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ステータスALL Sの受験生が170キロで高校野球を終わらせた件  作者: 白峰レイ
第1章 高校編

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第56話「上書き」

二球目。


夏目は一度だけ指をわずかにずらし、

回転方向を変えた。


右のストレート。

だがさっきとは違う“上昇感”がある。


九条はタイミングを合わせにいく。

完璧なスイング。


……のはずだった。


打った瞬間、

九条はほんのわずかだけ目を見開く。


(左にズレた……!?)


打球が高く上がる。

レフトに守っていた山田のグラブへ。


山田は一歩も動かずに受け止めた。


九条は一塁に走りながら、

息を吐くように笑う。


(浮く方向が変わる……そうきたか。

 左とは逆の世界線だな、夏目)


ベンチへ戻るとき、

その背中にスタンドのざわめきが追いかけてきた。


夏目はマウンドで軽く息を吐き、

右腕の感触を確かめた。


(……いける)


左を見切られた相手には、右で上書きする。

夏目の思考はいつも淡々としている。


ただ、実際に球を受けた佐藤は違った。


(右の夏目……えぐ……

 てか九条、普通に合わせてきてんの怖すぎるんだけど)


中村は一塁ミットを握りながら頭を抱えていた。


(え、九条のスイングスピードえぐっ!?

 俺の方に飛んできてたら死んでたんじゃ……)


夏目も九条も、

どこか楽しそうに次の対決を待っている。


完全に“別の舞台”で殴り合っている二人を見て、

伊藤は静かにスコアをつけながら思った。


(これ……決勝より決勝じゃない)



8回、東陵の攻撃はあっさり終わった。

夏目の右腕は、更に進化していた。


打者たちは戻ってくるなり座り込む。


(……無理)

(球が消えたようにしか見えん……)

(あの10番、もう人間じゃないだろ……)


夏目は息一つ乱さないままベンチへ下がる。


しかし、スコアは依然として 0ー1。

左から右に切り替えて流れは掴んだが、

得点はまだ動かない。



八回裏、開明の攻撃。


ノーアウトランナー2塁


グラウンドへ出る前、

佐藤は一度だけ深呼吸した。


(よし……俺が返す。夏目がしっかり投げてんだから、ここで打たなきゃ意味ねぇ)


打席へ向かう背中に、

中村が何か囁きながら叩いた。


「頼むぞキャッチャー。

 正直、俺は自信がねえ!!」


「お前、ホントに4番か!?」


そして佐藤は、

初球を迷わず叩いた。


芯に当たったボールはレフトの頭を超えた。

フェンス直撃のタイムリーツーベース。


スタンドが揺れた。


(返した……!)


ランナーが帰り、

スコアは 1ー1。


夏目がベンチで軽く頷く。


(……ナイス)


佐藤はその視線を見ただけで、

背中に電気が走るような気持ちになった。


(なんだよ……その“お前なら打つと思ってた”みたいな顔!!

 ムカつくけど嬉しいんだよ!!)


ベンチ全員が佐藤の名前を叫び、

ここから一気に傾けるぞという空気になる――が、


追加点は入らない。

夏目が敬遠で塁に出るも、その後あっさり三者凡退。


夏目はため息をついた。


(……ほんとに攻撃力ないな)


伊藤は軽く笑う。


(夏目君、そこは言わないのよ)



【 9回表 】


夏目は再び右腕で打者をねじ伏せる。


一人、

また一人、

また一人。


九条まで早く回したい東陵は必死に粘るも、

球が速すぎて“粘る”という行為が成立しない。


全て三者凡退。


この紙一重の攻防は延長へと突入する。


(次だ。

 右の夏目を“全部”見せてもらうぞ)


夏目もまた、無表情のまま視線を向ける。


(来いよ)


甲子園の空気が震えた。


延長10回


二人の“最高点”がぶつかる。


――続く。


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