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ステータスALL Sの受験生が170キロで高校野球を終わらせた件  作者: 白峰レイ
第1章 高校編

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第53話「初対決」

2回表


東陵の四番。

その名をコールされた瞬間、

スタンドのざわつきがひとつ上の段階へ跳ね上がった。


九条昂。

世代最強打者と噂されるスラッガー。


ゆっくりとバットを担ぎ、打席へ歩く。

その姿には派手さはない。

ただ、空気だけが変わる。


「……あいつだけ雰囲気違くね?」

「夏目と似た匂いするんだけど……」


中村も、グラブを構えたまま喉を鳴らした。


(やべぇ……なんか、怖っ……)


伊藤の手もわずかに止まる。


(……この子、見えてる。夏目くんの球……“最初から見ようとしてる”)


夏目は左腕をゆっくり上げた。

表情はいつも通り。

ただ、意識は明らかに変わっていた。


(こいつ……普通じゃない)


初球。

外角へ逃げるジャイロスライダー。

これで様子を見るつもりだった。


しかし九条は――

まったく動かなかった。


微動すらしない。

まるで「これは見送る球」と最初から決めていたかのように。


見逃し。


球場がざわつく。


(動かないのか……今の速さで)


二球目。

ジャイロフォーク。

沈む軌道。

普段ならほぼ空振り。


それを九条は――

膝をわずかに緩めるだけで回避した。


伊藤の胸がざわつく。


(……読まれてる? 初見で?)


三球目。

外角高め、ジャイロボール。

伸びながら僅かに沈む球。


九条は、静かに前へ踏み込んだ。


その踏み込みが美しかった。

無駄がなく、体の軸が1mmもブレない。


音が遅れてくる。


カンッ。


強振じゃない。

狙いすました“角度”。

レフトの頭上へ、高く伸びていく。


夏目はほんの一瞬だけ目を細めた。


(上手い……)


だが、最後の伸びが足りなかった。


レフト山田が後ろに下がり——

パシン、とグラブを立てて掴んだ。


レフトフライ。


観客がどよめく。


「え、夏目の左で……打球が上がった……?」

「今までのバッターとレベルが違うぞ……」


夏目はマウンドでゆっくり息を吐く。


(……次は打たれるかもしれない)


伊藤はスコアブックの横に、小さくメモを残した。


(“タイミング合わせてる” )


中村は、帰ってくる佐藤の顔を見てギョッとする。


「……なぁ佐藤、どうだった?」


佐藤は肩で息をしながら答えた。


「やばいぞあいつ……軸が全然ブレねぇ……

 夏目の左、打てるやつ……マジで初めて見た……」


九条は淡々とベンチへ戻る。

仲間に声をかけられても、ほとんど答えない。


ただ――

バットのグリップを握り直しながら、小さくつぶやいた。


(……あと少しで届く)


それは、夏目だけが聞こえる距離ではなかった。

でも、不思議と風がその言葉を拾い上げた気がした。


夏目は一度だけベンチ方向へ視線を向けた。


(……面倒なやつだな)


だが、その表情は。

ほんの少しだけ――楽しそうだった。


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