第13話 ###「星槍《ルミナス・ノート》の真名」
1.戦後の静寂
戦場は、ようやく静まり返っていた。
ヒュージの残骸が、
霧の中でゆっくりと霧散していく。
「……撤収命令」
無線の声が、遠い。
天城アリアは、
その場に立ち尽くしていた。
星槍は、
いつもより――重い。
2.呼び出し
「天城アリア。
月白リリィ。
至急、研究区画へ」
教官の声は、
拒否を許さない調子だった。
リリィは、
アリアの手首にそっと触れる。
「大丈夫?」
「……分かりません」
正直な答えだった。
3.封印された記録
研究区画・最深部。
壁一面に浮かぶ、
膨大なデータ。
「あなたの星槍について、
隠していたことがある」
主任研究官が言う。
「《ルミナス・ノート》は、
正式名称ではない」
アリアの胸が、
ざわりと揺れた。
4.真名
ホログラムが切り替わる。
そこに表示された文字。
《アストラ・アリア》
――星を導く祈りの記録装置。
「CHARMではない……?」
リリィが、息を呑む。
「正確には、
**“歌唱者を媒介に進化する兵装”**だ」
研究官は続ける。
「使い手の感情、記憶、
そして“絆”を記録し、
次の戦いへと反映する」
5.代償
「だが、問題がある」
空気が、張り詰める。
「進化の代償として、
歌唱者の精神負荷は、
通常の数倍に達する」
「最悪の場合――」
言葉が、途切れる。
「人格の崩壊、
あるいは……
“祈りそのもの”の消失」
アリアは、
唇を噛んだ。
(だから、あの時……)
6.選ばれた理由
「なぜ、私が……」
アリアの声は、震えていた。
研究官は、
静かに答える。
「あなたは、
“自分のために歌わない”」
「誰かを想う感情が、
異常なまでに純粋だ」
「それが――
《アストラ・アリア》を
目覚めさせた」
リリィは、
思わず叫ぶ。
「そんなの……
兵器に選ばれる理由じゃない!」
7.月白の拒絶
「アリアは、
実験材料じゃない!」
双剣の柄を握りしめ、
リリィは研究官を睨む。
「この子が壊れるなら、
私は――」
「リリィ先輩」
アリアが、
そっと呼ぶ。
振り向いたその瞳は、
不思議と静かだった。
8.アリアの決意
「……私、
歌うのが怖くなりました」
正直な言葉。
「でも」
一歩、前に出る。
「誰かを守れるなら」
「それが、
私の祈りなら」
星槍が、
淡く共鳴する。
「……逃げません」
9.絆という答え
リリィは、
しばらく黙っていた。
そして――
アリアの肩を、強く抱く。
「……勝手に決めないで」
「壊れる時は、
一緒に止める」
低く、確かな声。
「あなたの祈りは、
私が守る」
アリアの目から、
一粒、涙が落ちた。
「……ありがとうございます」
ラスト
研究区画を出た二人。
夜空には、
かすかな星。
星槍は、
静かに眠っている。
だが――
その歌は、確かに待っていた。
次に共鳴する“絆”を。




