第三話 ###「放課後、世界は二人になる」
昼下がりの中庭。
噴水の音が、静かに響いていた。
「……天城」
名前を呼ばれて、アリアは振り返る。
「月白先輩」
制服姿のリリィは、戦場とは違って少しだけ柔らかい表情をしていた。
「午後の自主訓練、一緒にどう?」
その一言に、
アリアの胸がきゅっと鳴った。
「は、はい!」
静かな訓練
訓練場は、放課後の光に包まれていた。
「構えが少し高い。
こう……力を抜いて」
リリィが、後ろからアリアの腕を取る。
距離が、近い。
リリィの指先の温度が、
制服越しに伝わってくる。
「……近いです」
「集中して」
そう言いながら、
リリィの声の方が少し揺れていた。
(先輩も……緊張してる?)
何でもない会話
休憩時間。
自販機の前。
「アリアは、どうして戦うの?」
不意に、リリィが聞いた。
アリアは少し考えてから答える。
「誰かが泣くのを見るのが、嫌なんです。
……先輩も、そうですか?」
リリィは目を伏せた。
「私は……失うのが、怖い」
短い沈黙。
でも、その沈黙は、
不思議と心地よかった。
夕暮れ
訓練が終わるころ、
空はオレンジ色に染まっていた。
「今日、ありがとう」
「こちらこそ」
二人並んで、空を見上げる。
「ねえ、アリア」
「はい?」
「昨日の戦い……
あなたが前に出たとき、
本当に怖かった」
アリアは、そっとリリィを見る。
「でも……嬉しかった?」
リリィは、少し間を置いて、頷いた。
「……守られたって、感じた」
触れ合う距離
風が吹く。
リリィの髪が揺れて、アリアの頬に触れた。
反射的に、アリアが手を伸ばす。
「……触っても、いいですか?」
「……だめって言ったら?」
「やめます」
しばらくして、
リリィは小さく息を吐いた。
「……いい」
アリアの指が、
リリィの髪にそっと触れる。
ただ、それだけ。
でも、世界が静かになる。
夜
寮へ戻る途中。
「アリア」
「はい」
「次の戦いも……一緒に行こう」
アリアは、迷わず答えた。
「もちろんです」
二人の影が、
長く、並んで伸びていた。
放課後。
世界は、確かに二人だけだった。




