第16話 ###「沈黙の星槍、覚醒前夜」
1.動かない武器
格納庫の奥。
封鎖区画。
星槍は、
作業台の上に横たわっていた。
光なし。
共鳴反応、ゼロ。
「……完全に沈黙してる」
整備主任が、低く呟く。
「武器としては、
もう終わりだ」
2.失われたはずのもの
アリアは、
ガラス越しに星槍を見つめる。
(終わり……?)
胸が、痛む。
でも――
不思議と、恐怖はなかった。
代わりに、
静かな確信がある。
(この子は……
まだ、ここにいる)
3.禁忌の仮説
「……一つだけ、
可能性がある」
主任は、
声を潜めた。
「この星槍、
“使用者単独”での起動を
前提にしていない」
アリアとリリィは、
同時に顔を上げる。
「どういう……意味ですか?」
4.共鳴は一人じゃない
「この槍は――
“祈り”と“刃”
二つの精神を必要とする」
静寂。
「共鳴者が一人で
すべてを背負おうとすると、
逆に拒絶する」
それは、
今までの常識を
根底から覆す言葉だった。
5.答え合わせ
アリアの心臓が、
強く打つ。
(だから……
私一人じゃ、歌えなかった)
リリィは、
拳を握りしめる。
(だから、
あの時――)
6.繋がる視線
二人は、
自然と向き合った。
言葉はいらない。
「……私が、
刃になるって言った」
リリィが、
静かに言う。
「それ、本気だ」
アリアの喉が、
震える。
「……私、
頼っていいんですか?」
7.拒まれない距離
リリィは、
迷わず頷いた。
「最初から、
そのつもりだ」
手を、伸ばす。
アリアは、
その手を取った。
触れた瞬間――
微かな温度が、重なる。
8.予兆
――カチ。
格納庫の照明が、
一瞬だけ揺れた。
「今の……?」
モニターに、
数値が走る。
共鳴率:再上昇
「……反応してる?」
星槍の表面に、
淡い光が走った。
9.拒絶ではない沈黙
星槍は、
起動しない。
だが――
完全な沈黙でもない。
それは、
待っているようだった。
「覚醒条件は……
まだ足りない」
主任は、
息を呑む。
「おそらく、
精神リンクの確立」
10.夜の屋上
その夜。
二人は、
寮の屋上に立っていた。
星空。
冷たい風。
「……怖いです」
アリアは、
正直に言った。
「繋がるのが」
11.それでも手を離さない
リリィは、
アリアの手を握る。
「私も、怖い」
少し、
笑って。
「でも――
君となら、
壊れてもいい」
アリアは、
息を止めた。
12.前夜
遠くで、
警報が鳴る。
新たなヒュージ反応。
そして、
星槍が――
はっきりと光った。
まだ、刃ではない。
だが、
確かに目覚め始めている。
ラスト
アリアは、
星空を見上げる。
「……明日、
歌えなくても」
リリィは、
隣に立つ。
「その時は、
私が叫ぶ」
二人の影が、
夜に溶ける。
それは、
覚醒前夜。




