第12話 ###「祈りが、折れる音」
1.作戦前夜
作戦室の照明は、夜明け前の空みたいに青白かった。
ホログラムに映るのは、
特異個体ヒュージ〈オルフェウス級〉。
「歌唱マギへの干渉能力を確認」
「星槍保持者は、優先的に狙われます」
教官の言葉に、空気が沈む。
天城アリアは、静かに槍を握った。
星槍が、微かに応える。
(……大丈夫)
(私が、歌えば)
その横で、月白リリィは黙っていた。
2.引き止める声
格納庫。
出撃準備の最中、
リリィはアリアの腕を掴んだ。
「天城」
「……先輩?」
「今回、あなたは前に出すぎないで」
アリアは、きょとんとする。
「でも、共鳴率は私が一番で――」
「分かってる!」
リリィの声が、わずかに震えた。
「だからこそ言ってるのよ」
一拍。
「あなたは、自分を削る癖がある」
アリアは、少し困ったように笑った。
「……誰かが傷つくより、いいです」
その言葉が、
リリィの胸を強く締めつけた。
(それを、許せないのに)
3.戦場、逆さまの旋律
夜明け。
霧に包まれた市街地。
「第2小隊、展開完了!」
ヒュージが姿を現す。
黒く、歪み、
音のない咆哮を放つ存在。
アリアは息を吸い、歌い始めた。
――しかし。
音が、ズレた。
「……っ?」
《ルミナス・ノート》の光が、
不規則に揺れる。
「まさか……」
リリィが目を見開く。
「歌唱マギが、
逆位相で干渉されてる!?」
4.喰われる祈り
ヒュージが、
アリアの“歌”に反応する。
旋律が、
引き裂かれる感覚。
「……あ……」
声が、出ない。
星槍の光が、
急速に失われていく。
(歌えない)
(どうして……)
その瞬間――
パキン
乾いた音。
それは、武器の音じゃない。
アリア自身の中で、
何かが折れた音だった。
5.崩れ落ちる背中
「天城!」
リリィが叫ぶ。
アリアの膝が、
地面につく。
「ごめ……なさい」
「歌え、なくて……」
ヒュージの影が、迫る。
次の瞬間。
6.月白、前に出る
「――下がって!」
リリィが、
双剣を構える。
「今度は、私が守る」
剣が閃く。
ヒュージの一撃を、
真正面から受け止める。
「バディでしょ!」
息を切らしながら、
リリィは叫ぶ。
「一人で祈るなんて、
許さない!」
7.戻る“音”
剣と衝撃がぶつかる中。
アリアの胸に、
微かな感覚が戻る。
それは、歌じゃない。
(……先輩の、想い)
必死に前に立つ背中。
自分を庇うための、刃。
(私の祈りは――)
(一人じゃ、なかった)
8.二人分の共鳴
アリアは、
震える手で槍を握り直す。
「……祈りは」
小さく、確かに。
「絆で、刃になる」
《ルミナス・ノート》が、再点灯する。
今度は――
リリィの動きに、完全に同期して。
「……来るわよ、天城」
「はい、先輩!」
星槍と双剣。
光が、重なった。
ラスト
ヒュージは、
まだ倒れていない。
だが。
戦場の空気は、
確実に変わっていた。
アリアは、
リリィの背中を見る。
(独りじゃ、ない)
リリィは、
小さく微笑んだ。
「……だから、言ったでしょ」
「あなたは、
守られる側でもいい」
夜明けの光が、
二人を照らす。
戦いは、
まだ続く。
だが――
祈りは、もう折れなかった。




