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ステータスALL Sの受験生が170キロで高校野球を終わらせた件  作者: 白峰レイ
第1章 高校編

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第52話「怪物を測る怪物」

一回表。

東陵高校の攻撃。


開明のベンチに、独特の緊張が走った。


中村は一塁ミットを握りながら、

(……胃が痛ぇ……俺ほんとにここ立つのか……)

と、何度目かわからない深呼吸をしていた。


そんな彼の背中を、山田が気楽そうに叩く。


「中村先輩、顔色死んでますよ。大丈夫っすか?」


「……お前ら、よくこんな場所で普通に息できんな……」


「いや俺は無理っすよ?」


軽口を叩くだけで、中村の喉は少し楽になった。


その横では伊藤がスコアブックを整え、

落ち着いた声で短く言う。


「中村くん、大丈夫。

 夏目くんの隣に立つだけで価値あるんだから」


「……それプレッシャーじゃね?」


伊藤は小さく笑った。

その笑顔が、中村の体をほんの少し軽くした。


ベンチの空気が温まったところで、

マウンドに立つ夏目は、相変わらず“温まる気配がない”。


ただ淡々と、左腕をゆっくり回しているだけ。


九条はベンチで、

腕を組んだまま視線を逸らさず、夏目をじっと見ていた。


何もしゃべらないのに、圧だけが伝わる。

あの視線だけで、スタンドがざわついていた。


(……なんだあいつ)

夏目の胸に、言葉にならないざらつきが残る。


審判の声が響いた。


「プレイボール!!」


球場の空気が一気に張り詰めた。


一回表の先頭。

バッターボックスに入った東陵の一番は、

緊張でバットが震えているのがわかる。


夏目は無表情のまま、セットポジションに入った。


一球目。

ジャイロ。

外角いっぱい。


ミットが爆ぜる音だけが、球場に響く。


見逃し。


二球目。

ジャイロフォーク。

消える。


空振り。


三球目。

ジャイロスライダー。

バッターから外に逃げながら落ちる。


バットが空を切る。


三球三振。

球場のざわめきは、恐怖と興奮の中間にあった。


中村は、まだ一球も触れていないミットを見つめた。

(……守備って……こんな暇なのおかしいよな?)


二番も。

三番も。

すべて同じ。


左腕だけで、すでに“別競技”だった。


だが。


沈黙した東陵ベンチで、

ただ一人だけ、表情を変えない男がいた。


九条。


バットを膝の上に置き、

まるで夏目の三者三振を“採点”するように見ていた。


喜びも、焦りもない。


ただ静かに、冷たく観察している。


伊藤は九条をスコアの端に小さく書き込みながら、

小声でつぶやく。


「……嫌なタイプね、ああいうの」


夏目は汗ひとつかいていない。

だが胸の奥にだけ、微かなざらつきが残る。


(……気持ち悪い視線だな)


観客は夏目の無双に沸いていたが、

伊藤は気づいていた。


――九条は、夏目の“リズム”をじっと見ていた。


――球の出どころ、握り、足の上がる角度、呼吸の間隔。

 すべてを観察している目だった。


(……あれ、多分。やばい)


スコアブックに線を引きながら、

伊藤は胸の奥がじっと冷えるのを感じた。


そしてベンチ前。

中村は中村で、違う意味で冷えていた。


「……おい。俺、明日筋肉痛になるんじゃなくて、

 “何もしてないのに筋肉痛になる”パターンじゃね?」


チームメイトが笑い転げる。


「お前、守備範囲ゼロじゃん。動けよ」


「飛んでこねぇんだよ!!!」


笑いがベンチにこぼれ、

ほんの少しだけ、チームの空気が軽くなる。


しかし九条はまだ、夏目を観察していた。


その視線だけが――

試合全体の温度を、じわりと変えていった。


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