第八話 ###「それでも、名前を呼ぶ」
夜の医務室。
灯りは落とされ、機械音だけが残っていた。
アリアは、ベッドのそばに座っている。
もう、何時間ここにいるのか、わからない。
「……リリィ先輩」
呼んでも、答えはない。
それでも、
アリアは手を離さなかった。
途切れかけた光
医師の声が、遠くから聞こえる。
「ギアとの同期が、ほぼゼロです」
「このままでは……」
言葉の続きを、
アリアは聞かなかった。
(だったら)
(私が、繋ぐ)
ひとつの選択
アリアは、胸元のペンダント――
アストラ・ギアの制御核に、触れる。
「教官に、怒られますね」
小さく笑って、
でも、目は真剣だった。
「でも……
今だけは、命令なんて聞けません」
祈りを、刃に
アリアは、リリィの手を両手で包む。
「先輩、聞いてください」
「私、怖いです」
「また、失うのが」
声が、震える。
「でも……それ以上に」
「先輩が、好きです」
その瞬間。
ペンダントが、淡く光った。
共鳴
空気が、揺れる。
医務室の窓の外で、
星が、ひとつ、瞬いた。
「……っ!」
リリィの指が、
はっきりと動いた。
「え……?」
機械音が、変わる。
共鳴率、急上昇。
「これは……
アストラ・ギアの完全共鳴……!?」
医師の驚いた声。
目覚め
リリィの睫毛が、震える。
ゆっくりと、
瞳が開いた。
「……ア、リア……?」
その声は、かすれていた。
「せん……ぱい……!」
アリアは、涙を堪えきれなかった。
触れ合う想い
「……ごめん」
リリィの声。
「守るって言って……
一人で、戦おうとした」
アリアは、首を振る。
「私も……
ちゃんと、言えなかった」
二人の手の間で、
光が静かに揺れている。
約束の続き
「ねえ、アリア」
「はい」
「……次は」
「一緒に、怖がろう」
アリアは、
小さく、でも確かに、笑った。
「はい」
夜明け
カーテン越しの光が、
二人を包む。
戦いは、まだ終わらない。
でも――
もう、独りじゃない。
奇跡は、
確かに、そこにあった。




