第四話 ###「その距離に、名前はまだない」
朝の訓練場は、いつもより騒がしかった。
「転入生?」
「しかも上級生クラスに即編入って……」
アリアは、人だかりの中心を見つめた。
銀色に近い金髪。
自信に満ちた立ち姿。
――強い。
「紹介するわ。
二年生、鷹宮セラ。
対ノクス戦線からの転属よ」
教官の声が響く。
セラは軽く肩をすくめ、視線を巡らせ――
そして、リリィで止まった。
「……へえ。
あなたが月白リリィ」
リリィの表情が、わずかに硬くなる。
刺さる言葉
模擬戦。
ペア編成は――
「月白リリィ、鷹宮セラ。前衛」
「天城アリア、後衛支援」
アリアの胸が、ちくりと痛んだ。
(……隣に、いない)
セラは戦いながら笑う。
「噂通りね。動き、綺麗」
「……無駄口は控えて」
「冷たいなあ。
相棒になるなら、もう少し心を開いて?」
そのやり取りを、
アリアは後ろから見ていた。
取り残された想い
戦闘終了後。
「すごかったです、先輩……」
思わずそう言うと、
リリィは一瞬、言葉に詰まった。
「……ごめん。
ちゃんと見ててあげられなかった」
その時、セラが割って入る。
「ねえ、あなたが噂の一年生?」
「は、はい」
セラはアリアを上から下まで見て、にやっと笑う。
「なるほど。
リリィが気にかけるわけだ」
アリアの心臓が跳ねる。
「でも――」
セラはリリィの方を見た。
「戦場では、情は邪魔よ?」
沈黙。
リリィは、何も言い返さなかった。
すれ違い
その夜。
寮の廊下。
「先輩……」
呼び止めても、
リリィは足を止めない。
「今日は、疲れてる」
それだけ言って、
扉が閉まる。
一人残された廊下で、
アリアは拳を握った。
(私……足手まとい?)
屋上の星空
眠れずに向かった屋上。
そこに、先客がいた。
「やっぱり来た」
セラだった。
「あなた、不安そうな顔してる」
「……関係ないです」
「あるわ」
セラは夜空を見上げる。
「リリィは強い。
でも、一人で戦おうとする癖がある」
「……」
「あなたがそばにいると、
彼女、少し弱くなる」
その言葉は、刃みたいに鋭かった。
「でもね」
セラは続ける。
「その弱さを、
強さに変えられるのも――
あなただけかもしれない」
小さな決意
部屋に戻る前。
アリアは星を見上げた。
(逃げない)
(隣に立つって、決めたんだから)
扉の向こうで、
リリィもまた、天井を見つめていた。
同じ夜空を思いながら。
想いは、まだ言葉にならない。
でも確かに、
二人の間に――熱を帯び始めていた。




