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ステータスALL Sの受験生が170キロで高校野球を終わらせた件  作者: 白峰レイ
第2章 大学編

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第31話「放課後、ヒーローはいなかった」

放課後。


校庭の端で、白石は一人で座っていた。

以前と同じベンチ。

でも、そこに夏目はいない。


遠くで、野球をしている声がする。

笑い声。

ボールがミットに収まる音。


白石は、そちらを見なかった。


少しして、夏目がやって来る。

息を切らしながら、ベンチの前に立った。


「……ごめん。今日、ちょっと遅くなった」


白石は首を振る。


「ううん。大丈夫」


そう答えながら、

ほんの一瞬だけ、夏目の後ろを見た。


誰かに見られていないか、

無意識に確かめる癖が、白石にもついていた。


最近、二人は校庭ではあまり一緒にいない。

代わりに、公園。

それも、人のいない時間帯。


夏目が、自然とそうしていることを、

白石は気づいていた。


でも、何も言わなかった。


言えなかった。


「今日さ」


白石が、少しだけ声を弾ませる。


「新しいステージ、クリアしたんだ」


「マジで?」


「うん。ちょっと難しかったけど」


白石はゲーム機を取り出し、画面を見せる。

夏目は覗き込みながら、素直に感心した。


「すげえな。俺、そこ無理だった」


白石は、嬉しそうに笑った。


その笑顔を見て、

夏目の胸の奥が、少しだけ痛んだ。


――俺、嘘ついてるな。


そんな感覚が、一瞬よぎる。


本当は、無理じゃない。

やれば、できる。


でも、白石が“得意なもの”を、

自分が簡単に越えてしまうのが、

なぜか怖かった。


「ねえ」


白石が言う。


「今度、キャッチボールしよ」


夏目は、一拍置いた。


「……ああ。今度な」


「いつ?」


「……ちょっと、用事があってさ」


白石は頷いた。


「そっか」


それ以上、聞かなかった。


聞いてしまうと、

何かが壊れる気がしたから。


 


数日後。


廊下で、白石は誰かに肩をぶつけられた。


「邪魔」


短い言葉。


振り返ると、

クラスの男子が、笑いながら去っていく。


「また一人?」


「ヒーロー来ないの?」


周囲から、くすくすと声が漏れる。


白石は、俯いた。


言い返さない。

言い返せない。


その様子を、少し離れた場所で、夏目は見ていた。


胸が、ざわつく。


助けに行けばいい。

声をかければいい。


それだけで済む話なのに。


足が、動かない。


――見られたくない。


その感情が、先に来てしまう。


自分でも、情けないと思った。

それでも、体は正直だった。



放課後。


白石の家。


ゲームをしながら、

白石はふと口にした。


「最近さ」


「うん?」


「みんな、俺のこと見て笑うんだ」


夏目は、コントローラーを握ったまま黙った。


「前から、そうだったけど……」


白石は、少し間を置いて続ける。


「孝太郎といる時は、あんまり言われなかった」


それは、責める言い方じゃなかった。

事実を、淡々と話しているだけだった。


夏目は、画面を見つめたまま答える。


「……気のせいだろ」


自分でも、分かっていた。


嘘だ。


白石も、たぶん分かっている。


でも、白石はそれ以上何も言わなかった。


その沈黙が、

二人の間に、見えない壁を作った。


 


帰り道。


夏目は、一人で歩きながら考える。


――俺、何してるんだ。


白石といる時間は、楽しい。

本当に、楽しい。


でも、それと同時に、

どこかで逃げている。


誰かに見られないように。

自分が傷つかないように。


白石は、ヒーローだと言った。

でも、今の自分は、

ヒーローから一番遠い場所にいる。


その夜。


夏目は、布団の中で目を閉じながら、

ふと思った。


――驚かせよう。


白石を。


自分がすごいことを見せれば、

全部、元に戻る気がした。


言葉じゃなく、

行動で。


その考えが、

後に取り返しのつかない分岐になることを、

この時の夏目は、まだ知らない。

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