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第五話 ###「言葉にしたら、壊れそうで」

雨が降っていた。


訓練も中止になり、

学院はいつもより静かだった。


アリアは、リリィの部屋の前に立っている。

何度も、ノックしかけて――やめた。


(話さなきゃ……でも)


扉が、先に開いた。


「……アリア?」


リリィは驚いた顔で、

それから、少し困ったように視線を逸らす。


「何か、用?」


その距離が、

昨日よりも遠く感じた。


抑えていたもの


「先輩……私、邪魔ですか?」


唐突な言葉。


リリィの眉が、わずかに動く。


「どうして、そんなこと……」


「模擬戦の時、

セラ先輩と一緒の方が、

ずっと――」


言葉が、喉で詰まる。


「ずっと、強そうでした」


沈黙が落ちる。


「……それを、言いに来たの?」


リリィの声は、冷えていた。


ぶつかる本音


「私は!」


アリアは、思わず声を上げた。


「先輩の隣に立ちたいだけなんです!

守られるだけじゃなくて……

一緒に、戦いたい!」


リリィは唇を噛む。


「……それが、危険だって言ってるの」


「どうしてですか!」


「失いたくないから!」


リリィの声が、

初めて強く揺れた。


明かされる恐怖


「前の戦線で、

……相棒を失った」


静かな告白。


「私の判断が遅れたせいで」


アリアの息が止まる。


「だから、あなたを前に出したくない」


「それは……優しさですか?」


アリアは、震える声で言った。


「それとも、逃げですか?」


リリィの目が、大きく見開かれる。


すれ違う心


「……今日は、帰って」


「先輩」


「お願い」


その言葉に、

アリアは何も言えなくなった。


廊下に出た瞬間、

涙が落ちた。


(好きだから……怖いんだ)


離れた夜


同じ雨音を聞きながら。


アリアは布団の中で、

拳を握る。


リリィは窓辺で、

濡れたガラスを見つめていた。


(傷つけた)


(離した)


二人とも、眠れなかった。


次の朝


雨は上がっていた。


だが、空はまだ曇っている。


「天城アリア」


教官の声。


「緊急出撃準備。

全員、集合」


リリィとアリアは、

視線を合わせないまま、

同じ方向へ歩き出す。


――まだ、言えていない言葉を抱えたまま。

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