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第七話 ###「眠る君に、名前を呼ぶ」

医務室は、白すぎるほど白かった。


機械音だけが、

一定のリズムで鳴っている。


「……リリィ先輩」


返事は、ない。


ベッドに横たわるリリィは、

まるで眠っているだけのようだった。


でも、

その胸が上下するたびに、

アリアは少しだけ安心して、

同時に、胸が痛んだ。


何もできなかった手


アリアは、そっと椅子に座る。


リリィの手は、冷たい。


「……前は、あんなにあったかかったのに」


ぎゅっと、指を握る。


(守るって、言ったのに)


(一緒に戦うって、決めたのに)


喉の奥が、熱くなる。


独白


「先輩は……ずるいです」


小さな声。


「何も言わないまま、

全部、自分で抱えて……」


アリアは、目を伏せる。


「私、怖かったんです」


「隣に立てないかもしれないって」


「先輩にとって、

私は……重荷なんじゃないかって」


涙が、頬を伝う。


言えなかった言葉


「でも……」


アリアは、震える息を吐く。


「それでも、

先輩の隣がよかった」


「戦場じゃなくても」


「放課後でも」


「ただ……一緒に、空を見たかった」


指先が、

ほんのわずかに震えた気がした。


「……先輩?」


心臓が跳ねる。


でも、それは

機械の誤作動だった。


約束


「もし、目を覚ましたら……」


アリアは、額をベッドに預ける。


「もう、逃げません」


「怖いって、ちゃんと言います」


「好きだって……」


言葉が、止まる。


(まだ、言えない)


夜明け


カーテンの隙間から、

朝の光が差し込む。


看護師が、静かに言った。


「……容態は、変わっていません」


アリアは、頷く。


「私、ここにいます」


「先輩が……起きるまで」


その声は、

祈りのようだった。


眠る君へ


アリアは、

リリィの手を両手で包む。


「ねえ、先輩」


「星、見に行く約束……

まだ、果たしてないですよ」


「だから……」


「戻ってきてください」


白い部屋に、

小さな願いが、残った。


――その願いが、

届くかどうかは、まだわからない。

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