第2章 小さな支えと、決定的な夜
本当に限界のとき、人は「助け」を大きな形では求められない。
叫ぶことも、泣きつくこともできず、ただ、かすかな何かに縋ろうとする。
その頃の私にとっての支えは、とても小さなものだった。
夫が淹れてくれた、何気ない一杯の飲み物。
「無理しなくていいよ」という、短い一言。
それだけで、世界が劇的に変わるわけじゃない。
それでも、その瞬間だけは、
「完全にひとりじゃないのかもしれない」
そう思えた。
だけど、鬱の波は容赦がなかった。
優しさに触れたあとほど、反動のように自己否定が強くなる。
「こんな自分が、支えられる資格なんてない」
「迷惑をかけているだけだ」
「いないほうが、楽になるはずだ」
感謝と罪悪感が、同時に押し寄せる。
支えは確かに存在するのに、それを受け取る器が、自分の中にない。
夜になると、思考はさらに濃くなる。
部屋の明かりを落とすと、心の奥に溜まっていたものが一気に浮かび上がる。
「もう、ここまでかもしれない」
その言葉が、はっきりと形を持って現れた夜だった。
怖さは、もうなかった。
代わりにあったのは、疲労と、諦めに近い感覚。
何も感じたくない。
何も考えたくない。
ただ、この状態が終わってほしい。
それが「死にたい」という言葉と、ほぼ同じ意味だと気づいても、
心は止まらなかった。
それでも、どこかで、ほんのわずかに踏みとどまっている自分がいた。
理由は分からない。
勇気でも、希望でもなかった。
ただ、
「まだ、何かが残っている気がする」
それだけだった。
その夜、私は生きることも、死ぬことも選べず、
ただ、時間が過ぎるのを待った。
眠れないまま迎えた朝。
相変わらず世界は重く、何も解決していなかった。
でも――
この夜を越えたことで、はっきりしたことが一つだけあった。
私は、もうひとりでは抱えきれない場所まで来てしまった、という事実だ。
それが、絶望の底だったのか、
それとも、助けに手を伸ばすための、ぎりぎりの地点だったのか。
その答えは、まだ分からなかった。
ただ確かなのは、
この苦しさを「気のせい」や「性格」の一言で片づけてはいけない、
そう思い始めていたことだった。
第2章は、そこで終わる。
希望は、まだ見えない。
でも、完全な暗闇でもなかった。




