第二話 ###「この手を離さないで」
朝の光が、セラフィム女学院の白い廊下を照らしていた。
「天城アリア、一年A組。
本日より――正式リリィとして登録されます」
その言葉に、教室がざわめいた。
「え、昨日の夜の子?」
「共鳴暴走寸前だったって……」
アリアは小さく背筋を伸ばした。
視線の先、窓際に座る月白リリィが、こちらを見ている。
――あの人が、いる。
それだけで、胸の奥が温かくなった。
初陣命令
放課後。
出撃ブリーフィングルーム。
「ノクス小型群、湾岸区域に出現」
「今回は実戦形式。実力不足は即退避」
教官の声が冷たく響く。
「月白リリィ、前衛指揮」
「天城アリア、後衛支援」
名前が並んだ瞬間、
リリィが一瞬だけ、驚いた顔をした。
「……大丈夫?」
出撃前、リリィはアリアに小声で言った。
「はい。……でも、もし足を引っ張ったら」
「その時は――私が守る」
迷いのない声。
アリアの心臓が強く跳ねた。
戦場
海霧に包まれた埠頭。
ノクスの影が、複数、蠢いている。
「来るわよ。陣形、崩さないで!」
リリィが駆ける。
双剣が舞い、闇を切り裂く。
アリアは槍を構え、祈るように光を集めた。
(お願い……届いて)
その瞬間、ノクスの一体が
リリィの死角から跳躍した。
「リリィ先輩!!」
反射的に、アリアは前に出た。
槍が――歌う。
「アストラ・ギア、共鳴率上昇!?」
光の壁が生まれ、
ノクスの爪を弾き返した。
リリィが振り返る。
「……無茶するなって言ったでしょ」
でも、その声は震えていた。
二人だけの戦い
ノクスの群れが、二人を包囲する。
「数が多い……撤退命令が出る前に」
「いいえ」
アリアは、一歩前に出る。
「私、わかりました。
この槍――リリィ先輩が近くにいると、強くなる」
沈黙。
リリィは、そっとアリアの手を取った。
「……離れないで」
その瞬間、
二人のギアが、完全共鳴を起こす。
星と月の光が重なり、
ノクスは一体、また一体と消えていった。
帰還
作戦成功。
医務室の前で、
リリィはアリアに言った。
「あなたは、危なっかしい」
「……嫌ですか?」
「いいえ」
リリィは、少しだけ微笑む。
「守りたいって思ったのは……初めて」
アリアは、胸が熱くなるのを感じた。
夜。
同じ星空の下。
二人の運命は、
もう――交わってしまった。




