの少ない道に入った時だった。
背後で、車のドアが開く音。
振り返る間もなく、
強い力で腕を掴まれた。
「静かに」
低い声。
もう一人、反対側から。
二人の男。
香水でも酒でもない、
無機質な匂いがした。
あおいは叫ぼうとした。
声が出る前に、
口を塞がれた。
視界が暗くなる。
最後に思ったのは、
あの男を見た瞬間と、同じ感覚だった。
――やっぱり、見られてた。




