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ステータスALL Sの受験生が170キロで高校野球を終わらせた件  作者: 白峰レイ
第1章 高校編

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第65話 「夏の終わりに、乾杯」

打ち上げは、学校近くの古い焼肉屋だった。


座敷。

換気が弱くて、煙が天井に溜まる。

壁には色あせたサインと、「食べ放題は九十分」の紙。


――完璧だった。


「よし!!全員そろったな!!」


中村が立ち上がる。

すでに声がでかい。


「開明高校野球部!!

 甲子園優勝!!

 ……と、完全試合のオマケ付き!!」


「オマケ言うな!!」と佐藤が即ツッコむ。


「主役だろ!!」

「主役は夏目だろ!!」


一斉に視線が集まる。


夏目は、すでに白米を食っていた。


「……肉、まだ?」


「乾杯前だぞ!!」

「自由すぎるだろ!!」


伊藤が笑いながら、グラスを配る。


「まあまあ。ほら、夏目くんも一旦置いて」


夏目は箸を止めた。


中村が咳払いをして、グラスを掲げる。


「改めて――

 この夏、最高だった!!

 怪物がいて、

 キャッチャーが壊れかけて、

甲子園にいって、

 全員生きて帰ってきた!!」


「壊れかけ言うな!!」

「事実だろ!!」


笑い声。


「だから!!

 今は難しいこと考えんな!!

 今日は――」


中村は一瞬だけ言葉を探してから、叫んだ。


「高校野球、終わり!!

 お疲れ様!!

 乾杯!!」


「「「乾杯!!!」」」


グラスがぶつかる音。

一気に、緊張がほどけた。


――肉が焼ける。

――煙が上がる。

――笑い声が跳ねる。


佐藤が一番最初に泣いた。


「……いや、マジでさ」

「野球部、入ってよかった……」


「まだ言う!?」

「何回目だよそれ!!」


「だってよ!!」

「甲子園なんて普通、夢物語だぜ!?」


「確かにな!!」

「俺、強豪校行っても試合出れてないわ!」

山田が笑いながら言う。


「中村先輩が野球部作って、

夏目先輩が投げて、

佐藤先輩が命削りながら捕って……

奇跡っすよ!!」


「マジでそれな!!」

「1人でもかけてたら試合すらできなかった!!」


夏目は肉をひっくり返しながら言った。


「……野球、ちょっと面白かった」


「なんで“ちょっと”なんだよ!?」


伊藤がふと、真面目な声になる。


「でも……本当に」

「みんな、よく走り切ったわね」


一瞬、静かになる。


甲子園。

怪我。

プレッシャー。

終わり。


全部が、少しずつ胸に戻ってくる。


中村が、わざと明るく言った。


「なーに湿っぽくなってんだよ!!」

「ほら!!肉焼け肉!!」


「焦げてる!!」

「お前が喋りすぎなんだよ!!」


笑いが戻る。


しばらくして。


中村が、夏目を見る。


「なあ」


「……なに」


「正直さ」

「甲子園終わって、どう?」


夏目は少し考えた。


皿の上の肉。

煙。

仲間。


全部を見てから、答える。


「……疲れた」


「正直だな!!」


「でも」


一拍。


「楽しかった」


一瞬、誰も喋らなかった。


伊藤が、ゆっくり聞く。


「……楽しかった?」


「うん」


夏目は淡々と言う。


「投げるだけだった」

「考えなくてよかった」


佐藤が鼻を鳴らす。


「……それ、褒めてねぇだろ」


中村は笑った。


「でもさ」

「それでいいんだよ」


「高校野球なんて」

「考える前に終わるもんだ」


「だから――」


中村はグラスを持ち上げた。


「ここまで来れた」


全員が、黙って頷く。


「……次は、どうすんだ」


誰かが、ぽつりと聞いた。


進路。

別れ。

次の場所。


夏目は、まだ答えなかった。


その代わり、立ち上がる。


「……追加の白米、頼んでいい?」


「今それ!?」


「いいから頼め!!」

「優勝校だぞ!!」


店員が走る。


笑いが起きる。


その笑いの中で、

誰もが分かっていた。


――ここが、区切りだ。


高校野球は、終わった。

でも、終わりきってはいない。


--


店を出る頃には、夜だった。


風が、少しだけ涼しい。


中村が、歩きながら言う。


「……なあ夏目」


「ん」


「お前さ」

「絶対、また投げるだろ」


夏目は、即答しなかった。


でも。


「……多分」


その一言で、十分だった。


笑って、泣いて、騒いで。

肩を叩いて、背中を押して。


それが、

開明高校野球部の、最後の夜だった。



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