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ステータスALL Sの受験生が170キロで高校野球を終わらせた件  作者: 白峰レイ
第2章 大学編

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第1話「値踏みのマウンド」

大学リーグ戦、開幕カード。

帝京中央大学のグラウンドには、甲子園とはまるで質の違う熱が漂っていた。


歓声はある。

スタンドも埋まっている。

だが、そこにあるのは「湧き上がる熱」ではなく、「値踏みする空気」だった。


ネット裏に並ぶスーツ姿。

腕を組み、無言でマウンドを見つめる男たち。

レーダーガン、メモ帳、タブレット。

誰一人として声を上げない。


――夏目孝太郎を見るための場。


それが、この試合の正体だった。


夏目はマウンドに立ち、土を軽く踏み固める。

甲子園と比べて、土の感触が違う。

柔らかく、均一で、整えられすぎている。


背番号は1。

理由を聞く必要はなかった。


この大学に、

彼以上の投手はいない。


捕手が腰を落とす。

三年の正捕手。

経験も実績もある。

体格はいいが、甲子園で佐藤が受けていた姿を思えば、どこか頼りなく見える。


「……最初は軽くでいい」


捕手が言う。

命令ではない。

確認でもない。


前提条件としての言葉だった。


「ここは大学だ。

 無理する必要はねぇ」


夏目は、何も言わずに頷く。


セットポジションに入る。

指先に、いつもの感覚はある。

力も、迷いもない。


――一球目。


腕を振り切った瞬間、

空気が裂けた。


ボールは一直線に捕手のミットへ――

だが、次の瞬間。


弾かれた。


乾いた音。

ミットが大きく跳ね、

白球がバックネットに突き刺さる。


スタンドが、遅れてざわつく。


レーダーガンが反応する。


168km/h。


数字が表示された瞬間、

ネット裏のスーツたちが、一斉に視線を落とした。


捕手が立ち上がる。

マスク越しでも分かるほど、顔が引き締まっていた。


「……悪いな」


短く、強い声。


「でも、ここまでの球速は必要ねぇ。

 捕る方の負担が大きすぎる」


捕手はミットを叩き、

言葉を続ける。


「大学野球だぞ。

 そんな球、必要ない」


夏目は黙って聞いていた。


「抑えられるだろ。

 155も出りゃ十分だ」


一拍。


「あとな、怪我されたら困るんだよ。

 お前は“商品”なんだから」


商品。


その単語が、グラウンドに落ちる。

だが、誰も拾わない。


ベンチを見ると、

監督が静かに頷いていた。


「球速を落とせ。

 コントロールと変化球でいけ」


正論だった。

大学野球としては、完璧な判断。


夏目は一度だけ息を吐き、

次の球から、腕の振りを抑えた。


155。

158。


捕手のミットに、今度はきれいに収まる。


「……そう、それでいい」


三者凡退。

球数は少なく、無駄がない。


ベンチからは、満足そうな声が上がる。


「安定してるな」

「完成度が高い」

「さすが甲子園の完全試合男だ」


誰もが褒めている。

誰もが正しい。


なのに。


マウンドを降りる途中、

夏目の胸の奥には、何も残らなかった。


ふと、三塁側を見る。


――ネクストバッターズサークル。


そこに、ひとり立っている男がいた。


4番・レフト 九条 昂。


バットを肩に担ぎ、

無言で、夏目を見ている。


喜びも、怒りもない。

ただ、冷えた視線。


まるで、

「もう答えは出た」と言うように。


九条はゆっくりと視線を外し、

素振りを一度だけした。


夏目は、理由の分からない違和感を覚えながら、

ベンチへと歩いていった。


――まだ何も起きていない。

だが、

確実に何かが始まっていた。

 

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